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幻想旅団Brave and Pumpkin【UE】  作者: 睦月スバル
敗れし青年の散華
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今夜あの場所へ1

《一凩》


いきなり清人が倒れ込んだ。

ワリャには全く前後の脈絡が分からんのやけんど。…でも、今までの無理が祟ったってのは何となく分かった。

ウタ婆やないけど唯が死んでからの清人は責任に押し潰されそうになってんのを無理に跳ね除けているような感じやったからの。


夜毎に一人で抜け出して何かコソコソやっとったのは知っとったけど、男やさかい一人でナニしとるとしか思わんかった。


けんど現実はーー。


「…清人の手」


ジャックが清人の手を見て呟いた。

…ワリャも流石にこんなん見るのは久しぶりやったから驚いたわ。


「マメで手がグチャグチャになってるよ…」


清人の手はマメが潰れてグチャグチャやった。

いや、正確には蜘蛛子の回復力でマメを治した側からマメを作るほど斧を振り回して、潰してを繰り返した結果やんやろう。

見ていて痛々しかった。


「…清人、この世界に来た時はこんな手じゃ無かった。最近、無理をし続けた。その結果がこれ」


蜘蛛子が悲痛に顔を歪めながら言った。

その視線は言外に誰かを責めているようにも見える。

その視線の先にいたのはーー。

最近旅団に入った元『デイブレイク』の最高権威者の一人『曲芸』のイガラオ。


「んっんー…何だお嬢さん?人が気持ち良く寝てたのに敵意なんか向けられたらおっちゃん起きちまうじゃねえかよ」


「蜘蛛子、これはつまりどういう事なん?」


「……イガラオがずっと清人の訓練に付き合ってた」


「何でや?清人は一人で抜け出してたんやからーーあっ」


ここで気付いた。

ワリャとジャックと清人は同じ場所で寝とる。けど、最近入ったばかりのイガラオは寝る場所が無い。

勿論女性陣の寝床に放り込む事も出来んし、これが困っとったんやけど…清人が何とかする言うて…事実イガラオから不満も出ずに解決した。


清人一人だけ抜け出してイガラオと二人で訓練するには…。


勿論、この旅団は毎度金欠や。けど清人の事やイガラオ一人に負担を強いる真似はしないと思う。

つまりその答えはーー。


「ーー無限収納か」


無限収納には生物も入るって前に言うてた。加えて霊衣を変えても中身は変わらずどこでも取り出せる。

棺桶にイガラオを入れて霊衣をワリャと出会った頃のやつに変えれば嵩張らない分バレにくい。


「正解。ご褒美に三十イガラオポイントを進呈だ」


「…何でここまでやった?明らかにやり過ぎやろコレ。訓練にしちゃあ常軌を逸しとる」


イガラオはポンパドールの髪を弄ると面倒くさそうに溜息を吐いた。


「キヨトがそう指示したからだ。それに文句なんか言えっこねえだろう?本人が強くなりたいって言ってんだ。なら、老い先短いこの身体に鞭打っても叶えてやりてえのが老爺心さぁ」


「お前…ッ」


結局清人が無理して壊れたら、元も子もないやろうが!!


「おっちゃんを咎めるかい?一凩」


挑発的にイガラオは目を細めた。

口元は何処かニヤついとって気味が悪い。


「当たり前や!!何でお前は飄々としていられる!!清人をボロボロにしといて」


「……蜘蛛の嬢ちゃんの方が幾分かお利口だな」



「お前、自分の事棚に上げて何言ってるんだ?って事だよ」


「は?」


意味が、分からんかった。


「良いか?キヨトはただ訓練してただけじゃねえ。各員の戦闘時の癖を洗い直して配列を変えてた。それにおっちゃんも一枚噛ませて貰ったんだよ」


「それがーー」


「話は最後まで聞けよガキ」


イガラオは懐から煙草を取り出すと慣れた動作で火を着けた。

そこにいるのはだらし無い浮浪者なんかやない。かつて騎士団を率いた仕事人がそこにはおった。

居るだけで空気が張り詰めて、動いとらんのに蠢いとるような圧が脳みそを揺さぶる。


「何でキヨトがこんな面倒な真似をしたか分からないのか?」



「キヨトがテメエ等を失いたくなかったーー守りたかったからだよ」


「!!」


漸く分かった。

蜘蛛子が清人を止められなかった訳が。

いや、こればかりは誰にも止められん。

…清人はワリャ達を守る為に必死になって努力した。それを誰が止められると言うのかーー。


「正直キヨトの強さは微妙だ。単体ならそこそこ強いが肝心のパーティープレイに殆ど向いてない。噛み合いがあるのは蜘蛛の嬢ちゃん程度だ。こんなんで守る、だなんてちゃんちゃら可笑しいよな。だから考え方を変えたんだ」


「『どうしたら仲間を失うリスクを低く出来るか』、に考え方を変えたんだね?」


清人の治療を終えたジャックがそう言うとイガラオはまたイガラオポイントを進呈、とニヒルに笑った。


「そうだ。キヨトは二度と大切なものを失わない為に努力した。だから今まで苦戦と言うものが無かった。違うか?」


確かにここまでの道程で…後衛を担うジャックは勿論、前衛のワリャも篝も殆ど攻撃が被弾しなかった。

…あまりにも呆気なさ過ぎた戦闘の真相は清人とイガラオの采配によるもんだと、ワリャは気付けなかった訳や。


だけんど、少し思ってしまう。


「どうして…相談してくれんかったんや…ワリャ達仲間やろ…」


「それは…無理。清人には出来ない」


意外にも口を開いたのは蜘蛛子やった。


「清人は…守りたい人にほど相談が出来ない。不安を持たせないように平静を装いたがる」


「だから入ったばかりでキヨトの中でも取り分け優先度の低いおっちゃんに頼った訳だ。きっとテメエ等に頼れば不安にさせるって思ったんだろうよ」



「弱い人間が強くなるってのは想像以上に糞難いんだぜ?」

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