Active time eventジャックの疑惑
《ジャック》
ジャックは清人の一連の告白を通じて上司の神の報告を思い出していた。
『最近、猫の虐待件数が多いのにゃ!人間供、ささくれ立ってやがるのが気に入らにゃいのにゃ!』
そう上司の神ーーバステトは言った。
cool japanと言うだけあって日本には宗教、国境を越えて八百万の神が実際に『イデア界』という場所に居住している。のだが…中でも上司のバステトは他の神とは毛色が違っていた。
『バステト』は猫、音楽、殺戮の女神とされており、性格はそれこそ猫のように奔放で傍若無人であり天真爛漫。ラー神の妹であり妻でもあり、またラー自身の目でもある。
…まぁ、ここまでは神の中でも至って普通なラインでしかない。中にはもっとぶっ飛んだ神格も沢山いる。
しかし、『バステト』には他の神格とは違い、別の側面が存在せる。
獅子旧神『ブバスティス』。
気高く尊き小さな皇帝たる猫にして人類史が始まる遥か前の地球を支配した恐るべき神々の一体。
そう、ジャック達人類史の神々とは相反するー本来敵対すべき神なのだ。
しかし、かの女神は人類史の神々と外なる宇宙から来た悍ましい神々outergod(外神)との衝突に際して人類史側に立った稀な神だった。…というもの地球と夢の世界の猫、半人間が信仰する神で後者は兎も角、猫達は旧支配者に付くには些か貧弱過ぎたからだ。
そんな事で、例外的に人類史の神の側に付いている。
現在、世界では宇宙から来た神、人類史前に世界を支配した神、人類史から生まれた神の三つ巴の戦いを行なっており人類史から生まれた神は劣勢に立たされており、旧支配者と外なる神の二者間のにらみ合いにより一先ずの均衡を保っている。
そんな中人類史側に立ったバステトはなるべく縄を付けて飼い慣らしてしまいたかったのだ。
だからバステトには何事に於いても比較的に寛容だったりするのだがその日、気ままなバステトにしては珍しく不機嫌だった。
『別段珍しいことじゃないけどねぇ…バステトが口に出すって事は何かおかしいのかな?』
ジャックはどうにか話題を有耶無耶にしようと曖昧に問い返す。
しかしバステトはいつになく真剣でそこに違和感を感じた。
『虐めてるヤツから匂いがするのにゃ』
動物虐待の話は昔からよく聞く。それだけならば言った通り珍しい事ではない。極めて普通な不幸だ。
しかし、この猫の神が匂いと言うからには只事ではない一大事と言うことなのだろう。
『何の?』
意を決して尋ねる。
するとみるみる間に眉間に皺が寄り表情が険しくなる。
口元の八重歯をガチガチと振るわせながら、目を憎悪に血走らせながら。
その名を口にする。
『『ニャルラトホテプ』。あの鬼畜野郎の触手の匂いにゃ…!』
『ニャルラトホテプ』ーー外より来たる新しき恐れの名を。
猫の旧神は誰よりも早く察知していた。
■■■■■
『猫の虐待』、『ニャルラトホテプ』。
それらのワードが結び付き一人の人物像を象った。
目の前にいる男ーー杉原清人だ。
何故『ニャルラトホテプ』が杉原清人に結びつくのか。
それは『ニャルラトホテプ』の別名に由来する。
『門にして鍵』、それが『ニャルラトホテプ』の別名の一つ。
早計かも知れないがーーヘカテが推したこの人間こそがニャルラトホテプではないか?
杉原清人=ニャルラトホテプならば中身にオルクィンジェがいても別段おかしな事はない。
何故なら、オルクィンジェに直接手を下したのはニャルラトホテプその人…否、神だったからだ。
ジャックにとって杉原清人は戦友ではあったがそれ以前に監視対象となった。
果たして杉原清人は人間か、将又邪悪な本性を隠した悍ましい神の筆頭か。
サフィールと清人の会話の間、ジャックの中に疑惑が芽を出し始めていた。
「『門』に魅入られた人間の特権ーー『心象解放』です」
そんなジャックにも等しく風は吹き荒びーーやがてサフィールが怪物の様な姿へと変貌する。
濡れた幾億の舌が見えた。
それは禿鷹にあらず。それは土竜にあらず。
それは屍人にあらず、魚にあらず。
あまりにも悍ましい怪物。いや、最早怪物の体すらなしていないような異形。
「『葬儀屋』、私の心象解放です♪」
サフィールは実に喜悦に満ちた笑みを浮かべながらそう言った。




