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季節限定イベント単騎攻略1

「……」


あれからジャックは帰って来なかった。

よくよく考えれば俺視点で最近のジャックは害悪でしかなかったが、ジャック視点の俺は遅延行為を繰り返す日々を送り目標に中々近付かない遅延魔だったのだろう。

…まあ、俺のやった事は一切間違えていないと今も考えているし、ジャックも急かすなら急かすなりに攻略に役立つ情報を俺に与えるだとか出来る事はあったと思う。


「『単一加速シングル・アクセル』」


俺は講習会の成果である『単一加速シングル・アクセル』のスキルを起動する。


スキルとは使用者当人の行動が一定の習熟度に達した瞬間その行動に補正がかかるシステムだ。何故スキルが存在するのか、何を以ってスキルの発現とするかは判明していない。

所謂、異世界補正だ。

尚、スキルの発動は常時行われるパッシブ型とスキル名を口にする事で発動するアクティブ型の二タイプがあり、『単一加速シングル・アクセル』は後者だ。

一々口にしなければ発動しないので気恥ずかしい面もあるが慣れると案外カッコいいししっくりくる。


「さて、狩らせて貰うぞ」


眼前にははぐれのゴブリン。

はぐれのゴブリンは単体で行動しており倒し易いように思えるが単体での生存を可能にする豊富な経験と知識が厄介な相手だ。

その脅威度は群のゴブリン数体と何ら変わりがない。


「『下弦』」


背後から単一加速シングル・アクセルを起動したまま奇襲を仕掛ける。


ゲゲッ、とゴブリンは慌てて回避しながら砂を掴み投擲してくる。


少々前ーー。


『なあ、ジャック。はぐれゴブリンの特徴って何かあるか?』


『うーん、弱点を把握してる事、かな?視界を奪ったらその次は必ず弱点を突いてくるねぇ、脛とか。ただ、一番報告に上がってるのはーー』



「そこだ!」


真正面から粗い作りの木刀を振るうゴブリンを蹴り飛ばす。


『やっぱりタ⚫︎タマなんだよねぇ…』


どうやらこのゴブリンも急所(タマ)を狙ってきたようだ。狙う場所が分かっているなら対処も難しくはない。


「これで…トドメだ!」


仕返しとばかりに金的を食らわせる。

ビクビクと痙攣しながら悶える様はいっそ滑稽だった。


そのまま討伐証明の為に生きたままツノを抉り取りその他一切を第一魔素ファースト・カルマで焼却する。


「ギルドに戻ろう…シャワーも浴びたいな」


これが最近の俺の日課だった。


■■■■■■



「よお、今日もゴブリン狩りご苦労さんだ」


今日も今日とてエンゲルの元に向かい金をふんだくる。

エンゲルも慣れたもので買い取りカウンターではないのにも関わらず金を渡してくれる。

ただ、女の子のスベスベした手でお金を渡してくれないものかと思わない事もない。

おっさんのゴツゴツした硬い手より次回のモチベーションが幾分か上がりそうな気がする。


「にしても、ここ最近またゴブリンの活動が活発になってかなり不味い事になってんだよな」


「そうなのか?」


「あぁ。どうやらゴブリンの集落コロニーが肥大化して周囲の他のモンスターの居場所を奪ってるらしい。居場所を奪われたモンスター達が街に侵入したりしてそろそろ手に負えない感じだ」


スタンピード寸前、か。

連戦や乱戦が予想されるから俺が先陣を切った場合はかなり不利になるシチュエーションだ。機動力こそあれ持続力が無いのが悔やまれる。


「それ、いづれかここも襲われるって事だよな」


思案顔でエンゲルは顎をしゃくる。

言っても構わないか…と言うとグイッと顔を近付け小声で「ここだけの話だがー」と切り出した。


「ゴブリンは土地と女を求めてやって来る。それは良いな?」


コクコクと頷く。


「この都市は構造的に路地裏、貧民街が外周、都市部が中心になってる。だからーー」


「…成る程な、貧民街を人身御供して時間を稼ぐのか」


「いや、人身御供は正解だがそれでは根本的な解決には至らない」


貧民街の土地と…女の子を餌にして、定着する前に総力戦で一掃ってのが一番簡単だと思ったがどうやら違うらしい。


「じゃあどうするんだよ」




「貧民街を爆破する」


一瞬思考に空白が生まれた。


「それってゴブリンの被害と貧民街の被害は吊り合うのか?」


「あぁ。寧ろ食い扶持を減らせてゴブリン供を根こそぎ殺し尽くせる良い事尽くめだ」


イメージする。

確かに食い扶持を減らせてゴブリンを殲滅出来る。それは大きなメリットになり得る。

が、食い扶持と言ったものの中には女の子だって含まれている。

野郎はどうでも良いが女の子が死ぬのは忍びない。

女の子は世界の至宝だ。こんな事で散らして良いものではない。


『サイコパスだ』


ジャックの言葉が脳内をグルグルと回る。

それは酷く正しい。

けれど、俺はそれ以上にフェミニストなのだ。


北で女の子が微笑めば全力で喜びのままに敵を殺し尽くし、

東で女の子が泣けば一目散に敵を殲滅し、

西で女の子が裏切ればチョップ一発程度で許してやり、

南で女の子が怒ったらそれを許さざるを得ない位の武勲で贖う。

そんな男に俺はなりたい。


ならば、と自分に問う。


ゴブリンの集落コロニーに泣き喚きながら暴行を受ける女の子がいたら、どうする?


少しだけ強くなった今ですら無謀な賭けだがーー。


「分かった、情報どうも。取り敢えず俺は宿に戻る。安心しろって、他言はしない」


「お前さん、何を仕出かすつもりだ?」


「ちょっくらスタイリッシュな自殺を敢行してくる」


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