鼠人の隠れ里トゥチャトゥチャ1
「…案外、簡単に見つかったな」
「うん…。出オチ感が凄いよね…」
まさか、ドンピシャで鼠人族の隠れ里で鍵を使えていたとは考えもしなかった。
「あの演出って、そういう…」
目の前にホログラムが投影されたのは元からのエフェクトだが、そんな事を知る由もないジャックは一人勘違いを加速させていた。
ーー要するに、運が良かった。その一言に尽きるだろう。無駄に時間と徒労を重ねずに済んだのは重畳と言う他ない。
人生とは得てしてこのようなものだ。
目の前に広がるのは酷く牧歌的な村だ。人サイズの鼠が歩き回り…あれだ。
動物園のモムモフが集まってる触れ合いコーナーのような様相を見せている。
オーバーテクノロジーとは一体…と頭を抱えるジャックの気持ちも分からないでもない。
機構都市が若干のスチームパンク風味だった事もあり寧ろ退化しているような気さえする。
「ねずー」
しかも、至る所でお昼寝タイムを決め込んでいたり子供が走り回ってはしゃいでいたりする。
不潔な匂いや獣臭さはないが、『鼠人族』ではなくガチの鼠の国に迷い込んだのかと不安になってしまう。著作権が果てしなく心配だ。
「たびびとさんねずなー、めずらしずなー」
「ゆっくりしていきねずよー」
「お、おう?」
こんな感じで非常に気が抜けてしまう。
気付いたらモフモフに囲まれていた俺たちはまるで毛玉みたいだ。
前世ではハムスターを飼っていた事もあり中々に和む。勿論、ハムスターは俺が死ぬ前に天寿を全うしたから俺が先に死んでハムスターも一緒に飢え死になんて事はない。
ぐぅぅぅぅ。
と、不意に俺の腹が鳴った。
現在俺の食事事情はと言えば一日五食だ。しかも非戦闘時ーつまり一番燃費が良くてこれだ。
戦闘時には一日七食を軽くペロリと平らげる。
「たびびとさん、おなかへりずなー?」
「にんじんありねずよー」
腹の音を聞きつけたのか更にわらわらと鼠人達が寄って来て野菜やら何やらを手渡して来る。
生の野菜を齧ってみればーー甘かった。
素朴な甘みと言えば分かりやすいか。
野菜特有のクセもエグ味も無く食べ易い。何だか気分も牧歌的になりそうな平和な味をしていた。
とーー手渡された野菜の中にソレはあった。
「これは…」
思わず声が漏れる。
独特な硬質な緑、ミカンの房のような造形。
中身の種の多さと黄色さ加減を俺は知っている。
それはある実験のために俺が一時的に渇望していたモノだった。
「かぼちゃみずよー?しらねずかー?」
南瓜だった。
南瓜があれば自ずと次の行動は決まってくる。
「ジャック?」
ねぇぇ…と力無く口にするジャックの方をまじまじと見るとーー半泣きだった。心なしか青筋も浮かんでいる気さえする。
「は、ハールーン。こ、こここコレ。南瓜だよねぇぇぇ!?」
ゴクリと唾を飲んだ。
まさか、まさかまさかまさか!
俺は神の深淵に足を踏み入れてはいまいか。知られざる領域を目視しているのではあるまいか。
ジャックは同族を食すのか。これではっきりする。
そしてジャックはーー躊躇い無くもしゃもしゃと南瓜を実に美味しそうに咀嚼した。
「え゛?」
完全に予想外だった。
「美味しいぃぃっっッ!!」
心なしか旅で汚れたカボチャ頭に艶とハリが戻っている気がする。
つまりー半泣きだったのは、嬉し泣きだった訳だ。
「いやー、やっぱり南瓜は美味しいよねっ!」
いや、いや、その理屈はおかしい。
「ねずっ!どうしねずよ!かぼちゃすきずなー!」
「やっぱり同好者はいたのかぁ…旨し旨し」
結論、ジャックは南瓜が大好物であるようだ。納得行かない。凄く納得行かない。
「…うるさいな。誰か来たのか?」
とーー道端で騒いでいると掘っ建て小屋から人影がぬぅと姿を現した。
身長は大体百九十程あるだろうか。中々に高い。
特筆すべきは目の覚めるような美しい銀髪とひび割れ、赤い線の走る右手の皮膚だ。
ミミズ腫れではない。何とも言えないものだった。
顔立ちはこの世のものとは思えない位の美しさで美丈夫と言おうにも不適格な気さえする。
「ねぇ…ハールーン。この人」
南瓜を咀嚼するのを止めてこれ以上なく真剣な面持ちで言い始めた。
その尋常じゃない様子に思わず唾を飲む。
敵か、将又イデア関連の誰かさんか。
何れにせよこの出会いは重要な意味をはらんでいると直感的に理解した。
「多分、この世界に送り込んだ先行偵察部隊の生き残りだよ」
ジャックはそう言い切った。
気怠そうに溜め息を吐くとそいつは口を開きーー。
「当方は『カルクィンジェ・レプリカ』。非戦闘型天使。タイプ:ソフィスト。神から尻尾を巻いて逃げ出した臆病者だ」




