『Brave and Pumpkin』
イラストは後から書く。
文章もパッションで書いただけだから後で直す。
……今は唯の最期を見てやって欲しい。
推奨曲はwish〜キボウ〜ですかね。
「例え唯の命が僅かでも。…俺が…杉原清人がお前を幸せにしてやんよ!!」
手立ては見えないし、唯が考えている事なんて分からない。
けど不思議とそう口にしたこと自体に悔いは無い。
言わなければ分からないことも多いのだ。
たとえ、それが身勝手な願望であっても。
俺に出来るのは…多分これしか無いんだと思う。
「俺は俺の出せる力の全てで、唯を受け止める!!」
受け止めて、受け止めて、受け止める。
受け止める為に専心を注ぐ。
それが俺に出来る唯一の返礼。
最期の一秒、刹那まで、ずっと彼女の側に居る覚悟はとうに出来ている。
「…来いッ!!」
「はァァァッ!!」
斬撃が飛び、火の粉が舞い踊る。青薔薇が舞い散る舞台の上、二人の影が幾度も交錯した。
「霧よ煙れ!!」
「受け止めるんじゃ無いのかし…らッ!!」
「恋は駆け引きって言うだろ。受けるだけじゃ楽しくないしな!」
水が舞台を彩り、霧が暗幕のように舞台を覆い隠す。断続的に攻守が入れ替わり後には薄っすらと血のラインだけが残った。
「まだまだ!私は…ッ!!」
「なら踊ろう!最期の瞬間まで…ずっと!」
「言われなくてもッ!!」
ここは二人きりの舞台なのだ。武器を手に舞い踊ればそれが多分正解。
何度危ない目に遭っても、やめられないし止まらない。
だから今は命を燃やすだけ。
唯が手を上げると虚空から無数の杭が出現し、手が下ろされるのと同時に放たれる。軌道はまるで無茶苦茶だが、それ故に読みにくい。
杭同士がぶつかり合い軌道が常に変動する様は豪雨にも似ている。
その全てを見切って回避は不可能。
ならばどうするか。
「一切を灼き尽くせば上等だ。いくぞ…本物の大禁呪の贋作、見せてやんよ!」
杭だけ全部、燃やせばいい。
これはコロウスで見た本物の魔法。人智を超えた奇跡。火のオブジェクト操作の極致。伊達にいつも(偽)を使っていない。
脳内シミュレーションは…完璧なんだよ!!
『天をも焦がす灼熱の鼓動、今こそ顕現し万物を焼却しろ』。
これが詠唱なのは覚えてる。
覚えてるんだが…ッ!
「天をも焦が…危なっ!?ちょい待て、手心!!手心プリーズ!!碌に詠唱出来ないから!!」
燃やせば勝ちだと思っていた。
けれど残念。燃やす暇が無い。
「…誰が好きな男の厨二病じみた詠唱を聞きたい女がいるかしら」
「俺もここまで来てこんな詠唱するとは思わなかったよッと、またまた危ない…」
彼女は手抜きという事を全くと言って良い程しない。いつでも全力投球。但し全て変化球みたいな。
「惨状加速システムの速力ならどうだ!!」
しかし、相手は物量の暴力。
被弾は免れない。しかも軌道が不安定と来た。
分かっている。この方法は悪手だと。
無論(偽)イルク・アルクで常時迎撃はしているがどうしても数で劣る。
第四魔素で壁を作っても直ぐに壊されてしまう。完璧なジリ貧だ。
熱衝撃、粉塵爆発、攻殻千本ノック…どれも使えそうにない。
「目には目を、歯には歯を。物量には物量…ッ!」
発想の転換だ。
要するに全部消さなくても相殺出来れば良いのだ。
つまりーー。
「火炎槍展開、仰角修正セット」
(偽)イルク・アルクを起動、走りながら杭に向けて静止させてーー。
「水球多重展開、回転数制御完了、セット」
だが、まだまだ溜める。
そして最後はーー。
「礫展開、増殖完了、セット」
火、水、土のオブジェクトが舞い踊る。
さぁ、弾幕ゲームの始まりだ。
「…行きなさい」
「ぶちかませ!!」
弾幕同士がぶつかり合う。
炎を吹き上げ、飛沫を飛ばし、砂礫が吹き飛ぶ。
そこでーー急に唯の弾幕が弱まった。
「まさか……」
