焦燥と進化1
負けまくった。
アニに付き合って貰って午前中はずっと模擬戦をやっていたのだが戦績は三戦三敗。俺が一方的に負け続けた。
「…あ゛ぁ…キッツいなぁ」
負け続けた原因は大まかに二つ。
一つは俺の戦闘スタイルと持っているスキルのシナジーが無い事。そしてそれに付随するスタミナの消費の速さだ。
今の俺の戦闘スタイルは棺桶と大斧をデッドウェイトにして変則的な挙動で接近しながら大斧や魔法を用いて広範囲制圧、と言った感じなのだが、この広範囲というのが非常に微妙なのが困り者で、当たらないしスタミナを余計に消費する。
しかも魔法と斧の範囲がてんでバラバラで纏まりが無く器用貧乏になっている。
「速度を生かすとまず魔法当たらないし、魔法に専念するとそもそも武器が邪魔な上に速度も腐るとか…ままならないもんだよな」
一応、第四魔素の『地龍の顎門』は俺にしては珍しく近距離から放つ魔法で斧の『衝撃波判定』にも噛み合ってはいる。だが、それにも少しばかり問題があった。
『地龍の顎門』は発動すると少しの間だけ動けなくなってしまう制約があるのだ。
その状態で動くにはスキルのアシストないし魔法陣の上書きが必要になる。
つまり『地龍の顎門』を使った後の俺の取れる行動はスキルを発動して無理矢理硬直をキャンセルするか『地龍の顎門』から更に追撃するかに絞られる。
但し、追撃をする場合追撃に用いる魔法の種類にもよるがゴッソリとスタミナを消費して行くのだ。一連の流れを終えると更に長い硬直が掛かる。
…そのスタミナも専ら食事によって回復する為、札束で殴る戦略と言えなくもない。
六人ものメンバーを擁する旅団は常時金欠でありお財布に直撃する戦略を取るには少しばかり辛いものがある。
「スキルをどうにか増やして『地龍の顎門』を中心に攻めるのが一番安パイか。…その上スタミナ消費も少なく、だなんて盛り過ぎだよな」
「ん、そんな清人に朗報」
アニはそう言うと自分の左手首を出した。そこには俺の右手に着けてているものと同じような赤いミサンガが着いていた。
「秘密兵器なら問題解決出来る…。但しでめりっと付き」
アニは俺のミサンガから不自然に飛び出ている糸を引っ張るように促すと自分のミサンガの糸に手を掛けた。
ほぼ同時に糸を引っ張ると…糸が手首に食い込んだ。
「!?」
いや、食い込むだけでは飽き足らず紙で指を切った時のように薄く皮が切れて血が流れ出ている。
アニの方を見るが俺と同様に血が出ていた。
「アニ、これは…」
困惑する俺をよそにアニは血の流れる左手首を俺の右の手首に押し付けた。
ーー瞬間。
ドクンと、心臓が跳ねた。
体の奥底から熱いものが込み上げて来てそれが全身を巡っていくのがはっきりと分かる。
「これは…」
「ん、これが秘密兵器。『オブジェクトオブワンアフェクション』」
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…俺は秘密兵器を使用したデメリットの酷い倦怠感で動くのが億劫になりアニと互いの肩を寄せ合うようにして拠点に帰還した。
拠点に戻る頃には日も暮れていてカラスがカァカァと鳴いていた。
「……。確かに強いけどこれは流石にキツすぎるな」
「…同意。想定以上だった。頭がおかしくなる」
『オブジェクトオブワンアフェクション』の効果は絶大で硬直を無視する事が可能な上に身体能力も向上した。
だが問題は別にあった。
感覚が問答無用で殆ど共有されてしまうのだ。
勿論、触覚や痛覚も例に漏れない。
いきなり倍になった情報に脳が耐えれる訳もなく、動かなくても鼻血が出た。
これを使っている時に被弾したらと思うとゾッとする。
体感的に三分が『アフェクション』をまともに使えるギリギリのラインだろうか。
加えて『アフェクション』が終わってからの倦怠感はとりわけ酷く、まともに戦闘出来るビジョンが見えない。
「どうやったら強くなれるのかとか、今はどれくらい強いのかとか…気になり出すとキリがない」
独りごちる。
勿論アニには筒抜けなのは承知だ。
だが、言わずにはいられない。
俺は仲間を得た。独り善がりな努力の限界を知った。
でも、未だに誰かを守るだけの力は得られていない。焦りは禁物、とは言えど七日後には神との戦闘。不安にならない訳が無かった。
「大丈夫、清人は弱くない。それに仲間がいる。それを忘れないで」
「ああ、分かってる」
だが、果たして強いとはどういう事なのか。
守るとはどういう事なのか。
簡単な問いの筈なのにその意味を俺はまだ見つける事がでいないでいた。
漠然とした不安と焦燥が胸に燻っている。
これが何事も無く消えてくれるのか、将又大火となって惨事を引き起こすのか。
ーーその結末を今は誰も知らない。




