カオスな魔王城
2話目です。エレナが男の娘だと分かった魔王側は一体どうするのでしょうか……。
「それで?どうなさるんですか、魔王様?」
落ち着きを取り戻したメアがスピノザに向けて語りかけた。
「男…こいつが男……むぅ……。」
スピノザは未だに信じられないと言わんばかりにエレナを眺めながら唸っている。
「あの…用が無いならもう帰ってよろしいですか…?」
流石にいたたまれなくなったエレナはポソポソと呟いた。…正直、我が身を凝視する魔王の視線に嫌気がさしてきていた。もう勘弁して欲しい。微妙な空気の中、突然メアが閃いたとばかりに口を開いた。
「そういえば…異世界のある島国の王は美少年を秘書として侍らすそうですよ。確か、『小姓』というのだったかしら?」
「何!?」
スピノザはバッ!と視線をエレナからメアへと移す。
「この間、私に闘いを挑んできた愚かな転生者が言っていた気がします。…もう私のお腹の中ですけれど♪」
その転生者はさぞ美味しかったのだろうか、メアは満足気に舌をチロチロと出してみせた。
「ちょっと待って下さい!スピノザさんが連れて来たかったのは花嫁ですよね!?ボク、男だし…世継ぎとかも産めませんよ?」
このままでは魔王城に居続ける流れになりそうだったのでエレナは必死に意見する。
「困ります!ボクには天使としての仕事があるんです!最近特に魔王軍と人間の軍の戦争が多くて魂の回収や案内に人手不足なのに……。」
エレナは眉毛を八の字にして、大きな透き通るサファイア色の両目を涙目にしながら、
「お願いです!ボクを天界に帰してください!!」
玉座に座っているスピノザを見上げて懇願した。
「…………。」
そんなエレナを見つめて、こくり、とスピノザの喉が鳴る。
「…あーららぁ。」
メアは残念な子達を見るように2人を見つめて呟いた。
「これは『据え膳』ってやつね……。」
やれやれ、と息をつく。
「…帰さん。」
ボソッとスピノザが呟いた。
「え……?」
「愚かなる天使よ。貴様を花嫁にするつもりだったが気が変わった。メアの言う異世界の風習を取り入れて小姓として俺に仕えよ。」
「い、嫌ですよ!」
「そうか…ならば」
スピノザは、にぃ、と笑い
「魂を1万人分献上すれば天界に帰してやる。」
エレナに向けて無慈悲に言い放った。
「そんな…出来る訳ない……。」
悔しげに下唇を噛み、項垂れるしかなかった。
「諦めはついたか?では今日から、
そうだな…メア、お前がそいつの教育係をやれ。」
「かしこまりました。魔王様。」
メアはスピノザに深く頭を垂れた。
「俺の世話が出来るようになった頃にまた会ってやる。」
そう言い残すとマントを翻してスピノザは暗闇へと姿を溶け込ませてゆく。
暗闇と同じ色をした漆黒の短髪の中に生えている白磁の角をへし折ってやらんばかりにエレナは悔しげに睨みつけて、そしてもう帰れないかもしれない、と落胆した。
スピノザの姿が完全に闇に溶けた時、メアが話かけてきた。
「良かったわね、あなた。」
「何が良いんですか!ボクは帰れないかもしれなくなってしまったんですよ…?」
「そうじゃなくて、殺されなくて、よ。」
「!」
思わず怒鳴ってしまったが、メアの言う通りだ。魔王スピノザが探していたのは花嫁であり、すなわち女性でないと意味がない。いくら女の子の様な見た目をしているとはいえ、エレナの性別は男だ。…男らしく育てられていれば拉致されることも無かったと思うが。
「それだけ可愛く育てて下さったおばあ様に感謝するのね。そのお陰で、貴方は少なくとも生きているのだから。」
「……はい。」
どうにも腑に落ちないが一応返事を返した。エレナはこれからの自分がどうなるのか、魔王の小姓という奇妙な状況に一抹の不安どころではないのであった。
2話目で魔王スピノザのざっくりした外見を出せて良かったです。各キャラの外見は文章に混ぜるのに苦戦しますが、楽しいです。