魔王軍が仲間にしたそうにこちらを見ている仲間になりますか? はい/いいえ 1
「『ルカ』の内部…?」
「そう、『ルカ』の内部だねぇ」
こともなげに言い放つカボチャ頭はいつになく上機嫌で何となく嫌な予感がした。否、寧ろ嫌な予感しかしない。
「キミの適性を鑑みるに盗賊プレイはお手の物でしょ?『単一加速』もあるし変装して速度で逃げれば行ける行ける」
ガナビーオーケーと囃し立てるジャックを冷めた目で見ながら考える。
先ず『ルカ』以前にミュージアムにはゴブリンの集落攻略戦に於いて噴霧器を提案したサフィールがいる。サフィールが真っ当な研究者ならまだやりようはあるが、これが本当に麻薬の売人だったら非常に困る。
最悪、無能を演じればやり過ごせるかも知れないが接点を持ってしまったのは悪手だったか。
後々の憂いを断つ意味合いで暗殺を仕掛けられたら太刀打ち出来る気がしない。
いや、サフィールがまだ黒と決まった訳ではない。真っ当な研究者ならばただの蒸気機関ヲタで済む話だ。
なのだが……何となく嫌な予感がする。
これに加えてデイブレイクも俺の命を狙っている、つまり最低を予想するならばデイブレイク、サフィールの二方向から命を狙われる羽目になる。アニの件もあるがそちらはまだ狙われるような時期ではないだろう。それに女の子に殺されるならば万倍マシだ。
そう言えばデイブレイクの黒尽くめも女の子だったか。臀部、胸部の揺れ感の無さは中々に魅せるものがなくはなかった気がしなくもない。
哀れ、だがそれもまた風流。
ふと、ジャックと視線がかち合った。
ジトーっとした視線を向けるジャックに舌打ちするとたちまちジャックは表情に喜色を浮かべた。
「あれれぇ?妄想の時間は終わりかなぁ?」
「安心しろ、妄想で満足なんかしない。実物が一番だよな」
「キミ、本当一部だけ本当に歪みないよねぇ…」
「ってな訳で、ミュージアム行くか」
えっ!と驚愕を露わにするジャックに対して首を傾げーー実にどうでも良い事実に気付く。
ジャックは俺が会話中に女の子の裸体を妄想していると思っていて、その実俺はデイブレイクの女の子の臀部と胸部の絶妙なハーモニーについて考えていたのだ。ジャックのニアピン賞である。賞品は勿論無いが。
前半に俺の考えていた事はサフィールについてだ。
断じて高尚な芸術論ではないのだ。
断じて。
ジャックはいかにも疑問符が頭に浮かんでいるアピールをするかの様に目を『?』の形にした。
ジャックの仕組みが気になる今日この頃。
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「誰もいないな」
「そうだねぇ…拍子抜けだけど。ま、easyなのは良いことだし降って湧いた幸運は享受しないとね!」
「シッ、誰か来るぞ」
テンションの高いジャックの口を塞ぎながら『ルカ』の影に身を隠すと男が三人入館してきた。相変わらずの入館料無料、学芸員ゼロ。要するにザルである。
ただ、ザルと言うのも入った男が余りにも堅気には見えなかったからだ。
一人は身なりの良いデブ。
もう一人は筋肉隆々の大男。
…そして最後の一人はサフィールだった。
こう見ると誰もが完全に裏社会の住人に見えてくる。
「まさか貧民街育ちのチミがよ〜くもまぁそこまで貧民街を憎めるね!ボプ感服しちゃった!」
「いえいえ。あの程度はまだ児戯の範疇です。私の本気はこんなものではありませんよ」
「ボプはチミだけは絶対に敵に回したくないね!」
「ええ、存分に恐れて貰って大いに結構♪」
愉しげな会話をしているようでその実腹黒い策謀が交錯しているようだった。
「『ルカ』と貧民街地下の火の魔素を溜めた石を繋げるなんて出来るのはチミくらいでしょ?」
「正確には魔石です閣下」
「クラーファルは細かいなぁ、ボプ憤慨しちゃう!」
デブにクラーファルと呼ばれた男は癪に触ったのか顔を顰める。
「まさか対スタンビート用魔石地雷が貧民街を破壊するだけ破壊して終わり、だなんてね!」
脳が理解を拒んだ。いつかのエンゲルの台詞が頭を過ぎる。
『いや、人身御供は正解だがそれでは根本的な解決には至らない』
『貧民街を爆破する』
次いで浮かんだのは『ルカ』についての情報。
『メインの展示は最初期の蒸気機関、『ルカ』。これだけ大きいと迫力が違うねぇ』
『第一魔素を利用しない、単に燃料を燃やす事で動力を生み出すものであるらしい』
燃料を燃やす原始的な動力がどうして地雷の起爆装置になるのだろうか。
「いやぁ…『化石』を蒸気式にするのは案外骨が折れましたよ」
「私も武芸の者で仕組みまでは理解出来なかったが察するに相当な無茶をしたのだろう?」
「そうですね…。月一の地下の魔石の具合調査人員に紛れ込んだりするのは中々に楽しかったですよ♪お陰で『ルカ』との連結も万全。『ルカ』に第二魔素搭載してますから爆破の威力はお墨付きです」
…女の子が死ぬのか?
俺は黙って女の子達が無残に死ぬ光景をまた見るのか?
「ハー、ルーン?」
まだ、力が足りない。
けど止めたい。
俺は女の子を護る盾でありたい。
「大いに良し!ボプも資金援助は惜しまないよ!」
「よくご留意下さい。最後に笑うのは『デイブレイク』ではありません」
クラーファルが笑みを浮かべ、デブは笑みを更に深める。
「最期に笑うのはボプ達」
「我等」
「『魔王軍』だと、ね?」




