不可視の病魔1
ブクマありがとう!!
章のタイトルで察しただろうけどこっから重くなるからどうか気を付けて読んで下さいな!
『テルン』。
『アスター』から暫く続く盆地を抜け、南から北へ向かって全体がなだらかな坂が続く場所にある小さな村であり、死に一番近い村として親しまれている。
これを読む諸君らは死と聞いて物騒な物事を考えるだろうが、その実態は諸君の考えに反して穏やかである。
この死、とは汽水湖の事だ。
村に程近い場所にある汽水湖の『ヤッシ湖』の底は塩分濃度が高く酸素が循環しないーー何物も生存できない死が揺蕩っているのである。
異界見聞録ー第四十三節よりー
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「ここが『テルン』か…なんて言って良いか分からないけど。今までで見ないタイプの村だな」
見た感じはトゥチャトゥチャに近いか。
もっともあっちは牧歌一辺倒だったのに対してここは…何だろうか人間臭くもあり、出どころ不明な透明感のある村だと思う。勿論悪い意味ではなく良い意味でだ。
「着いたは良いけど。欠片無さそうな気がするんだけどな」
「まぁまぁ、短気は損気。たまにはゆっくりしようって粋な計らいだよ」
「ん、特に清人は休息必須。旅の疲れの蓄積は馬鹿にしたらダメ」
ここに来るまでに何度かあった会話の焼き直しだった。
アニは俺に対して過保護気味に接するし、ジャックは心なしか影のさした表情をしっぱなしで陰気臭い。そのうちカビるんじゃないだろうか。
あと変化と言えばーー。
「ーーやろ!?なぁ篝」
「ーーーー!?す、すまない。聞いていなかった」
篝がずっとボーッとしている。
おめでた、だったらまだ良いがどうにもそんな様子は無い。
どちらかと言えば葛藤、苦悩に常時苛まれているかのようだ。
クマなど見た目には出てこそいないが俺の目には十分に危うく映っている。
俺たちの旅団は見えない病巣に犯されるみたいに、少しずつ、少しずつ、けれど確実に歯車が狂い出していた。
ただ、俺と一だけが変わらない。
いや、一も普段通りかと言えばそうではない。間を保たせる為にずっと喋り通しだ。
そのせいか話の接ぎ穂を探すのが上手くなったように見える。
そして…唯。
劇的に変化したのはアニ、ジャック、篝の三人だったが、一人だけ平気な顔をして変化していないように見せかけているのだ。
それが却って不自然だった。
何なんだ一体。
俺たちは何が変わったのか。何に苦悩しているのか。簡単な何故、何が見えてこない。
「さてと。いつも通りで自由行動としようか」
「そうだねぇ。うん、それが良いかも」
ジャックが提案を受け入れるのは最初から予想出来ていた。
最近のジャックはイエスマンだから否定は絶対しない。
ああ、そうだ。この旅団の変化は議論とブレインストーミングみたいな感じがする。
議論は否定も対立もする。
ブレストは否定せずに加算と纏めだけ。
いや、優劣の話をしてる訳では無い。
単に居心地悪いだけなのだ。
俺の意見は取り敢えず通る。それが心底気味が悪いと感じていた。
心が生きながらに腐ってしまうみたいな停滞感。
「…清人」
「悪い、一人にしておいてくれないか」
刻印の効果でアニにはこんなどうしようもない思いもダダ漏れな訳で。アニが何かに心配…怯えているのを承知で俺はそんな事を言っていた。
訳もなく重い沈黙。
「じゃあ、俺は湖の方を散策してくる」
そう言って一人さっさとその場から去る。
疼痛が胸を突くようで何故か泣きそうになって困った。
俺たちは、何かに直面している。しかし、それが何かはーー俺には分からない。




