Active time event千変万化の思惑
《『千変万化』のファラ》
「それは歌っています。狂おしく、悍ましく、暗澹たる空で一人括れた腰と浅黒い肌の御仁は楽しげに歌っていました。
えぇ、あれを見れば誰もが気が狂うでしょうとも!!
人間の陳腐な想像力では思いもつかないほど醜悪な肉で出来た塔が青褪めた月を背に太鼓を打ち鳴らし、笛を吹くのです!その笛の音色といいますか、それはそれは聞くに堪えない酷いもので、ははぁ成る程、これが純然たる狂気のーー」
「楽しげな様子だな『千変万化』のファラ」
身体をくねらせながら上機嫌に語る『千変万化』のファラの前に進み出たのは獅子の如き眼光を持つ一人の男だった。
「シュヴェルチェですか、人が折角楽しんでいたのだから空気を読んで最後まで聞くべきだとは思いませんか?ここからは語り手の破滅が始まる良いシーンなのですし」
そう言うだけ言うと『千変万化』のファラはーー否、ニャルラトホテプは男に向き直った。
「それで、要件は何ですかシュヴェルチェ」
ここはン・ガイの森の上空に浮かぶ蒸気駆動空中艦『セラエノ』。デイブレイクの中でも最高位クラスの幹部、通称『六陽』メンバーしか出入り出来ない秘匿された場所だ。
そしてこの筋骨逞しい巌のような武人ーー『剛腕』のシュヴェルチェもまたその例に漏れず『六陽』のメンバーだった。
「『魔王』とは別口の侵略者がこの世界に来るようだが、その対処はどうするつもりだ」
侵略者、と聞いてニャルラトホテプは露骨に顔を顰める。
現状ニャルラトホテプはパワーバランスの均一化に苦心していた。
と言うのも、自らが率いる『デイブレイク』、魔王復活を目指し互いに牽制し合う『魔王軍』。そして全ての救済を唱う杉原清人を筆頭にした『Brave and pumpkin』と言う第三勢力。
加えて地球の変調した神々、地球の実権を握る神々、そしてーー旧神。
気付けば地球とペイラノイハ合わせて六つもの派閥が生まれていた。
「…現状、侵略者は我々の手に余る代物ですからね。こればかりは破滅を覚悟して田舎に引っ越してスローライフなど如何でしょう。案外楽しいかも知れませんし」
「…笑えんな」
シュヴェルチェは腕を組みながらニャルラトホテプを睨み付ける。
「大体、貴様。手札を過分に残しているのだろう?」
ほぅ?とニャルラトホテプは値踏みするようにシュヴェルチェを見つめ返した。
決して仲間内であるような雰囲気ではなく一触即発、火花が散るかと錯覚する程に緊張した空気が流れる。
「まぁそうですね。間違いはありません」
「ならば、何故それを使わない。よもや世界なぞどうでも良い、とは言うまいな?」
「はいそうです」と言えるのならばどれだけ良かった事か。
ニャルラトホテプにとってこれはただの退屈凌ぎでは無くゲームなのだ。
ラスボスは自分。主人公たる杉原清人の挫折と苦悩の先、冷たい玉座に居座る自分の姿を夢想すると何だか少しだけ小気味良い気分になる。
自分が勝てば負けた杉原清人の怠慢と力不足を嘲弄し、自分が負ければ不甲斐ない自分を自嘲する。結果的に笑うのはどの場合もニャルラトホテプただ一人。
それがしたいが為にニャルラトホテプはこれまでの時を過ごして来た。
全ては全能故の退屈を満たす為に。
だから折角御誂え向きに整備したグラウンドをどこの馬の骨とも分からない輩にめちゃくちゃにされる、なんて事は非常に具合が悪い訳でーー。
「はぁ、止むなしですかね」
ニャルラトホテプはステータスを表示する。杉原清人の殆ど使わなくても変わらない程度の情報しか載らないステータス表示とは違い、ステータスは六面に渡り展開された。当然その情報量も破格であり常人が見てしまえば瞬時に脳が焼き切れてしまうだろう。
「イベント精製画面…。ああそう言えばtrpgにもこんなシナリオがありましたね」
何がともあれ杉原清人次第の出たとこ勝負になる。
狂える太古の地球を支配した神に味方して侵略者としてその名を広めるのか。
或いはーー。
「私たちと一度だけ、たった一度の奇妙な共闘をするのか」
ニャルラトホテプは楽しげに嗤うと鼻歌混じりにイベント概要を送付した。
ニャルラトホテプ、そして封印を打ち破り猛威を振るわんとする旧き神。ーー杉原清人の知らないところで歯車は回り出していた。




