女郎蜘蛛3
《女郎蜘蛛》
「でなぁ、アラクニドが最近一人で狩りをするようになってなぁ…最近アタシが編み出した加速方法もマスターしたし凄えんだよ。アタシの爪で作ったダガーを完全に使いこなしてるし…師匠として立つ瀬がねえよ…」
「酒飲みながら私の十六連撃を捌いてる奴がそれを言うかい」
その日もいつものように二人は戦っていた。
哥燈が突きを起点にした怒涛の十六連撃ーー『翌桧』を放つも糸による強制的な身体操作の前にあっさりと躱されている。
しかも女郎蜘蛛は酒を飲みながらだ。
哥燈はこれが天才の所業かと余りの力量差に落胆するが、それでも老いて尚進化を続けるその姿は女郎蜘蛛にとって畏敬の念を抱くに足るものだった。
「ま、アラクニドと同程度の腕のやつとガチで殺し合いをするならアタシが勝つけどな。技量も引き出しもアタシが負ける道理がない」
「だと良いけどね」
「…何だよ、今一切れが悪いな。何だ?私が負けると思ってるのか?」
もしーー。
もしもこの時に詳細を女郎蜘蛛に伝えていれば。
ここから始まる悲劇は恐らく無かった。
哥燈と女郎蜘蛛は共に良きライバルでい続け、アラクニドは女郎蜘蛛を師と仰ぎ、哥燈はアラクニドを孫のように扱えただろう。
だが、現実そうはならなかった。
「最近、魔獣が増加傾向らしい。アンタも気を付けな」
「はっ、アタシがそんなのに負けるもんかよ。上等じゃねえか」
「…まぁ、アンタなら或いはそうなのかもしれないね。要らぬ心配だったか」
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《一凩》
そこまでの話でワリャはとんでもなく驚愕しとった。女郎蜘蛛とウタ婆の関係ーーやない。
それはーー。
「嘘やろ……?だってウタ婆は絶対に『あの事』を口うるさく言うんやないんか?」
ワリャはこの時点でウタ婆がとんでもない失敗を仕出かしたのを察したから。その一点に尽きる。
ウタ婆が魔獣と戦う前になると必ず言っていた事。それを今回だけ言っとらんかった。
二人は旅人で『ハザミ』へは初めて来たらしい。
なら、『あの事』は知らない筈や。
『あの事』を言わなかった。ただそれだけがウタ婆の致命的な失敗やった。
チラリと篝の顔を盗み見る。
やっぱり篝もその先の展開を察したからか表情はいつもよりずっと硬い。
そりゃあそうやろう。
……篝も同じ轍を踏んだんやから。
それに……『ま、『アラクニドと同程度の腕のやつ』とガチで殺し合いをするならアタシが勝つけどな。技量も引き出しもアタシが負ける道理がない』。
あの時、明確に『蜘蛛子と殺し合いをしても』とは言うとらんかった。
ってなれば行き着く結果はたった一つしかない。
「……ウタ婆が蜘蛛子を遠ざけるのは罪悪感から…やな?」
「…勘の良いガキは嫌いだよ。さぁ、ここからが終わりさね。つまらない幕引きをとくと聞きな」
ワリャが知っていて、篝が蜘蛛子と同じやらかしをした。
そこにワリャは運命の悪戯のような底意地の悪いものを感じた。
答えが先に知りたい人は連理の鶴翼【中編】を読み返してみて下さい。