立ち込める土煙の中、肩で息をする影があった。
ーー唯はサーベルを杖代わりにして漸く立っているような有様だった。
「唯ッ!!」
そのサーベルもひび割れて行き、やがて粒子となって空へと伸びて消えた。
ーー時間切れだ。
急いで唯の元へと駆け寄る。刻印がⅫを示しどす黒く染まっていた。
「……唯」
情けない声で名前を呼ぶ。
「…最後の最後まで犬みたい。馬鹿よね…清人は」
そう言うと唯は自分の手を俺の頬に添えた。
その手はいつもの手に戻っていてひんやりと冷たい。
「貴方はもう私の犬じゃないの。貴方はもう自由。それに……泣くなんて卑怯じゃない」
そう言われてやっと自分が泣いている事に気がついた。
さよならは泣かない、ってのが定石。
湿っぽいのはナンセンス…そう思っていた。けれど…大切な人が死ぬと思うと胸が締め付けられて勝手に涙が出て…悲しくなる。
「……本当はずっと私の犬でいて欲しかった」
マスクが壊れて消えていった。
やつれた素顔が露わになり思わず息を飲む。
「何の悪意の無い顔を向けて。私が何してもずっと笑っててさ。そう言うの、清人しかいなかった」
地球での出来事に想いを馳せ、遠い目をした彼女はフッと笑った。
「でも、これからは違う。こんな死にかけ女よりアニの事だけを気に掛けなさい。絶対に幸せにしーー」
「馬鹿ッ!!」
知らずのうちに叫んでいた。
「俺がどれだけ唯が好きかを知ってるのかよ!!」
「ーー俺は唯の事を一万年と二千年経っても好きでい続けるからな!!」
馬鹿げた告白が舞台に響き渡る。
青薔薇はもう舞わない。
崩れるのを待つばかりのボロボロの舞台だ。
「ーーもっと」
「もっと愛したかった!!愛されたかった!!清人とずっと一緒に居たい!!清人の隣で笑っていたい!!一緒の時を過ごして、一緒に泣いて、一緒に苦しんで足掻いて、踠いて……もっと幸せになりたかった!!」
唯は俺の馬鹿げた告白に誘発されて半ば暴発するように心情を吐露する。
「嫌だ…死にたくない…ずっと綺麗な最期を作る事に固執してたけど…やっぱり死にたく…」
俺は、自分からキスをした。
自分からは初めてのキスだ。
卑怯なのかもしれない。続く言葉を言わせたくはなかったのだ。
「当たり前だろ…。死ぬのが怖くない人間なんていない。当たり前の事なんだ」
「…今更気付くなんて。私って本当…馬鹿」
「馬鹿はお互い様。そうだろ?」
そうかも、と彼女は力無く笑った。
顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
多分、俺もそうなんだろう。
「…もう消えるのね」
「……ああ、そうだな」
そう言うと唯は何やら思案顔になって一言、名前と呟いた。
「名前?」
「旅団の名前。無いと格好付かないでしょ。私が最期に残せるものなんてそれくらいしかないし」
そこまで一気に言うと息を吸い込み。
「『Brave and Pumpkin』。それが名前」
そう言ったのだった。
唯の体は既に透けている。
これで本当に最期だ。
「…最期に清人」
「私のこと、好き?」
それは幾度と無く聞いた質問だった。
小学生の頃も、中学生の頃も、いつもそう尋ねては悪戯っぽく笑っているのだ。
「好きだ。…愛してる」
涙が零れ落ちてーー。
高嶋唯は、俺の前から姿を消した。
最後の一瞬。
「愛してる」と言ってくれた気がした。
それが願望が作り出した幻想なのか俺には分からない。けれどーー多分唯は安らかに逝けたんだと思う。
だって彼女は最期、笑っていたのだから。
「唯……っ」
「今だけは泣く事を許して…くれよな…」
だから今だけは泣かせて欲しい。
もう、嬉し泣き以外じゃ泣かないから。
そう誓うから。
ーーせめて今は一人だけで泣かせて欲しい。
次回でこの章は終了です。
Brave and Pumpkinの旅はまだまだ続く。




