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幻想旅団Brave and Pumpkin【UE】  作者: 睦月スバル
糸を紡ぎ、弑せや乙女
88/225

とくべつになりたい3ー1

『サマタグ』。墓守り達の住む人口千三百人程度の過疎化した村だ。

周囲を深い森と川で囲まれ、唯一の出入り口を試練の洞窟により隔てられている陸の孤島。

ここでは墓守りと呼ばれる一族が一子相伝の秘術、結界を絶えず伝えていると噂されている。

尤も、その秘術を私は見たことがないが。


異界見聞録ー第八節よりー



■■■■■■■


《杉原清人》


俺の杖がゴブリンの欠けたナイフを弾き飛ばす。


「一、篝!スイッチ!」


すかさず追撃に二人が前に突出して戦線を伸ばしていく。

一と篝の二人で無双出来るキルゾーンは半径二メートルが限界だ。

だが、そこに割り込んだら却って俺が怪我をしかねない。


「唯ッ!」


「はいはい、クリフォ・シェリダン」


唯がゴブリンに広範囲幻覚のデバフを付与する。これで被弾率は更に低下する、一と篝が回復の為に交代…スイッチしても俺単騎で攻撃を捌ききって戦線が保持出来る。


「清人そろそろ交代や!ちょっと数が多過ぎて幻覚見ててもキツい!」


「把握だ!霧使うから後ろに走れ!!ジャックはヒールを先行して展開!!アニはジャックのアシスト!!」


「わかったかな!『パンプキン・ヒール』」


身体が緑に光り輝く。

『パンプキンヒール』の投下エフェクトを認めると矢継ぎ早に火を放つ。サクサクと効率良く回したいが為に俺もフル回転、魔素カルマの出し惜しみはしない。


「……っ!!」


加速アクセル』を起動して棺桶を構える。

『墓守りの服』の無限収納だが、前の収納とは違い、入れ口が広い代わりにデッドウェイトになる。


が、デッドウェイトを逆手に取って杖を使わずに棺桶で殴ると言う如何にも脳筋じみた短絡的な発想から晴れて無限収納はサブウェポンへと見事に変貌を遂げていた。


加速アクセル』の問題が操作性ならばある程度速度を殺して精密操作に特化出来た方がアドバンテージに繋がりやすい利点があるのに加えーー。


「轢き潰れろッ!第一魔素ファースト・カルマ噴射開始ッ!!」


ブースターの要領で敵目前で速度を変えれば敵は対応出来なくなるーー名付けて変速奇襲。

戦線が伸びてしまい補給が困難になるのが一応の難点だが、所詮とんずらを使ったバックステップ一つで踏み倒せるからデメリットにすらならない。


「からの…跳躍」


敵を轢いた後に棺桶を手放して棺桶の上から跳躍する。

唯の操る幻覚。霧の中に於いてこれ以上ない死角となる。


「そぉら、ナイフの刺し入れだ!」


上からナイフを投擲すると狙いを盛大に外した。しかし、飽くまで牽制。意識を別方向に向けさせたならそれだけでも重畳なのだ。


「立体機動」


ナイフを避けた事で生じたスペースにスキルで無理矢理潜り込み、陣取る。

ーーと言っても棺桶を盾代わりに使ってひたすらヘイトを稼ぐだけだが。


棺桶から二本の杖を取り出すとゴブリンを過剰に滅多打ちにする。

ゴブリンから苦悶の声が漏れるが狙いは正にそれ。


狙い通りのヘイトの集中。


殺気立ったゴブリンが一斉に俺を凝視する。

陣形も無く、囲まれていない状況下でヘイトを一身に受けた俺は。


「スイッチ!唯はデバフを引き続き頼む!」


加速アクセル』にて戦線を悠々と離脱して攻撃特化の侍ゴリラーズに再び場所を譲る。


「…中々疲れるのね、やっぱりスキルって万能じゃないみたい」


「そりゃあな。ジャック回復頼む」


「………」


ジャックに回復されている間、ずっとアニは俺を見ていた。ずっと。ずっと。


「アニもお疲れ、まだ戦闘は終わってないけどジャックが落とされなければ勝てる戦いだ。しっかり守ってくれて感謝してるよ」


「…ん。おふこーす…」


サマタグでの便利屋生活は案外順調に進んでいた。



■■■■■■■■



サマタグに到着こそしたが、『欠片』はジョイドが持っていてここには無い以上留まる必要性は無かったが、折角の旅なのだから観光位ならアリかと暫く滞在する事にした。


試練の洞窟の出口にモー太君達が手付かずの状態で止めてあり、聞けば司祭の一人息子ーージョイドが俺たちに渡すようにと念押ししたらしく無事に回収出来た。


それで観光などの恩返しを兼ねて害獣駆除、もといモンスター狩りのボランティアをジャックが提案し、実行に移す事になって今に至る。


因みに宿と飯付きだから厳密にはボランティアと言うよりは仕事に近いが。


やっぱり旅の途中に寄る村って浪漫があるものだ、なんて気楽に考えていた。



■■■■■■■


「ふぁー、やっぱり仕事終わりの温泉って至福やぁ」


「だな、飯付き、温泉付きの宿が使えるって良いよな…あ゛ーしみる」


俺と一とジャックは男湯に入っていた。どうにも仕草が一々おっさん臭い面子が集まっているからか弾けるような若さが行方不明である。


「あ、温泉卵出来たよー」


「おしっ!皿皿っと…んでお猪口に…どぶろくっ!!いやぁ、本当良いなぁ…」


「どぶろくってアルコール度数案外高くなかったか?前に野球拳した時にそれでノックアウトした気がするんだけど」


せやで、と陽気に返答される。既に仄かに酒の香りが湯気と共に漂い始めていた。


「まぁ、どぶろくは甘いし口当たりも良いさかい。ガバガバ、それこそウワバミみたいに飲めばそりゃ沈むわ…至福やぁ」


「せめて風呂から上がって酒盛りしないか?血圧とかで倒れたく無いしさ」


と言いながら温泉卵を掬って口に運ぶ。

まろやかな味だ。惜しむらくは醤油が掛かっていない事か。醤油が欲しくなる。


「つか、隣は女湯なんよな?」


「また覗きの計画か?辞めてくれよ、アニもいるし唯もいる、流石に俺も怒るぞ?」


「へいへい…でもあっちがどんなか気になるわなぁ…」



■■■■■■■


男性陣が酒と温泉でゆっくりしている一方でやはり女湯はギスギスしていた。

アニと篝は良いが問題はやはり唯だった。

アニにしてみれば恋敵でもあり、篝にしてみればお茶会する友人の恋路を阻む憎っくき敵でもあるのだ。会話が生まれる程互いに気を許している訳でも無く深刻な雰囲気が漂っている。


当の唯はそんな事を全く気にせずに自由気ままに寛ぎながらほぅと息を悠々と吐いている。

まるで、喧嘩するだけ無駄だし馬鹿らしいとでも言いたげな態度を一貫して崩さない。見上げたエンジョイ勢である。


「……」


「………」


「あなたたち、何固まってるのよ。折角の温泉なんだからゆっくりしようとか思わないの?」


篝が『誰のせいでこんな空気になっている!!』と言うとしたが、それをアニが目で制した。


「そう…だね。きゅーけーは大切」


「だが…」


尚も引き下がる篝に向かってアニは『良い』と首を横に振ると漸く篝は不承不承と言った体で口まで湯に浸かった。


「……」


暖かな温泉に冷え冷えとした沈黙だけが重くのし掛かっていた。

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