愉快な共犯者1
こちらのこれまでの状況をジャックに説明すると今にも卒倒しそうな程顔を青くした。
乱数破滅システムについて言及してから顔の青さは尚一層顕著になり、彩り豊かなオレンジが黒皮種のように黒緑色へと変貌を遂げている。
「えぇ…えぇ…。僕がめちゃくちゃ悩んでる間に取り敢えずで動くって考え無しにも程があるよねぇ」
「仕方ないだろ。俺だって驚いたさ。けどやっぱり進まないと進めないからさ」
しかし振り返れば何だ…完全に独断専行だ。自分の中では正しい選択をしたと確信してはいるが些か浅慮が過ぎたように思う。
と、その時。
「やっと追いついたか。団長、ジャック」
「篝!」
篝がアニを担いでこちらへと走って来た。アニはぐったりとしているところを見るに気絶しているようだった。
しかし、篝が合流したと言う事は敵には勝ったと言う事なのだろう。無理を強いてしまったのも俺の失態か。
アニの様子を詳しく見ようと近付くとーー。
がぶっ。
首筋に犬歯が突き立てられ。
ごくごくごくっ。
容赦なく血を吸われた。
平衡感覚を失い顔面蒼白のまま倒れこむとやっと満足したのか肌艶が良くなったアニがむくりと立ち上がった。
「ん、大復活」
「あ、…アニ、アニが復活しても俺が死にかけてるんだけど…」
釣り上げられた魚のように全身をビチビチと痙攣させながら訴えるが。
「清人は生き餌だから平気。のーぷろぐれむ」
この有様である。
「やっぱりさらっとこの子酷え!!」
と、言いながらもいきなり死に体だ。
体が重いどころの話では無い。
まぁ、体が軽くなって意識がフワフワしだしたらそれはそれで問題なのだが。
「ごめん、超本気もーどかましてたら疲れ過ぎた」
てへっ、と舌をちろりと出して謝られては反論する気も起こらないと言うものだ。
「篝も勝ったんだな」
「ああ、ハリセン相手に負けかけたが唯の助言のおかげで助かった」
篝は視線を唯に固定しながら言った。
その瞳は酷く優しげで唯が加入した当初の嫌悪感はもう無いように見える。
「…で、篝。一は見なかったのか?まさかアイツが負けるとは思ってはいないんだけど少し心配…はするだけ無駄な気がして来たな」
「先に団長の元へ行ったのではなかったのか!?」
篝が驚きの声を上げたのとほぼ同時にドドドと地鳴りがした。
「ほら、噂をすればーー」
土煙を上げながらーーそいつは走って来た。
「ワリャは勝ったで!!篝っ!!」
何処かで見たような布を古代ローマの市民の様に体に巻き付けた一が、そこにはいた。
一はテンションが昂ぶったのか手をブンブンと振るとーー。
ハラリと、布が悠久の空へと舞い上がった。
「なっ!?」
一の嫁は羞恥からか断末魔のような金切り声を上げ。
「…ふぁっく」
アニは性犯罪者を蔑むような冷徹な視線を送り。
「はわわ…」
ジャックはあわあわしていた。
唯は相変わらず眠り姫をしているし。
肝心の俺は、だがーー。
「畜生!!負けたッ!!」
敗北感に苛まれ膝をついていた。
何だ、あのブルルンと震える一物は反則ではないか。遠目にも分かるあのサイズ感。股座に人参でも生やしたのかと見間違うばかりだ。
「ふ、…ふ」
「篝!!ワリャ戻ってきたで!!にゃーっはっはっは!!」
篝は全裸でドヤ顔をする一を。
「服を着ろッ!!」
そう言って鉄拳制裁するのだった。
150話だって!!
……何でだろう。何で喜ばしい筈なのに涙がでるんだ。
虚しくなるのは何故なんだ…。




