無垢な小悪魔、エタン
お久しぶりです。続きです。
とりあえず、エタンに着替えてる所を見られる訳にはいかない。
「えーと、エタン。ごめんね?ボク着替えを見られるの少し恥ずかしいかな〜…なんて…」
「そんなの、女の子同士だから気にしねぇです!」
にぱぁっと可愛らしく笑うエタン。
(で、ですよねーーー……。)
エレナは心の中で涙を流した。
(くっ、仕方ない、こうなったら!)
「あっ、何か物音が向こうでしたかも!エタン、見てきてくれないかなぁ!?」
「んぅ?物音でごぜぇます?エタンには聞こえてなかったですが…わかりやした!」
ぱたぱた、とエタンがドアに近づいた瞬間、バサッと天界騎士団の制服を脱いですぐさまメイド服を着込む。
「エレナさん、やっぱり何もねーですよ…?って、うわぁ!?いつの間に着替えてるですか!?か、か、可愛い〜〜〜♡」
「あ、あぁ、うん…ありがとうね…。」
にごぉ……っとした歪んだ笑い方しか出来なかった。
「あ、忘れ物です!…はい、カチューシャ♡」
すちゃ、耳にくすぐったい感触が走るとエタンの手でメイドカチューシャが付けられたのだと分かった。
「ふぁぁ…完璧に可愛いですぜ、エレナさん!さぁさ、鏡の前に立ってくだせえ!」
「うわ、ちょっと!?」
ぐいぐい、と姿見の前に追いやられる。そこにはフリルたっぷりの装飾で彩られた銀髪の見た目は少女がやつれた顔をして立っていた。
(ボク、男なのに……男の子なのに……。)
「ん?どうしたですか?顔色が良くねぇですけど…。具合いが悪いのですか?」
「う、ううん!大丈夫!ありがとう、エタン。」
パッと笑顔を作ってエタンに微笑みかけるエレナ。それを見て安心したのか、それならばとエタンは張り切って言う。
「じゃあ、さっそくお掃除のやり方を教えるから頑張りましょうぜ!」
ものすごく不本意な衣装を着させられてるけど、エタンの元気いっぱいな笑顔には癒される。
「うん!よろしくお願いします!」
場所を移動して、エタンと一緒に連れてこられたのは大回廊だった。
「ここを雑巾がけ致しやす!」
「雑巾!?モップじゃなくて!?」
「エタンは雑巾が好きです〜。3、4枚はダメになりやすけどピカピカになりやすぜ!これからはエレナさんも一緒にお掃除してくれるから早く終わります〜。」
大きなバケツに水をたっぷり貯めてエタンはウキウキしながら喋っているが、エレナは戦々恐々だ。この、長い長い幅もある場所を拭き掃除すると思うと今から腕の筋肉痛を覚悟しておいた方がいいだろう。
「あ、なんなら競走致しやすか?ゲームみたいで楽しいと思いますぜ?」
それならば多少はこの作業も楽しんで出来るかもしれない。
「うん、それいいね!じゃあボクがよーいドンって言ったらやろっか。」
「わかりやした!」
「よーい…」
「どぉん!」
しゅたたたたたたた!!
「……え?」
エタンにスタートの合図を横取りされて先をこされる。
「えへへっ、こーゆーのってやったもん勝ちですぜ!」
にひ、とお転婆な笑みを浮かべながら楽しそうに雑巾がけをしている。
「も、もう!エタン!?ボク怒ったからね!?」
「きゃはははっ!怖ぇ怖ぇです〜♡」
それから先はまるで追いかけっこをするかのように2人で雑巾がけレースをした。
~数時間後~
「は、はぁ…ボク、もうダメ…。」
「エタンも、限界がきやがりました…。」
少しはしゃぎすぎて2人とも、もうへとへとだった。
「汗かいたから、お風呂に入りてぇです…。」
「そうだね…。」
「あ!エレナさん、一緒に入りやすか?」
「え”?」
こんな可愛い子に『お風呂に一緒に入る?』なんて、お誘いを受けるなんて普通の男の子ならば嬉し恥ずかし、といった所だろう。……自分が女の子のような容姿をしていて、誘っている子は自分を女の子だと思い込んでない限り。
(さて、どうしようか……適当な理由をつけて逃げるのが正解だと思うけど、どんな理由をつければいいんだ?)
