奇妙な共闘2
「ニャルラトホテプ…!」
緑色の髪、眠たげな青い目、道化師のようなフリルのついた衣装。
間違いようがない位、ヤツだった。
棺桶から威嚇にしかならないであろうダガーを取り出して不恰好に構える。
ここはコロウスの往来だ。俺の得意とする大型の得物を高速でぶつけてついでに火球をバンバン打ち出す戦法をやれば周囲の被害は計り知れない。
お世辞にも練度の高い武器を使えない現状にもどかしさすら覚える。
敵意を込めて眼前のニャルラトホテプを睨み付けるとーーニャルラトホテプは肩を竦めた。
「せっかちはいけませんねぇ。今の私は『千変万化のファラ』デイブレイクのリーダーです。敵対こそすれ本気で戦うつもりはありませんよ。寧ろ、そうですね今回は一回限りの共闘を提案しに来ただけです」
イガラオが『千変万化のファラ』と言った時点で察してはいたが案の定そう言う事らしい。
ニャルラトホテプと言う神格は様々な姿を有している、それこそSAN値が減りそうなやつから真っ黒なイケメンやら閉じた箱まで、上げれば枚挙に暇が無い。千変万化と言うのも頷ける。
閑話休題。
「共闘だって?」
ええ、と機嫌良くニャルラトホテプは頷いた。
果てし無く嫌な予感がする。
理由は至極簡単、コイツが絡むと状況が絶対に悪化するからだ。寧ろ悪化したサインがコイツな可能性もあるが。
先ず始めて会った時、あの時コイツは何を仕出かした?
貧民街爆破の罪をなすりつけたな。よって絶許。
じゃあ二回目は?
……黒幕ムーブでアドバイスをくれたか。あの時だけは正直言って助かった部分もある。が、足し引きゼロにはならない。
三回目、忘れもしない。
とんでもなく非人道的な実験をしていたのが判明した。…邪神に人道を説くのもおかしな話だが。よって絶許。
四回目、三分で死に掛けた。よって絶許。
五回目、世界を爆弾にするとか言い出した。よって絶許。
総じて結果は惨憺たる有様になっている。助かった場合もあるにはあるがそれよりも多く被害を被っている訳だ。
こいつの提案は多分ロクなものじゃない。
「この世界にヤード=サダジが来ますからね。流石に私だけで対処するのも面倒ですしあなた方にとってもここで世界が終わり、だなんて興醒めでしょう?」
「…おかしいな、目の前に世界を爆弾にするとか言う頭のイカれたやつがいたはずなんだけどな」
棚上げもここまで来ると一層清々しくなって来る。ご丁寧に『崩界』なんて名前までつけてやれ終焉のシナリオだのと言っていた人物とは思えない物言いだ。
「で、そのヤード=サダジってどんな神格なのかなぁ?」
ジャックが蔦で器用にハテナを作りながら尋ねた。
…普通ハテナの下の丸と上のヒョンってやつがくっ付かないといった状態は蔦で作る都合上絶対にあり得ないのだが、まぁ多分異世界補正の為せる技だからと無理矢理納得する。
もう突っ込むまい。
「…生きるど●でもドア、ですかね」
ニャルラトホテプは神妙な顔つきでそう言った。
顔付きの割に内容が何だか夢に溢れていそうなのは俺の思い違いでは無い筈だ。
だが、アニだけは違ったようで少しだけ顔が青褪めている。それだけではない、アニから恐怖の感情がダイレクトに伝わって来た。
何がそんなに不味いのだろうか。
生きるど●でもドアと言う事は要するに常時テレポート…。
…成る程、不味い訳だ。
「まさか、本当に『どこでも』な訳無いよな?」
「お察しの通りーー『どこでも』移動出来てしまいますよ♪」
脳髄を氷柱でなぞられたような冷たい衝撃が走った。
俺の考えが正しいならーーヤード=サダジは体内にすらテレポートが出来る事になる。
そんな事をされたらただ内部から出現するヤード=サダジによって全員が爆発四散する最低なワンサイドゲームにしかならない。
間違いなくその先にあるのは全滅だ。
「っ…」
「ですがーーえぇ。私としてはナンセンスな訳ですよ。体内に入って終了、なんて興醒めも良いところです。何の面白味もない。ですので外部から来た私の作ったルールを思いっきり無視する輩には少々調整を加えます。あぁ、勿論ジャックは調整無しです。案内人としての役割を全うしてもらわないと困りますからね。時間間隔ありのリスポン程度なら私の度量で許可しますとも」
「さて、改めて尋ねましょう。貴方達は共闘を選ぶか、見捨てる事を選ぶのか」




