天使のボクは魔王の小姓見習い
お久しぶりです。ちみちみ書いておりました。メアさんのいじわるお姉さんなセリフ楽しいです。スピノザがログアウトしました。
魔王城の謁見室からスピノザが姿を消し、エレナの教育係に就任したメアと二人きり。何か考え込むように頬に手を添えて目を閉じていたメアは、ふいにクスッと笑うと口を開いた。
「えーと…エレナ、だったわよね?」
「はい…。」
「じゃあ、エレナ。とりあえず…この背中の翼はぁ…此処では隠しておくのね。さもないと天使達に恨みを持っている奴らに何をされるか、わからないわ。」
いつの間にかすごく近くに来ていたメアに翼をつつつ〜っと撫でられる。
「ひぇっ!?わ、わかりました!しまいます、しまいます!」
その艶めかしすぎる撫で方にゾワっとしたエレナは、早々に翼を小さくして最終的にそれは背中の中央部に翼型のタトゥーとなり、肌と一体になった。
天使は、翼を使わない時はタトゥーとして背中にしまえるのだ。これは堕天した天使も同様で、魔族の中にいる堕天使という設定にすれば他の魔王城の住人には怪しまれないだろう。
「あらぁん、エレナったら敏感なのね。」
「メアさんが変な触り方するからですー!」
からかわれたエレナは耳まで真っ赤になって抗議した。
「うふふふふ、面白いわぁ〜。」
エレナ、すっかりメアのおもちゃである。
「そうねぇ、いきなり魔王の側近レベルのお仕事は難しいでしょうから、まずは見習いって事で簡単なお仕事を覚えましょうか。」
「はい……もう、どうにでもしてください…。
」
「その前に〜羽をしまったのは良いとして、その服は天界騎士団のものよね?ちょっと…いえ、かなりまずいわ。代わりのものを持って来させるから、そこら辺にでも座っててねぇ。」
そう言い残すとエレナを置いてメアはコツコツとピンヒールを鳴らしながらどこかへ行ってしまった。
「はぁ…なんなんだ。」
ため息をついて床にぺたん、と座りこむ。1人になった途端に敵陣ともいえる魔王城に囚われの身となった事が思い知らされて、一気に不安になる。
エレナには、小さい頃から両親は居ないが、代わりに大切に育ててくれた祖母がいる。少女趣味の可愛らしいものが大好きな、それを教育にも取り入れてしまうような少し変わった祖母だったが、エレナはそんな祖母が大好きだ。
天界騎士団に務める事が決まった時は涙目になりながら抱きしめてくれた。
それがたった半年前の事。自分が急に居なくなってどれほど心配をかけてしまっているだろうか、そもそも自分がさらわれてどのくらい経つのか、と考えるだけで胸が痛い。
「会いたいよ…おばあ様…。」
俯いていると瞳が潤んで、ダメだ、このままじゃ、泣いてしまうーーー。
「あのっ!お着替えをお持ちしやした!」
もう少しで涙が落ちる、という所で場違いな位、可愛らしい声が頭上から降って来た。
「んん?泣きべそかいていやがるのですか?」
エレナのうるうるとした目を見つめて背の低い女の子は問いかけた。
「もしかして、お腹すいてやがりますか?このクッキー食べたら、きっと元気になるですよー!」
ニコニコしながらメイド服のポケットから猫の形のクッキーを差し出してきた。
此処に来て、初めて人に優しくされた。それだけでエレナの胸に込み上げるものがあり、両目からぽろり、ぽろりと涙が溢れ出した。
「…っう、くぅ…う、うわあああん!」
もう、限界だった。目の前の女の子は慌てて、持っていたトランクを床に置くとポケットから次々にお菓子を取り出す。
「泣く程クッキーが嫌でごぜえますか!?えと、えと、キャンディ食べますか?」
「ううぅっ…!ひっ、ええぇん……。」
「これも気に入らねーですか?えーと、チョコ!チョコレートはどうでごぜえます?」
「うっ……ひっく…。」
