愚か者の孵化2
「やぁ清人、昨晩はお楽しみだったかねぇ」
仲間達の所へ戻るとやはりと言うかジャックが酷く下世話なお出迎えをしてくれた。
「ん、昨日は激しかった」
「ちょい待てアニ、明らかに誤解を招く言い方止めて!?」
確かに昨日俺は激しく泣いた訳だが…。
ジャックを見ると明らかにソッチの方で捉えたようでニマニマと笑っていた。
「…朝チュン初体験」
「アニ…頼むから本当止めてぇ…」
確かにそうではあるのだけれどそれを言いますか!?終いには泣くぞ!?
「…まぁ茶番はさておき聡明な僕は大体は察したよ。昨日抜け出した清人はアニに甘やかされまくって大泣きした、みたいな感じかな?」
「なっ!?何でそれを……」
「いやぁ、清人はヘタレだねぇ。あれだけattackしても頑なだなんて。イガラオ曰くその内にゃくっ付くけど今じゃないだろうよとは言ってたけどここまでとは…」
何故今イガラオの名前が出て来たのかよく分からなかった。
…ん?
待てよ、後は若い二人でって言った後おっさんは何処に行ったのだったか。
『ん!私達のイチャコラ見せつける』
んんっ?
あれ…あれあれっ!?
もしかして…いや、もしそうだったら悶絶して軽く死ねる。
「…イガラオと…いや違うな。全員グルだったのか?」
脳内に即座に伝わる喜色を含んだ「いえす」。
ジャックは誤魔化そうと口笛を吹いているが間違いない。クロだ。
「って事は…」
高笑いが聞こえた。
「にゃーっはっはっは!!蜘蛛子の初やんよが聞けて良かったわ!!にしても…『弱くて…ちっぽけな俺を助けてくれ。もう限界なんだ。失いたくない、守りたいと思えば思うほどに手から零れ落ちていくのが…怖いんだ。俺は幸せになりたいッ!!皆んなと笑って居られる日常が欲しかった!!ただそれだけなんだ…』」
ぶはっ!!
一が再現したそのシーンは本当に最悪だった。
無力感に苛まれ、口を突いて出て来た言葉は今度は羞恥心をグサグサと刺激する。
「止めろッ!!止めてくれ!!頼むマジで止してくれ!!」
「全く、団長ともあろう者が仲間を頼れなくてどうする」
呆れ顔で篝までもがフェードインしてくる。
「だが…旅を優先したのは好感が持てる。そこは純粋に良かったと思うぞ?」
「せやな。取り敢えずーー目は覚めたか?」
視界に仲間達が並ぶ。
アニ、一、篝、ジャック。
朝焼けに照らされた四人はこれ以上無く輝いて見えた。
『ホラ、何してんの。仲間が待ってるんだから団長なら飛び込みなさい。無様に頼って縋って、愛想尽かされるまで。仲間ってやつと旅を満喫しなさい』
あり得ない声がして振り向く。
『それがロマンってもんでしょ』
だが、振り向いても誰もいない。
あれは本当に彼女が言ったのか。或いは俺の願望か。
どっちでも構わない。今はーー。
「ああ、そりゃあもうバッチリだ」
飛び込んで行こう。
仲間達の元へ。
「あー、あー、おっちゃん出遅れたかぁ?」
「んな事は無い。イガラオも大切な仲間だ。…それに今まで本当に世話になった。こっからも世話になる」
「ほいじゃ、朝から景気良く酒盛りでもやるかぁ?やるならおっちゃんの安酒を振舞ってしんぜよう」
「いや、酒は後でだ。こっからは…ウタ婆を説得しに行くぞ」
ウタ婆も『ハザミ』の人間ならば非常に簡単な解決方法がある事を思い出したのだ。
Ko bu shi…即ち武力解決だ。
一騎打ちを申し込んで正々堂々とイカサマして確実に勝つ。但し仕込みは一切しない。
本当に堂々とイカサマする。しかも一切気取らせずに。
年老いた女性でも容赦はしない。
見ているかニャルラトホテプ。
俺が良いことを教えてやるよ。
物語ってのはなぁ。
往々にして愛と絆が最強なんだよ。