「難しい顔して、どうしやした?エレナさん。」
「うん…。」
「もしかして、そんなに汗が気持ち悪いでごぜぇますか?」
「うん…。」
「じゃあ、さっそくお風呂に入りに行きやしょう!」
「うん……。」
なんとか打開策を練っている間に、エタンにずるずると使用人用の浴場へと連れてこられたエレナなのであった…。
「え、ここは?」
「使用人が使うお風呂場でごぜぇますよ?ささ、早く行きやしょう。」
「いやいや、ちょっと待って!ボク、やっぱり…」
「御託はいいからさっさと入りやがれ!です!」
痺れを切らしたエタンに女性用の浴場に押し込められてしまう。
(お、終わった……いや、もう無理矢理逃げてしまえば!)
ダッ!と出入口に駆け込もうとすると、どぉん!!と勢いよく顔の真横の壁を殴られた。
「ひぇっ!?」
「そんなに、エタンとお風呂に入るのが嫌でございやすか……。」
悲しげな眼をうるうるしながら小柄な少女は問いかける。その様子はある意味可愛いのだけど、少女からの強烈な壁ドンは脅しにすら感じた。
「は、入り、ます……。」
カタカタと震えながら言うエレナ。完全に敗北者である。対してエタンはにこっと笑い、
「じゃあ、お風呂入りやしょう!今なら貸し切りですぜ!」
うきうき、るんるん、エレナを引っ張って脱衣場へ向かった。
(せめて、前だけは隠して、男だってバレないようにしなきゃ…。)
エレナは決死の覚悟を決めた。
脱衣場で服を脱ぐのはロッカーの扉を使って上手く体を隠せた。いよいよ、エレナの身を守るのは体の前面に当てているタオル一枚となっている。
「エレナさん、タオル外さないんでございやすか?」
「あ、うん、恥ずかしいから…。」
「ふふ、エレナさんは恥ずかしがり屋さんなんでございやすね!」
エレナは自分のタオルもそうだけど、あまりにも隠さないエタンの裸体を見ないようにするのに必死だ。
「エレナさん!良かったらお背中流しやすよ!」
「ふぇ!?いや、大丈夫……」
「いーからいーから♪他の子とも洗いっこしてるから得意ですぜ!」
エタンは手際よく椅子を並べるとエレナを自分の前に座らせて、ぎゅむぎゅむ、とスポンジにボディソープをつけながら握りこんでゆく。
「じゃ、いきやすよ〜?」
「うぅ、お手柔らかに…」
ごしごし、と優しすぎない力加減でスポンジが背中を滑ってゆく。気持ちいい。
「痛くねーですか、エレナさん。」
「ん、気持ちいいよ…。」
「エレナさんの肌、すごく綺麗ですね…あ、流しやすよ〜。」
ざぱーん。
背中にお湯をかけられて僅かに身震いする。
「ふぅ、ありがとうエタン。じゃあ、今度はお返ししよっか?」
「え!?エタンは大丈夫でございやすよ!」
珍しくエタンが狼狽えているのが面白いので少し悪戯心が湧いてきた。
「まぁまぁ、そう言わずに。」
「う、う〜…。優しくしてくだせぇ?」
「はい、わかりました。」
エタンからスポンジを受け取って、ボディソープを足してから泡立ててゆく。たっぷりの泡でエタンの白い背中を加減しながら擦る。
「んっ、ん〜、」
「大丈夫?痛い?」
「そ、そうじゃなくて、人にされると、くすぐってぇでございやす…!」
押し殺した、必死な声に何かいけない事をしているような錯覚に陥ったエレナは頬を赤らめてしまう。
「ご、ごめんね、もう流すよ?」
「そうしてくだせえ…。」
ざぱーん。
エタンの背中を流してあげると気持ちよさそうにぷるぷると首を振っている。
「ふふ、エタン、わんちゃんみたい。」
「む。それは聞き捨てならねーです。」
「そろそろあがろうか?」
というか、あがらせてほしい。
「わかりやした…。」
「うん、ありがとう、エタン」
そうして2人揃って浴場を後にした。
「もう夜だねぇ。」
「そうでございやすねぇ。あ、エレナさんはエタンの隣の部屋です。」
「ありがとう。」
「それと…。エタンなら、お風呂場が空いてる時間知っていやすので、遠慮なく聞いてくだせえ?ではおやすみなさい。」
それはどういう意味か、聞く前にエタンの部屋の扉が閉められてしまったので、エレナは口をパクパクさせるしかなかった。
(今夜はもう、寝よう……)
きちんと小悪魔な所もあるエタンちゃんが好きです。