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とくべつになりたい1一1

なし崩し的にジャックと再びコンビを組む事となった俺たちは一度街に戻る事にした。


「久しぶりの空気だな…若干油と埃っぽいけど、血の匂いよかましだな」


「一端の事言っちゃって…。その文脈だと清人が沢山ゴブリン殺したみたいじゃないかなぁ。実際、君がゴブリンにボコボコにされて血の匂いがプンプンしてただけでしょ」


「自動洗浄機能付の霊衣じゃなかったらもっとヤバかったんだろうなぁ…」


しみじみと呟く声には街を勇んで出た時のような覇気はない。

と、言うか生気とかハイライトとかゲーム的にはMPみたいな…この場合は魔素カルマだろうか。そういった物が軒並み枯渇していた。


視界の端に前回寄った羊肉の串焼き屋を認めるとなけなしの金を握り締めながら『単一加速シングル・アクセル』を使用した際と遜色ない速度でダッシュする。


「おっさん!塩二本!羊肉マトンで!!」


「お、おう。しっかし、どっから湧いたんだか…。あんたもしかして前世ゴキブリか何かか?」


軽口を叩きながらもおっさんは手を休めない。熟練した手際で肉を串に刺すとすぐさま焼き始める。

ジュウジュウと蒸気に紛れて肉の焼ける匂いが立ち込める。


ーー肉ッ!!


俺の舌は飯を…否、肉を欲していた。

今朝の杉原清人は血には飢えていないが肉には飢えていた。

舌は打ち震える位の肉汁の暴力を、火傷する位の莫大な質量を求めて止まなかった。


「おら、出来たぞ!」


手渡されると同時に荒っぽく代金を叩きつけ一心不乱に貪った。


これが肉だッ!!

これこそが肉の愉悦ッ!!


「あんた、旨そうに食うのは良いけど周りがドン引きしてるぞ…」


忠告すら耳に入らず、咀嚼に全霊を傾ける。


「何やってんだか…って僕の分ない!?ヘカテの毒入りキュケオーン地獄でタダでさえ食傷気味の僕に当てつけるように食テロをやらかすなんて!」


串を一本を完食し、やっと理性を取り戻しながらキュケオーン?と尋ねた。

勿論二本目の串を口元に運びながら。


「ミントを調合したギリシャ風麦粥だねぇ。蜂蜜とかチーズも入るかな。ただ、食べたら豚になる。…キルケーじゃあるまいし勘弁して欲しいよ!!」


「ふぅん」


「反応が薄いッ!?」


二本目の串を食べ終わり串焼き屋に備え付けられたゴミ箱に串を捨てるとジャックを気にせずギルドホールへと足を進める。少しは待って欲しいねぇ!?との抗議の声を黙殺し、早足で歩いたのだった。




■■■■■■■■■



「お前さん…どんな無茶したらこうなるんだ?」


「スタイリッシュな自殺」


エンゲルは俺が答えない事を悟るとゴブリンの討伐部位のツノを換金しながら溜め息をつく。


「しめて金貨二枚だ」


「しょっぱいなぁ…」


「ゴブリン相手に高値出したら都市が潰れちまうよ」


それより…とエンゲルは続けた。


「どうやらゴブリン絡みで厄介な事になったようだ」


厄介ごと?と首をかしげると声を潜めながら、


「飽くまで噂の範疇を出ないが…どうやゴブリンの集落コロニー付近で『アラクニド』が出たようなんだ」


「アラク…ニド?」


『アラクニド』、確か蜘蛛の事だったか。

異世界という立地を鑑みるにアラクネの親戚だったりするのだろうか。


「そう、『アラクニド』だ。お前さんとは極力合わせたくない輩だ。事故るのが目に見えて分かるしな」


極力合わせたくない輩、とな。


「『男殺し』、『一方的略奪愛』分かるか?全部そいつの二つ名だ。奴は『シッパーレ・アモーレ・ニード』ってモンスターに育てられた…人間なんだけど中身はまんまモンスターなんだ。奴は理想の番いを探し求めてそのモンスターと同じように行動するんだよ」


「『シッパーレ・アモーレ・ニード』?」


「『シッパーレ・アモーレ・ニード』ってのは上半身人間、下半身が蜘蛛みたいになってるモンスターだ。雌しか存在しないその生態はゴブリンとは真逆、男性を見繕っては殺し見繕っては殺し、生涯に一人だけの本物…生き餌兼繁殖相手を探すんだそうだ。それを人間がやるんだから末恐ろしいよな全く」




■■■■■■



「にしても、酷いネーミングセンスだよねぇ…」


ジャックはギルドホールを出るなりそう口にした。

『シッパーレ・アモーレ・ニード』の事だろうか。


「アモーレはイタリア語で愛だったっけ?他は分からないけどな」


いいかい?とジャックは俺の方に向き直りカボチャの頭をカタカタと揺らしながら実に楽しげに、半ば俺の無学を嘲笑うように口を開く。


「『シッパーレ・アモーレ・ニード』、イタリア語でシッパーレは略奪、アモーレは愛、ニードは巣。直訳、略奪愛の巣だ。どうやら属性を前面に押し出してるらしいねぇ」




「さて、ゴブリンの集落コロニーに女の子が更に追加…君の前に吊るされてる人参は一本追加された訳だ。どう?やる気が出たかな?」


「確かに…」


喉奥で反響するようなクツクツとした笑いを漏らすと俺は目を輝かせた。


「女の子がいる先に俺はいる。エンゲルには悪いけど渡りに船だ。モチベーション上げて行こうか」


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