刀剣の輝き2
ジュウジュウと焦げる音がしている。
まだだ、まだ焦がし足りない。
これでは黒焦げになるまいか?
そんな不安を押し殺して腕を只管に振るう。
匂い立つものを嗅ぎ取り眉根をよせる。
…失敗したかもしれないな。
いや、まだだ。
まだ終わってはいない。俺の証明はーー。
俺が料理下手な証明にはまだ足りていない。よってまだリカバー出来る範囲内。
急いで火を止める。
はて、そう言えばフランベなる調理法があった気がしないでもない。
確か、酒をぶっ掛けて火をつけるのだったか。
悪魔の囁きに耳を傾けた俺は再び火を点ける。その手にはどぶろく。
これを炒飯にぶっ掛けて…。
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「で、できたのが黒焦げ炒飯?キミ料理下手なのにどうしてやるのかなぁ…」
「いやぁ、一の作った液状化卵焼きを前にしたら俺の方がマシかと思ってな」
昨夜の夕餉は酷かった。
酔っ払いに絡まれてから一に厄介になる事になり、一の庵に転がり込んだ。
それは良いのだが、歓迎ついでに出されたモノがそれはそれは酷かった。
『たぁんと食いや!ちぃと下手やけんど食えないこともない、イケるやろ!』
一が出した料理は最早料理ではなかった。液状化した卵焼き。何故か七色に光る味噌汁。黒煙を出す米とニガリとクサヤを混ぜたみたいな感じの矢鱈臭い冷や奴等々…正直散々だった。
ジャックが『僕は気付かれてないから逃げるねぇ…』ととんずらしかけたが、一に捕まり食事を取る羽目になった。一曰く最初から気付いていたとか。
「お!あんさん料理上手いなぁ!今度ワリャにも教えてや!実は色街で落としたい子がいての、そん子が『私より料理上手な人と御一緒したい』ちゅうから今練習中なんよ。どや?そっちが料理をワリャに教えてくれたら色々便宜図ったるよ!」
「乗った!」
ジャックが「袖に振られたのを気づいてないんだ…」と呟くのを掻き消すようにテンション高めで乗る。
ただ、一にはジャックの台詞が聞こえていたようで視線で人を殺せるレベルの冷たい。否、絶対零度の視線がジャックに向けられていた。
「ほいたら、昼間っから色街へ行くか!」
「応とも兄弟!」
かくして、俺は一と真昼間から色街へ出掛けたのだった。
言うにエロースとは「美のイデアへの上昇の道」だとか。エロースとは、一番美しい存在に近づきたいという欲望の愛だと語る友人が前世の大学にいたから良くおぼえてる。
…そいつとはもう会う事は無いだろうが。
ーーつまり俺達は愛の体現者なのだ。
故にこれはエロを、体現する行いなのだ。
「でも結局のところ君達は大変な変態さんだよねぇ…」
言うなよジャック。恥ずかしい。
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「そう言えばあんさん、その…手に熱烈な恋文付けてて色街行って良いのか?」
「恋文…?」
「見た所蟷螂…じゃなくてこりゃ『女郎蜘蛛』やったかの。随分好かれてるやない」
『女郎蜘蛛』と言われて真っ先に薄桃色の髪の少女を連想した。
いや、忘れてた訳では無いが俺の特性上女の子は遠くから見守る主義だからイマイチ実感がなかったのだ。
「まぁ…あれは好かれてるのか?俺には判別付かないけど」
「いや、その刻印は『あんさんのことばりすいとーよ』ってのと同義やから。憎いねぇこの色男!」
想像する。俺並みに頭のネジが外れた女の子が俺に『ばりすいとーよ』か。
成る程、成る程。それはそれでアリだな。…決してその好意は受けれないが。
「となると昼間っから色街三昧は辞めとこか。ほいじゃ、庵に戻ってあんさんの武器でも見せて貰うとするかの」
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一の庵に着くなり早速善は急げとばかりに俺の武器を見せるように急かした。
「さて、これがあんさんの武器か…」
現在一に見せているのはハールーンから盗んだ紳士の杖だ。メンテナンスなしで酷使した為お世辞にも状態が良いとは言い難い。
金具は歪み、取っ手はささくれが目立ったので包帯を巻くことで誤魔化していると言う塩梅だ。メンテナンスの方法など俺は全く知らない為にこんな有様だった。
「よくもまぁこんなんなるまで使ったなぁ」
「まぁ、旅路が旅路だからな」
「ふむ、あんさん他にもダガーあるって言っとったやろ?アレも見せてや」
大人しくダガーを見せるとふむ…と一は眉を顰めた。
「…あんさん」
「刃物、全然使えとらんな!こりゃ、刀は預けられんの!」
…話をガラリと変えよう。
大学の頃。海外の留学生と腐れ縁の三人で京都に行った時だったか。
その海外の留学生は京都の土産物屋に入って開口一番に何を言ったか、俺ははっきりと覚えている。
『wow!ジャパニーズサムライ!ハラキリ!ゲイシャ!ドコデス?』
これだ。
日本=サムライ。
サムライ=クールジャパン。
その時はやれやれと思った。
が、実際に俺が刀を振るえそうな場面になったらなったでそれが無理と分かると地味にショックを受けるのだ。
異世界転生、和風と来たら残りはチートな刀だろう。刀自体に意思があれば尚良し。
…宿望叶わず。
「でも、棒術はかなりの腕がある。杖の壊れ具合からパリィの巧さと攻撃方法の多彩さ、引き出しの多さと手数の多さは一流には届かんけど既に二流の域を逸脱しとる」
「二流…」
「せやから…あんさん。木刀使ってみいひんか?」
「木刀!?」
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