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棺桶の鎖を引っ掴むと手元に引き寄せる。
こっからはピーキーな…変態的動作の面目躍如だ。
疲弊した一と篝を下がらせて代わりに俺が前に出る。
俺の得意な加速系統はある限定的な範囲では非常に高い性能を発揮するが、その範囲外の場合はトコトン操縦性が低い事で有名だ。
だから、大斧と棺桶をデッドウェイトにする事で『惨状システム』は現実的な戦術の一つへと進化を遂げる。
「疾ッ!!」
「ぬッ!?」
最初に案内人に迫った時は『双加速』だった。
でも今は違う。『逃げの美学』を併用した挙句『三重加速だ。
今の俺は誰よりもーー速いッ!!
速度が案内人の反射神経の許容範囲を超えた案内人の動作はどことなく油が切れたブリキのおもちゃみたいにぎこちなくなっている。
速度で勝ったら今度はド派手に行く!
「地の顎門を見せてやんよ…っ!!」
案内人の足元に第四魔素を表す煤竹色の魔法陣が完成する。
「はぁっ!!」
そこへすかさず大斧で案内人に一撃を加える。
これはただの技じゃない。
魔素を利用した技だ。併用してなければこんなスキだらけの技なんぞ大道芸人しかやらないだろう。
「『地龍の顎門』ッ!!」
案内人の硬質な腕が斧を阻む。
だが残念。これは顎門。
上からだけではなくーー。
「下かッ!?」
「噴き上げろォッ!!」
地面が隆起して案内人に向けて爆ぜ飛ぶ。
上からは斬撃が、下からは隆起した土が敵を食い千切らんと迫り来る。それが『地龍の顎門』。
「まだまだァ!!」
地面にはまだ第四魔素の魔法陣が残っていた。
駄目押しと言わんばかりにそこへ第二魔素を加え、性質を変化させる。
「濁流に揉まれろ!『汚濁の波』ッ」
水と土が混ざり合って出来た泥は案内人を呑み込み、遥か彼方へと押し流す。
身体が酷く軽い。視界はこれ以上なく明瞭。
不思議だ。身体をどう運べばいいのか、どこへ足を運べば最短距離か、はっきりと分かる。
飛燕の速度で流されるままの案内人に大きな得物を叩きつける。
「ば、馬カな…こノ私が倒レるナど…ッ!!」
「まだまだッ!!」
武器系統スキルーー『斧術』。
使うのは当然。
「衝撃波判定!!」
参照する属性は土。
「これで…終わりだぁぁぁぁっ!!」
煤竹色を纏った大斧が容赦無く案内人を肩口から切り裂いていく。
「まダだ…まダ、『エうレか』ヲ…」
「押し切れぇッッ!!」
ザクリと、嫌な感触がした。
案内人の皮膚を突き破って大斧が地面に刺さったらしい。
魔素の供給が無くなり濁流が止み、辺りには案内人の死体と地面の残骸だけが残っていた。
「か、勝った…のか?」
勿論、案内人は立ち上がらない。
だが、案内人が最後に言った『エウレカ』と言うワード。
その言葉がどうにも頭に引っかかって離れない。
「『エウレカ』…か。何にしろ案内人が倒れてもこの世界のままって事は本格的にユリイカを殺さなくちゃいけないらしいな。底意地悪いもんだ」
…ん?
『エウレカ』…ユリイカ?
「最期に言い間違いの線、は無いよな。『エウレカ』か。ユリイカとどことなく似てるような気がする」
心配事や疑念は尽きない。
けれど今は勝ったのだ。その事を喜ぼう。
仲間達の元へと駆ける。
「お疲れ様やの、清人」
「ないすふぁいと。でも性能がぴーきーだから私たちの出番が無いのが唯一の不満」
「そうだな、団長にはいまいち協調性が感じられないな」
「悪かったって…」
一、アニ、篝の順で好き勝手言ってくる。
後から来た唯とジャックだがーー凄く微妙な顔をしていた。
唯は喜色半分、渋面半分。
ジャックの面持ちはどこか悲壮感を漂わせている。
「ジャック、三人の回復ありがとう」
「別に…。当然かな」
いつにも増して歯切れの悪い返答だった。
何か、隠し事をしているのだろうか?
ジャックの言動は終始違和感があった。
いつもだったら鼻高々になって喜ぶだろうところなのに。
「……どうしたのかなぁ?僕に何か付いてる?」
「ついてるよな?」
「…ついてないよぉ?」
嘘を、とでも考えたのだろうか。
「いや、頭のヘタの事だっての。寧ろジャックは目とか鼻とか口とか抉れてるだろ」
「酷くないかなぁ!?」
敢えて詮索はしない。
誰しも教えたくない事の一つや二つはある。
それにーー。
視線を唯に向ける。
ジャックと同行した相手ーー唯。
そして唯には魔獣化の疑いがある。
この二人のペアで何かあったなら、それは俺が聞いて良い事柄じゃない気がする。
「でも、最後の関門が残ってる…ユリイカ、『エウレカ』とやらを…」
「ん?ねぇ清人」
「どうしたんだ?」
「ユリイカとエウレカって同じ意味だよねぇ?」




