見つけた3★
私…かなり頑張ったが、いかんせん展開が展開だからな。まぁ見てくれ話はそれからだ。
『ユリイカ』その正体は呪いである。
アスターの地に巣食う人喰いが生んだ不の集積物と言うべき異物。
単一の絶望では無く複数人の絶望と妄念が作り出した魔獣と呼ぶには些か悍まし過ぎる代物だ。
罪人と運良く鉢合わせしなかったかつてのアスターの末裔により封がなされていたが、現在は弱体化してこそいるが外へと噴出してしまっている。
ある神はエジプトの神の名前から取りそれを『ヌン』と呼びーー。
「……『見つけた』」
杉原清人一行はそれをーー『見つけた』と言う。
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《杉原清人》
「ハーちゃん?どうしたの?そんなにこわいかおをして」
目の前には年端もいかない幼女が首を傾げている。
ーー未だに考えている。
俺は果たして殺せるのか。
都合の良さは犠牲の上に危うい均衡を保っているのを承知している。
だが、俺には打破する方法など一つも持ってなどいない。『俺』に払える犠牲ーー労力とか、そんな余地はないのだ。
無いなら押し付けるしかない。
他ならぬ『エウレカ』に。
棺桶は手元にある。
敵は小さい。一度棺桶を横殴りするようにすれば壁に挟まれてぺちゃんこになる。
ジャラ、と鎖が俺に『やるかい?』と問いかけるみたいに鳴る。
鼓動が煩い。鎖を握る掌が火傷するくらい熱い。でも、殺さなければと意地で鎖が皮膚に食い込む位キツく握り締めた。
何を迷う必要がある。
俺にはオルクィンジェを解放する使命がある。世界を救いたいと言う願いがある。助けたい仲間がいる。
「ッッ!!」
目の前が赤々と染まる。
この感覚を俺は良く知っている。
呪いなんてチャチなものではなく、俺自体を根本的に捻じ曲げる概念。
ーー『門』だ。
倫理観が蕩けていくのが分かる。輪郭を失って、ドロドロになって、まるで溶けたチョコレートみたいだ。
「…あはっ」
笑いが出て来た。
こうして『清人』はクロを殺した。
なら俺はーー。
一陣の風が吹いた。
微かに香る落ち着いた、甘い匂い。
「でっとえんど。これで、終わり」
音がしたら。首が、落ちていた。
噴き出した血が張り巡らされた糸を鮮明に暴き出す。
熱狂は静かに引いて行き、罪悪感と安堵が胸に募っていく。
また仲間に重責を担わせてしまった。
…そして俺は浅ましくも自分の手を汚さない事にこの上なく安堵していた。
クソ忌まわしい。
「はー、ち、ゃ。な、んぇ」
首だけになっても『エウレカ』は喋っていた。
『ハーちゃん何で』。幼女の放った末期の言葉は単純な疑問だった。
裏切りを咎めるでも無く、現状を悲観するでも無く、尋ねたのだ。
「…ぅっ」
吐き気が込み上げて来てその場で蹲る。
泣いていた。目頭が熱くて熱くて熱くて。いっそ目玉を抉り出したくなる衝動に駆られる。
「そ、う。ころし、ちゃうん、だ」
「何、も、やって、ない。わたし、を」
「悪い、子だ、ね?ハぁちゃん?」
「あ、ははは。あはははは」
「あははははッ!!あーッはっはっはははッ!!」
「ヒィーヒッヒッヒ!!」
「なんて無様なの?」
「なんて愚かしいの?」
「なんて美しいの?」
「なんて高邁なの?」
「余りにも愚直!」
「余りにも直情的!」
「余りにも自己中心的な倫理!!」
胃の中の内容物を道の端で吐く俺を他所に、ソレはーー『呪い』は立ち上がる。
余りにも異様な光景に気圧されてか、誰もが身じろぎ一つしない。
いや、ただ一人。
ただ一人だけ呆れたようにその光景を興味なさげな目で見つめていた。
「素晴らしい怠慢!あぁ、あぁ、良きものを見られました」
「まぁ、詰まる所そう言う事よね。悪趣味極まりない」
さも当然と言うようにーー唯は肩を竦めた。
「あら、私の見間違いで無ければ貴女ーーそこの男が吐いてるのを見て……嘲笑、していましたね?」
「さて、どうかしら?」
「あぁあぁ!!実に耽美!!狂おしい程の醜悪!!怯懦塗れの男を笑う女ッーー」
『エウレカ』は首が無いままに両手を天へと掲げ、空を掴むように拳を握り自分の身体を抱き締める。その動作の一つ一つが狂気じみていて、人間離れしていた。
不意に身体を捩るのをやめ、唯を見つめると。
「実に退屈」
落ちたままの首が一言だけ呟いた。
次の瞬間起きた事は何と言えば良いのか今一分からない。
『エウレカ』が黒に包まれ爆発した。或いは黒い閃光に包まれたと言えば良いか。
黒くもあり、眩いばかりの光量が俺たちの目を灼いたのだ。
「これです。我が本領たりえるこの身体こそが至高!!あァ!!気持ちいィィィィィィッ!!!」
それは、化け物だった。
喝采を叫ぶ頭部には目や耳など無く、口が不気味にあるだけ。
両腕は不気味な鉤爪に変わり、腹部は冗談みたいにパンパンに膨らんで下腹部が十字に裂けている。タチの悪いバルーンみたいだ。
背中からは球状関節のようなものから蜻蛉の羽根が三対、六本生えている。
足も無くて、代わりに底が深い皿のような魔道陣によってか浮遊しているのだ。
「私がエウレカ。どう?はぁちゃん?」
「き れ い ?」
面白そうにそいつは問いかける。
口を開こうとした。ーー駄目だ、動けない。
足がどうしようもなく震えてる。
「あんさんッ!!」
「団長!!」
口から漏れるのは声にもならない呻きだけ。未だに溢れる涙は止まらない。
ーー怖い。
だが。
「そこから一歩でも…違ったわね。一ミリ」
「一ミリでも清人に近付いてみなさい」
唯は前へと進む。異形の怪物などどうとでもなると言わんばかりに。
「近付いたら?」
「後悔すら生温い深淵を見せてあげるわ」
そう妖艶に微笑んだ。
何の躊躇いも無く『エウレカ』は一歩を踏み出しーー。
「大罪系統、嫉妬」
「不均衡外殻ーー」
「残酷ッ!!」
……。私はかなり変な方向に力を入れ過ぎたのだろうか…。
ヤベェよヤベェよ…って思った人は是非ブクマを。




