イベントスキット7篝の憂鬱
《灯篝》
誰かが言った。
「貴女、梶君に纏わり付き過ぎではなくて?」
誰かが言った。
「アンタ、何私と梶君の邪魔してくれてんの」
違う。梶は私のものだ。
梶は貴女たちには靡かない。
「へぇ、じゃあ証明してみてよ。その剣振るうのに邪魔な長い髪と周りの男連中のお供になってる胸で梶くんを誘惑でも、さ」
違う、違う違う違うッ!!
「出来ないの?なら貴女に梶君と一緒に居る資格なんて無い」
「ーーッ!?」
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「…酷い夢だ」
久方ぶりの悪夢だった。
集まりに一悶着あってから三日が過ぎ私達はサマタグを後にして次なる冒険に備えて都会へと向かう事にした。
団長の杉原清人は途中に立ち寄った村などで興行…即興の大道芸をして路銀を稼いでいた。
中でも清人によるジャックの火の輪くぐりは人気でジャックは恨めしそうにしていたが六人分の食費を何とか賄える程には稼げていた。
「ん?どないしたん。えらく顔色が悪いの?」
「…ちょっと疲れただけだ。そう大した事ではない。心配は無用だ」
「ならええんやけど…無理せんと早めに言うてな?」
別に悪夢如きに弱音を吐きそうになった、だなんて言える訳もなく。今日とて憂鬱な一日を過ごすのだろうと何となく黄昏てみる。
思えば妙な事になったものだ。
梶を好きになって、梶を殺して。
鬼に成り下がったと思えば今度は一に告白され、今では一の嫁。
更に言えば訳の分からない変人、奇人達の旅団に知らずのうちに加わっていて前線の一翼を担っている訳だ。
その過程で団長の痴話喧嘩が巻き起こって…それから悪夢を見始めた。
多分、愛ってやつに誘発されたんだと思う。
私も疑問を抱きつつあるのだ。
私は、果たしてこれで良いのか。
女性としての幸せはこの先にあるのか。
この集まりは何処に向かうのか。
…私は本当に一を愛せているのか。
所帯を持って、子供を産んで、子供を育てていずれ朽ちる。それがハザミの女性の定型。私もそうなるのだとばかり思っていた。
だから、旅なんて思いもしなかった。
それに不安もある。
さっきも出したが子供の事だ。
もし旅の途中で子供が出来てしまったら?
果たして一は旅団を抜けて私の方に来てくれるのか。…私を捨てて旅を続けるのか。
「………」
私にとって、団長は、アニは、唯は、ジャックは、そして凩は一体何なんだろう。
胸が痛む。
「…やっほー。篝、体調崩しちゃった?」
「気にしなくても大丈夫だ」
「あら、随分と強気ね。その分なら心配するだけ損したかしら」
アニと唯がやって来た。
この頃アニと唯は大抵二人一組で行動している。
と、言うのも物資調達兼買い出しがこの二人だからだ。最初は私も驚いたがあの一件以来二人の仲はそれなりではあるが良好なようで時折二人で仲良くお散歩をする姿が見えるようになった。
「お陰様でな。貴女こそ心配するなんて珍しいな。明日は雨あられが吹くかもしれないな」
「同じパーティーだし形式上は心配くらいするわよ失礼ね」
肩を竦めて挑発的に振る舞う。…イラつくが慣れたと言えばまぁ慣れたものだ。
「…唯、ツンデレ。実は結構心配だったくせに」
「……清人の仲間なんだから倒れたりしたら困るのよ。しっかりして頂戴」
「やっぱりツンデレ」
姦しい二人組も買い出しに行きいよいよ宿に一人残されてしまった。
「…狩りでもするとしようか」
身支度を整えて宿を発つ。
今私たちが滞在しているのはそれこそハザミから程近い川沿いのちょっとした町だ。豊かな自然がちょっぴり眩しい。
今だに人混みが慣れない分、こう言う静かな場所は却って好ましい。
「ふぅ、やっぱり外に出た方がマシだな。室内だと嫌な事を思い出してしまう」
…いずれ私は自分なりの答えを出す。
ただ、それが今でなければならないと誰が言った。
旅を通して自分の幸せについて見つめなおしてみるのも悪くはない。
梶ならきっと『それも一興』と豪快に笑ってみせるだろう。
「…案外、旅も悪くはないかもしれないな」
柄に無く私はそんな事を思うのだった。




