イベントスキット4 ■への誓い
あれからどれだけ時間が経っただろうか。
出来た水溜りに顔を映す。
そこにいたのは憂鬱顔と…アニと同じ紅い異様な色彩を帯びた二つの瞳だった。
女の子に気合いを入れて貰って再起からの逆転イベントではなかったよう……ふざけるなよ、オイ。
軽口も今は要らない。
■が遠退いた。何故?
何故あれほど渇望したのに叶えられない?
不誠実に見られても構わない。
ただ理念だけは一貫していたかった。
一貫して■の為にありたかった。
女の子に等しく救いを与えるヒーローになりたかった。
ポロポロと涙が溢れる。
朽ちた戒めは楔になって鈍く頭を抉る。
どこで間違えた。
繰り返し問い直す。
どこで間違えた。
現実逃避に楽観的な観測が混ざる。
いや、もしかしてアニが■の生まれ変わりではないか、と。
「ふざけるなよ俺。流石にそれは破綻してるだろ。その上レディーに失礼ってもんだ」
改めて口にする。
口にしなければ多分、自分でも信じてはいられないから。
「しゃっきりしないと…。まだ約束は終わってやしないじゃないかよ。大丈夫…まだ俺なら履行出来る」
口にしないとやっていられない。
信じられるのが自分しかいない世界で自分を裏切る事程愚かな事はない。
約束を守り抜かなければーー。
「…それが出来たら…それが出来たら苦悩なんてしてねぇよ…!!」
改めて誓うのだ。
ここから俺は再起する。
再起して女の子を助ける為の奇跡の盾になってやるーー。
「…具体性も何もない。所詮あの日の事の焼き直しじゃないかよ…」
女の子を助ける!
女の子を守る!
そんな事ばかり言ってきた。それだけを理念に動いてきた。でもそれで何になる。
■はもう死んだ。
■は自動車に撥ねられた。
■はもう戻って来ない。
幾ら星に願おうがどうしようもなかった。『杉原清人』は泣き腫らした目を潰したら■の影を追えるんじゃないかって妄想を毎日していた。
『杉原清人』は■が死んだ事で■の両親から『何でお前が死ななかった』と頻りに言われて死にたくなった。
なのに何故俺は軽薄にも動き続けたのか。
痛みを隠して道化を演じたのか。
理由は簡単だ。
しょうもない子供の世迷言。
…『生まれ変わっても『杉原清人』と一緒に居たい』って■が言ったから。
そう、約束したから。
だから、ずっとずっとずっとずっとずっと待ってた。
女の子に優しくしたのは生まれ変わった■が俺に気付いてくれるように。
■じゃなくても女の子っていうカテゴリに■を見出せる気がしたから■の為だと思って遮二無二身を削ってきた。
ふとした所作に■っぽさを感じられればそれが俺の細やかな幸せ。ただ、それだけで良かった。
馬鹿みたいだな。
優しくして却って傷付けた事、何回ある?
プライドを傷付けた事、何回ある?
何回俺は勘違いさせて来た?
音痴を克服するために付き合って、俺なんかに惚れて歌も何もかも半端に終わらせてしまった子がいた。
女の子絡みで沢山成功して、それ以上の取り返しのつかない失敗を積み重ねて来た。
当人の受け取り方次第、そう言えば楽だが行動の遠因は俺だ。
俺が破滅させたようなものだ。
まともな恋愛とかは一度としてやった事はない。いや、最早何が恋愛なのかすら覚束ない。
それが俺だ。
自嘲する。
雲の切れ間から微かに光が見えた。
茜色が反射している。もう夕方か。案外時が経つのは早いらしい。
「…庵に戻るか」
空き地から庵に向けて歩き出す。
繕っても、繕っても、いくら繕っても笑顔にはなれそうにない。
「畜生…誰か…誰か…」
俺は無様に涙を零しながら誰にも届かないSOSを発していた。
はぁ、と長く息を吐き気持ちを落ち着ける。
ここは異世界。それで俺は旅をしている。
仲間ならジャックがいる。さっきも…俺を助けてくれるって言う女の子がいる。
…辛い事を忘れて旅を楽しんでも良いのだろうか。
異世界なら…過去に縛られずに堂々と振舞っても良いのだろうか?
「…泣き止んだな。よし、取り敢えず一と篝をくっつけてハッピーエンド。気分は水戸黄門ってのも悪くない」
新たな目標を定めよう。
辛い事を忘れて前進するのだ。
俺の掲げる新たなる目標ーー。
「今日から俺はハッピーエンド至上主義者だ」
降り続けた雨は止み、光は温かに降り注ぐ。