エレナがようやく落ち着きを取り戻した時、女の子は棒付きのチョコレートを差し出しながら不安げにエレナの様子を見守っていた。
「ありがとう…。」
「どういたしましてでごぜーます!」
にっ!と笑った女の子から棒付きチョコレートを貰うと、悪魔の羽根の形のチョコレートをじっと見て、多少複雑な気持ちになりながらぱくっと口に含んだ。
形は気に入らないけどトロリと溶ける甘さがエレナの心を癒していく。味は上々だ。
「落ち着いてきやがりましたか?訳は話さなくても大丈夫ですから、元気だしてくだせえ!」
「うん、ありがとう…ボクはエレナ。君は?」
「エタンはエタンセルってゆーです!長いからエタンって呼んでくだせえ。」
ぴょこっ!と手を上げながらエタンは名乗りをあげる。口は悪いけれど仕草がいちいち幼げで可愛らしい。
「うん、よろしくねエタン。」
クスッと笑いながらエタンに手を差し出した。
「はい!ところで、魔王様の小姓…?でございやしたっけ?が、謁見室にいるから着替えを持っていけとメア様から命令されて服を持ってきやした。」
エレナの手をぶんぶん握り返しながら彼女は床に置いてあるトランクを指さした。
「あー…………。」
嫌な予感がする。とても。ものすごく。
「それにしても天界騎士団も変な拷問しやがるんですねー。自分達の制服着せるなんて。」
「へ?」
「メア様が言ってやがりました。あ!だから泣いていやがったんですか?」
「あ、うん…そう…かな?」
もう、そういうことにしておこう。騎士団のみんな、ごめんなさい…。
「でも、もう大丈夫!さぁさぁ早く着替えやしょう!」
ピンク色のツーサイドアップをぴょんぴょんさせながらエタンはガバッとトランクを開けて衣装を取り出す。
ふわっ。
と出てきたのはシルエットはメイド服。…しかもミニ。
黒を貴重としているその服は襟元、袖口、スカートの裾にたっぷりのレースが使われている。付属しているのはエプロンドレスにエタンが衣装と一緒につまんでいるのはフリルたっぷりのカチューシャだ。
「うわぁ〜!かわいーでごぜーます!」
いかにも女の子が喜びそうなデザインにエタンは目を輝かせている。
「ミニのメイド服は初めて見やがりました!いいなぁ、エタンも小姓になりてーです…。」
エタンが着ているのはロングスカートの装飾も最小限に抑えたメイド服だ。
できれば自分もそちらの方がいい…。いや、進んで女装したい訳ではなく。そちらの方がマシという意味で。
「あ、あはは…。」
苦笑いしながらエレナは問う。
「それ、衣装違いじゃないのかな?」
「うんにゃ、確かにコレでごぜえますよ。そーだ、質問された時用にメア様から手紙を預かっていやした。えーと…あったあった、どうぞ!」
エタンから渡されたメアからの手紙を読むと、
『この手紙を見たということは衣装も見たということね。気付いているとは思うけれど、デザインが間違っていることはないわよ〜。ふふ、可愛いでしょ。魔王様きっとお喜びになるわぁ。じゃあ、お仕事頑張ってね♡
PS.貴方が魔王城で着れるのはそのメイド服とスペアだけよ。文句は受け付けないから♡』
全く理解できない……。
「どうしやしたか?着ねーんですか?」
「えーと…。」
「エレナさんならきっと似合いやす!エタン、見てえです〜!」
エタンから熱烈な視線を向けられて、エレナはこれも神の与えたもう試練だと己に言い聞かせ、覚悟を決めた。
「着る…着ます。そのメイド服。」
「わーい!」
魔王の小姓(見習い)、第一の試練はメイド服を着る事となった。
新キャラ登場です。エタンは火属性の名前にしたいなぁ。と思いまして、見た目がちびっ子なのでイタリア語で「火の粉」の「エタンセル」から名付けました。元気なアホの子です。よろしくお願いしますm(*_ _)m