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野生のチュートリアルがあらわれた2

俺は『魔王の欠片』を口に含むとすかさずそれを嚥下した。


毎度思っていたのだ、悪役はドーピングの為にあからさまに危険そうな固形物を口にするよな、と。

これは一種の賭けだった。『魔王の欠片』とやらがどのようなものかは不明だが、ゲームの序盤で出てくる口にすると異形になる系のドーピングアイテムに似たフィールを感じたのだ。


果たして結果はーー。


「手厳しいチュートリアルだけど…ノーコンでクリアしてやんよ」


「ふむ、頭でもいかれたかね?」


「さぁ…なっ!!」


喉を過ぎる熱い感覚にも似た熱が身体中を駆け巡る。


不敵な笑みを浮かべながら拳を突き出した。

すると、下から上に突如として突き上げる炎が発現する。名付けて『上弦』。


瞠目するハールーンに再び『上弦』を放つ。


吹き荒ぶ炎は回避し切れなかったハールーンの左足を焼き焦がした。


どうやら成功したようだ。流石にドヤ顔で失敗は恥ずかしい。

そもそもドヤ顔をするな、と言う話だがブラフとして機能する都合上仕方なかった。


「さてと、どうしたもんかね」


ハールーンについて考察する。

先ず注目すべきは敏捷性。

縮地を使ったのではないかと疑ってしまうくらいの速度は容易に距離を取らせてはくれない。

その次はやはり蹴術。

ボロ屋を余裕を持って破壊できる純粋な破壊力はやはり目に見える明確な脅威だ。しかし、焼き焦げた左足は水泡が出来る程度でまだまだ移動には問題無く弱点とはなり得ない。


そして、杖。

こいつが案外曲者だ。

蹴りのリーチと杖のリーチは異なり、杖なら突き、払いを自在に操る事が出来る。蹴りと杖が同時に来ることこそないが二つの異なるレンジを振るえる事を念頭に置いて戦わなければならない。

離れれば杖が、近づけば蹴りが容赦無く俺を襲うって寸法だ。


だが、杖には対処法が二つ程ある。

一つ、杖を破壊する。

二つ、杖を奪う。

前者は杖をデコイに蹴りが飛んで来る可能性がある事からあまりやりたくはない。

と、なれば残りは杖を奪う一択だ。


ぶっちゃけ、後者は奪う方法さえ確立出来ればメリットが大きい。


先ず武器による受け流し、パリィが出来る。蹴り上げた脚に向かって杖を当てれば運良く脛に入るかも知れない。


となれば狙い目は火傷した脚ではなく手ッ!!


「ふむ、いささかバリエーションに欠くようだ。工夫、そう。工夫が圧倒的に足りない。人はそれを無学と言うがーー」



「君は如何なのかね?」


ゾワリと総毛立つ。

迫る杖をバックステップで避け流れるように変則的な四足歩行で続く蹴りを回避する。


「アドバイスありがとな」


あくまで不敵に、不遜に。

キツいと見破られたら俺の負けだ。


「『上弦』」


ブラフこそが俺の真骨頂。

下から上に突き上げる炎はーーしかし逆に上から下に流れ落ちるように放たれる。

『上弦』のバリエーション技、『下弦』。

しかし俺の『上弦』という宣言がハールーンに上弦の安易な回避法、上空に跳躍して後ろに下がる事を選択させた。


上体を逸らすことで直撃を避けるが、残念。

狙い目の手首を炎が灼いた。


そしてーー杖が落ちる。


「頂き!!」


言うが早いか俺はすかさず杖を手に取ると火傷した脚に躊躇なく振り下ろした。


「やるではないか。であれば、私の負けで構わないかね?私の紳士の杖も取られてしまってはもう手がないのだ。命までは勘弁して頂けないかな?」


「そういう事なら」


俺は半ば確信めいたものを持ちながら後ろを向き、件の未舗装の道路へ向かう。


チキリと。


そんな音がした。


路地裏に甲高い音が響き渡る。

背中に回した杖がハールーンのナイフを弾き飛ばしたのだ。


「これ、中々良い武器だな」


「ッ…貴様最初から気付いて…!」


最初から気付いて背を向けた。

プロなら武器が一つしか持たないのは不自然だ。

例えばーーそのシルクハット。

随分と高いようだけれど、一体中には何が入ってるのかな?ってな。


俺はハールーンが強いから警戒した。

ハールーンが弱ければサブウェポンに気づかなかったかも知れない。


小型のナイフに目をやりーー眉間に杖を突っ込んだ。


「…あんたは強かったよ」


杖を引き抜くとそのままハールーンがしなだれかかって来た。


俺は今日、初めて人を殺した。


「はぁはぁ…一日目からこれか」


ハールーンを退かすとその場でへたる。

…やばかった。一歩間違えたら死んでた。

息を整えてからナイフを回収する。ナイフの先端は変色しておりどうやら毒液か何かに漬け込んでいたであろう事が分かる。

運悪く当たっていたら死んでいた。


「…よく勝てたもんだよな」


折角だからと死体を漁る。指先がピリリと痺れて違和感があったが時間が経つにつれて治り漁る手がより正確に洗練されていく。野生への回帰だろうか。


ポケットやシルクハットには金貨や銀貨、銅貨が入っていた。

他にも粘土のような携帯食料や皮の袋に入った果実酒シードルまで出て来た。


価値はよく分からないが戦利品としてはかなり美味しい部類に入るだろうか。


「後は…」


まだ何か仕込んだり隠したりしてそうな物はないかと視線を彷徨わせーー靴が目に入った。

これだけあって靴に何もない、とは思えない。


靴はどうやらシークレットブーツになっているようでかなりの厚底だった。


「もしかして、これソールか?」


ソールを引き抜こうとするが一箇所だけ引っかかり抜けなかった。

ナイフで周りに切り込みを入れてやや乱暴に引き裂くと一枚の金貨が出て来た。

左右のから出て来た為、更に二枚の金貨の追加だ。


「…一式拝借していくから。多分一生返さないから安心して眠ってくれ」


「うわぁ…」


ジャックは遠目から若干ーーいや、かなりドン引きといった様相でこちらを見ている。


「どうかしたのか?」


「いや、…えぇ…。最近の物理的にキレる子供って怖いなぁってさ」


「…いや、どっちかと言うとめちゃくちゃ怖かったから、反作用で…って感じ?窮鼠猫を噛むみたいなアレだよ」


ふーんと何やら納得いかない様子のジャックを横目に空を仰ぎ見た。

夕陽が落ちて来るみたいな、何処までも赤い緋色の空だ。

転移したタイミングもそう早く無かった事も起因して今はこんな空だ。

鴉も自分の寝ぐらに帰り、既に文句を垂れる人影も疎らになった。

相変わらずの悪臭と埃っぽい空気に咽せ返りそうになるが、静かな夜の訪れは何となく感傷的な心象を与える。


「この世界の何処かに『魔王の欠片』があるのか」


空に手を掲げ、掴むように手を拳に帰る。空を泳ぐ手の中には何も入っていないが…案外実感がわかないだけで大事なものは常に繋ぎ止めてあるのではないか。何てことを柄にも無く思う。


「ジャック、中心部にいこう」


「え、でも日が暮れる…」


「良いから良いから!!」


さぁ、明日を急かして進もう。

大分疲れたがチュートリアルはお終い。


こっからが、本番だ。

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