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「やぁハールーン。元気かなぁ?」


目蓋を開けるとデカデカとカボチャ頭が映った。何の冗談だと目を瞬かせ再度眼前を目視する。

やはりカボチャだ。はて、何故俺はカボチャ頭に覗き込まれているのか。


「ハールーン、これは何だか分かるかなぁ?」


骨で出来た指を二本立てる。白くてスベスベしてて現実味の無い指だ。スベスベマンジュウガニの甲殻並みにスベスベしてる。良いダシが取れそうだ。…スベスベマンジュウガニは毒あるけど。


「スープのダシ。多分カボチャスープに最適」


「よぉし!その喧嘩買った!!」


さて、茶番はそろそろ止めて事の顛末を聞こうと体を起こすと腹部に痛みが走った。どうやらアニに切られた傷が完治していないらしい。異世界補正で起きたら完全回復してましたみたいなオチはどうやらないようだ。


「で、ジャック。俺はどうなったんだ?」


「うーん。取り敢えず、アラクニドに応急手当てされた挙句刻印刻まれて放置されてたねぇ」


何気なく視線を落とすと右の手の甲に蜘蛛の巣のような意匠デザインの紅いラインが刻まれているのが見えた。恐らくこれが刻印なのだろう。

『とくべつ』候補って台詞から察するにーー。


「…要するにキープされたって事か」


「あ、因みにキミが気絶してる間に『デイブレイク』がキミを狙って襲撃してきたよ」


「ああ、はいはい『デイブレイク』か…はい!?」


一瞬納得しかけたが、全然駄目だった。

またあのキチスペックに襲撃されて俺はよく生きていたものだ。自分に対して賞賛すら湧いてくる。


…まぁ、誰が撃退したのかはおよそ察しが付くが。


「アニが助けてくれたのか」


「ご明察。戦闘終わって僕を見るなり『私のとくべつ候補を死なせたら殺す』って冷徹な目で脅されちゃってさぁ。意外に愛されてるねぇキミ。因みにアラクニドは可愛い子には旅をさせよのスタンスらしく手に刻印つけていってそれからはどっかに行ったよ。運が良ければまた再会するかもしれないねぇ」


冷徹な目のくだりをどこか楽しげに語るジャックは愉悦に目を細めており、もしかしたらマゾの気質があるのだろうかと真面目に考えてしまった。


「ま、女の子との再会イベントって萌えるし燃えるよな」


この時点で半ば確定したイベントに思いを馳せる。

とくべつを探す女の子とカテゴリ萌えの残念な俺の奇跡の邂逅ーー。

この想像だけでご飯三杯はイケる。


「でも、アラクニドは強い人が好きっぽいし、再会するまでに寝取られてないといいねぇ」


「死ね!この外道カボチャッ!!!」


加減せずにジャックのカボチャ頭を殴り飛ばす。

拳がジンジンと痛むが気にしてはいられない。今このカボチャはおれの逆鱗をヤスリでゴリゴリ削った。ジャック許すまじ。


「俺には嫌いな物が結構ある!その一つが…寝取られ展開だ!!分かるか!?あれ程酷い裏切りはないぞ!女の子はまだ許すけど絶対に男は生きているのを後悔させてやるッ!!」


「わ、分かったから落ち着いて…」と煽っているのと何ら遜色ない陰険根暗カボチャの台詞は俺の火に油を…火事場に更にガソリンを撒き散らしたようなものだった。


「あのな!俺は全ての女の子が好きだ、正確に言えば個人としてではなく要素が好きだ!女の子に含まれてる可能性も好きだ!!」


「何か語り出したねぇ!?分かったよ僕が悪かったよ!僕の金で串奢るからさぁ…」


「え、マジで?」


伝家の宝刀、spiral手のひら返しが成功しジャックは謀られた…とほぞを噛んだ。



■■■■■■■




「キミ、どんどん燃費悪くなってるよねぇ?」


もきゅもきゅと肉を咀嚼しながらジャックの恨みがましい視線を甘んじて受ける。


「多分、魔素カルマの所為だろうな。ホラ、魔素カルマって体内から湧き出す不思議パワーと言うよりは空気中に漂うものを取り込んで行使する感じだろ?だから空気中の魔素カルマを取り込む、体内で魔素カルマを意識的に発現の方向性を命令する、体外に放出する、この三つのプロセスが半ば自動的に行われるから…極論メチャクチャ腹が減る」


「異世界補正の偉大さがよく分かるねぇ…」


つまり、俺が強くなれば強くなるほど燃費が限りなく極悪になって経費が嵩むということだ。

と、なれば余程の稼ぎがなければ街で餓死しかねない。

だから、魔素師カルマンは何処かに所属して大金を一度に稼ぐ、と。

全く嫌らしい仕組みだ。

旅をしなければならない性質上最悪にシナジーがないどころか寧ろマイナスだ。


肉を食べ終わり、人心地ついたところにーー。


「ハールーン。食べ終わったところ悪いけど、三つ目の『魔王の欠片』が出現したよ」


「場所は?」







「蒸気機関ミュージアム、『ルカ』の内部だねぇ」





第一章 完


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