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幻想旅団Brave and Pumpkin【UE】  作者: 睦月スバル
魔獣両断、月華勝負
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魔獣両断、月華勝負2

温い風が頬を撫でる。

空には満点の星空。耳を澄ませば虫の声がよく聞こえる。


「月が綺麗だな」


美しい静寂を引き裂き俺は単騎でそこに向かう。


「来たか」


そこにいるものを俺は知っている。

カガリノマエ。

彼女は銀髪を雅に靡かせながらずっと待っていた。


「さて、私に伝えたい事があると言っていたか。要件は何だ?」


じゃあ、言うか…と声帯を震わせる。

多分一は勘違いしている。

確かに俺は告白する。


「俺は君の事を一から聞いた」


ほう?と先を促す様にカガリノマエは口にした。その目はどこか虚ろで、それであり傲慢な気を感じさせる。


「実は俺も亡くなった人をずっと探してるんだ。だから似てると思ってな」


『似ている』それは共感を表す言葉だ。

自分がどう感じていようが他者に『似ている』と言われればそれは主観を置き去りにして似ている事にされる。


例えば、そうだな。

自分の深い悩み事に対して安易に『似ている』や『分かる』と言われたらムキになって反論する事だろう。

共感は毒になる。だから、怒る。


カガリノマエの視線にも自然と怒気が籠もる。


「まぁ、安易に共感されたりするのは癪だろうし。こう言うのは俺得意じゃないけどさ」


俺は彼女と似ている。

亡くなった女の子の面影を探してまわる俺。

亡くなった最愛の男を待つ彼女。

成る程、傷を舐め合うのには最適だ。


カガリノマエは乗らないだろうが傷を埋める手伝いは出来るのだろうと思っていた。


でも、それは多分ダメなんだ。

傷の舐め合いとかじゃなくて篝を愛している男がいるから。

だから俺は今日、全力で振られる。

その代わりに今まで篝を縛り付けていた絶望をーー俺が砕く。


「何だ…疲れるだろ。そうやって待つの。少なくとも俺は…疲れたよ」



「でも君はもう待つ必要がないんだ。そろそろ縛られてないで自由に動いても良いんじゃないか?」


「…言いたい事はそれだけか」


首肯。

どちらとも無く自然に手を合わせて。


「「尋常に、勝負」」


「証明してやんよ。俺が…この俺が!!」


「黙れ利己主義者め」


今日の俺は背を向けない。


「ーー絶望する必要なんか無いって!!」


前回見せた水球を多重展開する。

手には熱した『唯式咎流ゆいしきとがながし』。

それで打ち抜くのはーー無数のクナイと攻殻。


俵藤太の大百足みたいな虫からはかなりの量の攻殻が剥ぎ取れたのだが使い道が無く嵩張るので捨て置こうかと思っていたが取り敢えず、細裂にしてガンベルト風の収納に入れておいたのだがーー。


この場に於いてこの細裂は爆発した上で刺さる凶悪な武器になる。


これを無心で打ち抜く。


カガリノマエは苦戦しているがーーその実俺も相当キツい。肩に爆発の衝撃がそのまま全て流れておりプロボクサーが全力の肩パンをしている状態が継続する様な激痛が俺を襲う。最悪は肩が砕ける。


しかしまだこれは前哨戦。


「そろそろアクティブスキル先輩の出番かな。行くか…『双加速ツイン・アクセル』」


俺は今まで基礎を学ぶ都合上スキルを使わなかった。

だが、今は全開で使える。


しかし、『双加速ツイン・アクセル』ですらただのバックステップには速度の点で遠く及ばない。


それは何故か。


パッシブスキルの存在だ。

この考えは当たっていると思ったが該当するスキルが何か分からなかった。


だが、一との打ち合いで発動する場合がまちまちであることが判明した。


次第に俺はそのスキルを理解していきーー笑いが込み上げた。


『逃げ』の意思、または『生存意欲』がトリガーとなるパッシブスキルがたった一つだけある。




『とんずら』だ。



バックステップだけ異様に速かったのは『とんずら』という地味に壊れ性能なスキルのせいだった。



なら、どうにか生存意欲を高めて『双加速ツイン・アクセル』に加えたら?


答えはーー。


止まるのが困難な程のーー爆発的な速力を得る!!


愚直故に疾い、疾い、疾いッ!!


だがこれで終わりじゃない。


「『盗賊の極意(ローバーアイテム)』ッ!!」


盗みをする際の行動に補正をかけるアクティブスキル。

思えばアニと出会って二つ目の欠片を盗んだとき素ではフルブレーキからのターンが出来る訳がなかった。


その際、行動に補正が掛かっていたから出来た芸当と言える。


但し、ここからがミソだ。


『盗む対象』が必要になる。

対象はーー刀のツバ。

別に盗まなくても対象さえ選択出来れば行動に補正がかかるという緩い裁定を保有しているのが既に判明している。

つまり現状、殆どの行動に補正がかかる訳だ。


「舐めた真似を」


振り上げた刀を目視する。


俺は今回の戦いには確実に負ける。

それは確定事項だ。覆せない。


だがーー勝負では勝たせて貰おうか…っ!


「『上弦』」


上からと見せかけて下から炎が突き上げ、僅かにカガリノマエを退かせる。


月の名を冠した炎が本物の月によく映える。

戦闘中でさえなければ乙なものだと思えたのだろう。


肩で息をする。

流石に最初から飛ばし過ぎた感は否めないが序盤こそ出し惜しみはナシだ。


印象操作。

カガリノマエに見せた手は水蒸気爆発と火、水の発現と加速。

なら、他の分野ーーお得意の剣術に持ち込めば勝てるとカガリノマエは考えるだろう。


まだ甘い。



「!?」



だから俺はーー。



月の夜に霧は立ち昇る。


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