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転職しますか はい/いいえ 1

夜の静けさはとうに終わりを告げ、俺たちは朝を迎えた。

オレンジ色の茅葺き木造家屋が朝日を浴びて煌めいている。

昨夜の埃っぽい空気から打って変わり今度は蒸し暑い熱気が手荒く俺たちを歓迎した。


「ここが蒸気と機械の街、『テオ=テルミドーラン』だね」


現在の体感温度は三十度程。空模様は快晴だが機械の発する蒸気からか視界が少し悪い。多湿で服が肌に引っ付いて不快な感じもしそうなものだがどうやら今身に付けている服…『霊衣』が適度に不快感を低下させていた。

どうやら女神様の特典がコレらしい。

因みに今の俺の服装はと言うと。

赤いリボン付きのシャツブラウスにデニム生地のベスト。

朱色がかった革製のショルダーホルスター。

下はミリタリー系のカーゴパンツ。腰のガンベルト風の小物入れには昨日の戦利品が入っている。

靴は白のミリタリーブーツだ。


ハールーンに絡まれたのも頷ける格好だ。

路地裏の巣窟では悪目立ちしてしまう。

オシャレなんだろうがいかんせん大学生がめいいっぱいコスプレしました感が否めない。こう…思ってた異世界はローブやコートが主流だとばかり思っていたから少々面食らっている。


ただ基本的には足元もブーツな為動きにくさはそこまで感じない。単に見た目特化と言う訳でも無いようだ。


魔素カルマを使った蒸気機関がウリの街だから視界は曇るけど、中々悪くない街並みだねぇ。何と言うかいい感じに中世の街並みと蒸気機関が調和してると言うか…貧民街とは違って生活水準はかなり高そうだね」


