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野生のチュートリアルがあらわれた1★

挿絵は後から付けるッ!

連投の悲しさがこれかッ!


《杉原清人》


異世界に到着した。

と、言っても場面がカットされたみたいに視界が一瞬で切り替わっただけだった。

何なら女神様に最新鋭のVRゲーム機を取り付けられて現在の所在地が仮想現実だと言われれば信じてしまいそうな感じ、と言えば分かりやすいだろうか。


余りにも現実と乖離したーー最悪な光景が広がっていた。


「糞が!貧乏人だからって足元見やがってッ!!」


「組合には報告したの?」


「あぁ?組合が動くわけ無いだろ!!」


薄暗い貧民街の路地裏は苛立たしげな声で埋め尽くされていた。

日本では嗅ぎ慣れないであろう埃っぽくて糞便と若干の死臭の混じった空気。

男女は口々に不満を言い、黒猫は鼠を口に咥えながら屋根伝いに歩いていく。

目に映る景色の全てが不快で排他的で胸につかえを残すようだった。


「ジャック、これが異世界のデフォルトなのか?」


挿絵(By みてみん)


案内人役を命じられたジャックに問いかけた。


「そうだねぇ、運悪く都市の闇に触れちゃったっぽいかな。異世界って言っても運営する主体が人間なら汚い面は少なからず存在するのは道理だから仕方ないよ」


どうやっているのかウィル・オ・ウィスプを模したギザギザな口を開いたりしながらそう言った。


「成る程な。…で、俺は何をすればいいんだ?当面の目標が無けりゃどうしようもないんだけど」


「一先ずは都市の中心部に行こうよ。それでギルドに入れれば御の字って感じだねぇ。ここから大体南側に進めば路地裏から抜けれるみたいだし、こんなところとはさっさとおさらばするよ」


ジャックが骨の指を指し示した先は舗装されていない道路だった。

やれやれと肩を竦めながらも早めにここを立ち去れるなら舗装されていなくても良いかと妥協する。


「それじゃ、行こうかね」


踵を返しかけたその時だった。


「そこな御仁。少々待ってくれませんかね?」


いきなり声をかけられて振り返ると汚い路地裏には似つかわしくない小綺麗な身なりの男が立っていた。

年齢は三十代位か。ステッキを突き、シルクハットとモノクルでスリムに整った風体は怪盗のようにも見える。


「私はハールーン。御仁を一流の魔素士カルマンと見受けしてお願いがあるのです」


魔素士カルマン?」


ジャックに無言の圧力で『魔素士カルマンって何だよ』と問うと、器用に南瓜の…顎?をハールーンの方に向けた。


どうやらチュートリアル宜しく解説してくれるらしい。流石の異世界クオリティである。


「おや、ご存知ないとは。では不肖私がご説明させて頂きます。魔素士カルマンとは空気中に存在する魔素カルマという力の根源を行使し、超常の力を顕現する素養を持つ人々を指す言葉です」


「この世界版の魔法みたいなものか…」


やはりこの世界にも魔法はあるらしい。

となると後の問題は魔法を行使する素養があるのは良いが俺が何の魔法を使えるかだ。


魔素カルマは六つに分けられ火、水、風、土、闇、光の六つに分けられます。そして貴方はどうやら火の発現に関連する第一魔素ファースト・カルマの素養に富む様でしたのでお声がけしたのでしたが、よもや自覚しておられなかったとは」


第一魔素ファースト・カルマ…火の発現か」


火を出せるのは単純故に中々の汎用性があって能力としては強い部類に入るだろうか。


粉塵爆発、バックドラフト、火災旋風。

熱衝撃も冷却する手段さえあれば出来るかも知れない。あと水蒸気爆発の可能性を考えれば火の発現にはロマンが詰まっているのが分かるだろう。文句無しの当たりと言えるのではないだろうか。


「成る程成る程…」


が、そんな事を考えているとは思わせないように極めて興味無さげに鼻を鳴らした。

勿論内心はガッツポーズだったりする。


「そんな貴方に私がお願いしたいのは私の護衛です」


いきなりの話の転換に眉を顰める。

胡散臭くなって来た。


「護衛?」


「ええ、護衛です。実は私、古物商を営んでおりまして。都市ではそれなりに有名で、国王様のお抱えになった事もあるのですよ」


「なった、って事は今はお抱えじゃないんだな」


胡散臭さが全国の香水屋が閉店するレベルになってきた。流石に嘘の臭いがプンプンする。


「お察しの通り。私は一品、国王様の献上品の鑑定に失敗したのです。それからお抱えの立場は他の商人に奪われ、私はいよいよ国王様に対しての不敬として処罰されそうになり脱走して今に至ります」


