夢幻と散華1
▼ おや、きよと のようすが…?
《杉原清人》
俺は、夢を見る。
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《『杉原清人』》
唯との帰り道、いつもの道路。
そこに見慣れない段ボール箱が放置されていた。
「何だろうこれ」
「…多分中は仔犬ね。動物モノにありがちな展開よ」
ふふん、と胸を張る唯を見ながら成る程と段ボール箱の中を覗くと…タオルケットに包まれた仔猫が気持ちよさそうに眠っていた所だった。
「……。まぁ、こんな事もあるわ。それよりこの黒猫、案外可愛いじゃない」
唯が黒猫を撫でようとすると黒猫はパチリと目を覚ましてシャーと唯を威嚇した。
唯はいきなりでびっくりしたのかワタワタしていてとても可愛い。いつもツンケンしてる分とても新鮮で…自然体に見えた。
唯は不器用で友達も居ないけど動物の赤ちゃんとかは好きだし、可愛いものも年相応に好きなのだ。
「起こしちゃってごめんね」
そう言いながら人差し指で優しく撫でると黒猫は小さな舌でチロチロと指先を舐めた。少しザラついていてあったかい。
生の温もりと言うやつだろうか。小さいながらにもその体温は活力に満ち溢れているように思えた。
「そうだ。名前を付けるのはどうかしら?学校の帰り道でしばらくは会いそうだし」
「良いと思うけど、名前思い浮かばないな」
「チェシャよ」
「え?」
黒猫を指差して唯は堂々と宣言した。
「いい、あなたは今日からチェシャよ!」と。
黒猫は不服そうに低く唸ると唯は渋い顔をした。
「ハイカラ過ぎるんじゃないかな。もっとシンプルなのが良いんじゃない?」
「じゃあ清人、あなたが決めなさいよ」
「…クロ?」
そう呼ぶと黒猫はみゃぁと機嫌良く鳴いた。どうやらお気に召したらしい。
代わりに唯はお気に召さなかったようで露骨に不機嫌になった。
「ふん、単純な名前。やっぱり清人は清人ね」
「あははは…なんか怒られてるよ…」
「みゃぁ!」
これが『杉原清人』とクロの出会いだった。楽しくて暖かくて。穏やかな日々。
きっとこんな幸せがずっと続くのだろう。
…そうなれば良い
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俺は、夢を見る。
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唯の家出を手伝った。
夜の公園は人気が無くて少し寂しいけれど田舎に近い場所だから星が綺麗に見える。
「……」
俺は唯の家にあったキュレットについて聞けずにいた。勿論その仕様用途についても教えてもらった。
若過ぎる妊娠は死亡率が高いし、堕胎させるリスクも大きい事も聞いた。
今まで気づけなかった自分の無力が恨めしい。
それに…辛いなら、もっと言って欲しかった。
仮にも俺は唯の彼氏だ。問題解決とはいかなくてもやれる事があるはずだった。
いや、そんな事は俺の思い上がりかも知れない。
けれど、唯の為ならば銀河鉄道の夜の蠍のようにこの体を百回灼いても構わない。
今の俺に責任を取る力は無いけど、きっと将来はキチンと働いて唯を両親から解放したいと、本気で考えている。
ただ、彼女と共に居たい。
「なぁ、唯」
「……吸い込まれそうな空よね。夏の大三角も見えるし。本当に綺麗」
彼女は空を見上げていた。
暗澹とした瞳に星々の光が映り込む。
静かで穏やかなのに何処か危うい。そんな妙な感じがした。
「ねぇ清人」
「私の事…好き?」
「俺は…っーー!!」
だが、クロが唯の膝から降りて道路へと走り去って行った。
唯はクロを追って道路に飛び出しーー。
「え?」
音が消えた。
ゆっくりと身体が傾く彼女。
容赦なく轢き潰していく車。
かと思ったら耳が千切れそうな程煩いブレーキの金切り声。肉が千切れる音。
全部ミックスされて気持ち悪気持ち悪気持ち悪い気持ち悪い、気持ち悪い。
初恋の人がすり潰される様を何も出来ずに呆然とただ眺めていた。
絶望が心を黒く染めていく。
何だ、これは。
唯が何をしたと言うのだ。
何も悪く無いのにどうして世界は彼女にだけ不幸を振りかける。
俺は初めて神を呪った。
誰かの笑い声が聞こえた。
俺だった。
俺は笑っていた。
辺り一面にゲロをぶち撒けながら泣きながら笑った。
笑うしか無いと、笑った。
悪夢なら覚めてくれと願い、笑った。
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俺は、夢を見る。
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▼ きよと は はっきょうした !!