「そうだな。オマケに出店もあるし。くすねたお金でちょっとの贅沢するには丁度良いか」


「キミって本当に良い神経してるよね…」


早速串焼きの屋台を見つけるとそこへ向かって小走りしてメニュー表を見た。

そしてジャックの元に戻り…。


「なあ、ジャック。…字読める?」


「読めないけど?どうかしたの?」


そう言えば八百万の神の事をヤオヨロズGODと言うくらいの残念頭だった。

この南瓜頭め。


「ってのは嘘で勿論読めるよ」


「ジャックも大概良い性格してるよな。いつか頭の南瓜で煮付けでも作ってやろうか?」


ひぇぇ、と情けない声を出すジャックを連れて俺は串焼きの屋台に向かった。


「いらっしゃい!」


店主は恰幅の良いおっさんだ。麻で出来た服を着て頭に捻じり鉢巻をした如何にも大将気質な感じがなんとも好ましい。

こういう人の作る屋台飯は矢鱈旨いのだ。

日本に居たころの縁日屋台のタコ焼き、お好み焼き、唐揚げ、せんべい汁。

兎に角ここら辺のラインナップをこういうタイプのおっさんが作ってると総じて期待値が高いのだ。


「うーんと、オークの肉が銅貨五枚だね。となると銅貨一枚につき百円位かな。で、他は羊肉マトンで銅貨三枚だね」


「おっさん!羊肉マトンの串二本!」


「あいよ!坊ちゃん。タレはどうする?塩か?それとも黒水か?」


「一本ずつ頼む」


おう!と言うと目の前でおっさんが火をつけた。


「それは第一魔素ファースト・カルマ?」


「おうともさ!ここいらで肉焼く為だけに第一魔素ファースト・カルマを使う酔狂な輩は俺だけよ!!」


ガッハッハ!と豪快に笑うおっさんを見てこれは益々良い買い物をした気分になった。


「ホイ、出来たぞ。銅貨四枚だ」


「ありがとう、次も立ち寄ったらまた食べに行くよ」


「おう、坊ちゃんみてえな太い輩はいつでも来いや!次はまけてやらねえけどよ」


串二本を左右に持ちながら屋台を後にする。


「食うかい?」


JAPAN…謙虚が美徳、とボソボソと呟くジャックに串を渡す。


「あ、うん。頂くよ」


先ずは黒水の方だが、匂いで薄々察していたが醤油味だった。少し香辛料が混ぜてあるのか若干のピリ辛風味なのも食欲を唆る。


「凄いな、こっちにも醤油あるのか」


臭みはあるが、香辛料で上手く消せている。

と、なれば塩の方はどうなるのだろう。


「うん、これ固いかと思ったけど案外柔らかいし臭みも無いねぇ。ウマウマ」


「そっちとこっちで一個交換しないか?」


「良いよ」


塩の方に齧り付く。

臭みや固さが醤油ベースより無い。恐らくは若い羊肉マトンを使っているのだろう。

パンチのある塩コショウの味付けは寧ろ醤油より舌に馴染みがあるものだった。


にしても中々に解せない異世界だ。

蒸気機関があれば移動手段も増えるし遠方からの輸入によってコショウがあるのは理解出来なくもない。

或いは似たような植物が自生しているのかも知れないが。

が、醤油はどうなのだろうか。

詳しくは知らないが発酵などの手間がかかるはずだ。

その辺りが再現されているならもしかしたらこの世界には異世界の人間の他に日本人がいる可能性もある。

そして…。


こう言う場合は『日本人の知識が俺を襲う』事を想定に入れなければならない事を示唆している。


日本人=知識チート

知識は武器になる。例えば第一魔素ファースト・カルマが火の発現だと知って俺はそれだけで五通りの活用法を思い付いた。それが敵にも言えるという事だ。厄介極まりない。


本当に銅貨四枚にしては破格の買い物だった。腹的にも情報的にもウマウマだ。


「なぁ、ジャック。『魔王の欠片』探索の前にギルドとか…移動しても金が稼げそうな場所に心当たりはないか?」


「うーんと、ギルドと…対魔連盟の二つだねぇ。あ、でも対魔連盟はお勧めしないかな。基本的な仕事が雑用だから時間の割に稼ぎがないって感じ?」


「そう言えばその情報のソースって何処なんだ?金のレートが抜けてる辺り信憑性が薄い気がしてるんだけど」


「情報ソースはジャック・オ・ランタンの案内人としての固有能力だね。レートに関しては国毎に違う貨幣があるから一々価値が変動する相場を出してたんじゃメーンの案内人としての役割が履行出来ない可能性があるんだよねぇ。要するに頭パンクするって感じ?」


「…他にも為替とか提案してお金稼ぎに悪用するのを防ぐ意味合いもありそうだな。『魔王の欠片』を探索する事に一番時間を掛けろって事か」


「まぁ大体そんな感じかな」


「となると真っ当に稼ぐのみか。一先ずはギルドの方に行ってみようかね」


「ギルド会館は右手に見える大きな建物の一階にあるよ」


ハールーンからくすねた果実酒シードルで口を湿らせながら悠々と人ごみを掻き分けて進む。


「ギルドってどんな団体なんだ?」


「ギルドは盗賊、野生の動物、モンスター、そして魔獣を狩る為に結成された謂わば狩りのプロが属する集団だねぇ。ギルドの会員になれば仕事の斡旋の他にも修練場が無料開放されたり金を支払えば併設されてる大図書館にも入れるよ」


「モンスターと魔獣ってどう違うんだ?」


「モンスターは簡単に言えば人間離れした知性ある異形だね。魔獣は人間の絶望が生み出した世界への脅威って感じ」


「モンスターは善性、悪性で区別できて、魔獣は悪性一択って理解で合ってる?」


「大体はね。ただこればっかりは僕も実物を見たことがないから断定は出来ないかな。情報はあれど実が伴わないのが案内人の悲しい性ってヤツなんだよねぇ」


そうこう言い合う間に到着したようだ。

切妻屋根の両端に細い尖塔があしらわれているのが特徴的な『ギルドホール テオ=テルミドーラン支店』。


ゴシック風味の木製のドアを開けた向こうにはーーお通夜の雰囲気が広がっていた。

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