俺はジャックの半円形の目を覗き込み、頷く。


「どうかお願いします…私をせめて都市の外へと逃がして下さればお礼は弾みますから…何卒ご助力願いたく…」


「やだ」


「うむ?」


どうやらこの男は相当に難聴らしい。

今時珍しい、難聴系キャラのようだ。それとも加齢だろうか。悲しいものだ。だが俺の答えは変わらない。


「だから、やだって」


さて、そう判断した理由はいくつかある。

先ず身なり。

処罰を受ける寸前で逃げた奴が何でこんなに小綺麗な服装をしているのか、と言う点。


次にお礼。

俺が国王なら不敬と見れば先ず金を毟るのが普通ではないだろうか。

お礼が弾む、と言うのは余りにもおかしな話だ。それにここは路地裏。金をひけらかせば護衛に付く人は多いだろう。俺が護衛である必然性もない。


最後に脱走。

そもそも脱走という難易度の高さに気付いているのだろうか。

口ぶりから察するに単独で脱走出来たようだし、一人で脱走するような半ばチートみたいなスペックを持っているなら俺の出る幕は無い事になる。

要するに、『脱走出来るなら護衛なんて不要じゃないのか?』って事だ。


さて、肝心のハールーンの反応だがーー。


「ふむ、良い奴隷になると思えば…どうして中々な頭脳を…」


ドンピシャだったらしい。


「しかし、惜しい…」




「戦闘に関しては私が数歩先に行く様だ」


ゾワリと背筋が凍る様な感覚があった。

全身の皮膚が粟立つような濃厚な死の匂い。それは女神様が俺の首を落とした時と同種のものでーー。


「ジャック!!」


「承知だよッ!!」


俺の選択は手堅くーーとんずら。

ジャックという『案内人がいる』と言うアドバンテージはハールーンには無い。

ならば、俺は背後に気を使いながらジャックのルートをなぞれば撒く事も容易だろうという意図だ。


「無知」


しかし、企みはーー得てして簡単に打ち砕かれる。


脇腹に衝撃が走りボロ屋に転がり込んだ。

朽ちかけた木のささくれが肘をチクチクと刺し、申し訳程度に出血させる。

加速して蹴り飛ばされたと遅まきながらに理解しーー横に避ける。

次の瞬間、測ったように正確な蹴りが数秒前に俺がいた場所にめり込む。


「ほぅ、今のを避けるか」


「そりゃ避けるよな。だって当たったら死にそうだし」


大きな音が出たはずだが一向に人が集まる気配が無い。

そりゃあそうだ。

だって、ここは貧民街の路地裏。

好き好んでやって来る人間など、存在しない。


「避けるのも構わないが、私の蹴術のレベルは達人級、君の回避が何度も通用するなどと言うのはーー」


視界がブレたと思ったら目の前にハールーンは居た。

まるで、先程からずっとここに居たとでも言うように。


「思い上がりも甚だしい」


第一魔素ファースト・カルマッ!!」


ハールーンは驚愕に目を細め、慌てて距離を置いた。

今のはブラフだ。

俺は火の発現が出来るようだが使い方が分からない。

ならば取り敢えず言うだけ言ってそのまま逃げるのが得策だろう。

そんな考えでの第一魔素ファースト・カルマだった。


…やはり火は出ない。


「ったく、…序盤の街で主人公を狩る奴隷商ってありかよ」


とーー視界の端に緑色のツルが見えた。

余りにも場違いなそれを握り込むと、物凄い力で引っ張られズルズルと引き摺られながらジャックの前に出た。


「危なかったねぇ…」


やはりというかツルはジャックのものだったらしい。


「でも、あいつは追ってくる。なぁ、第一魔素ファースト・カルマの使い方って知らないか?」


「ゴメン、真面目に分からない。大体僕もまさかいきなりこんな展開になるとは思ってなかったからね」


と無責任に言い放った。

「そんな馬鹿な」と膝から崩れ落ちそうになるが、ある起死回生のアイデアが浮かんだ。


「…なぁ、ジャック。今更だけど『魔王の欠片』持ってたよな?」


「持ってるけど?」


曰く『魔王の欠片』は神々の中に於いても最高戦力を誇るのだとか。

加えてヤケに赤く染まった水晶である点、俺が火を操る素養がある点。

これらから導き出せる答えはーー。


「ちょっと貸してくれないか?」


『魔王の欠片』を手にした瞬間ーー。


「待たせてしまって申し訳ない。では、続きを始めようか」


ハールーンが追い付いた。


『魔王の欠片』が火の発現のキーであるならば取られた場合のケアは不可能。

相手が火を使う可能性すら存在する。

欠片の大きさは三センチ程度の尖頭形。

これならギリギリだ。

どうなるかは全くの不明だがーー。


「ギリギリ飲み込めないこともない」


「え?」


ジャックの驚愕の声を他所に俺は『魔王の欠片』をヒョイと口に放り込みーー無理矢理嚥下した。


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