崩界の序章3
誕生日おめでとう私!!
誕生日にも執筆するなんて底辺なろう作家の鏡だね!!
(誕生日に執筆しかしてない悲しい男の図)
身体は無理には動かせない。
けれど、逆に言えばそれは無理すれば動く。
無理を押し通して敵の前に立つと言う事。即ち、英雄の本領である。
「なっ!?動けないんじゃないんですの!?」
「……ッッ!!」
口の端からは噛み締め過ぎたせいか血がツウと垂れている。
「まさか…『英雄の外套』で無理やり身体を動かして!?」
ただ、履き違えてはならない。
飽くまで装備は無茶をサポートするだけで根本は何も解決してはくれないし、無理をすればするほどに揺り返しは激しくなる。
だから俺は今、非常に困っている。
全快でない状態で手札を切ろうにも最善の手がそもそも分からない。
正攻法では俺は確実に競り負けるし、逃げに走ろうとすれば外套の効果が消えて動く事すら出来なくなる。
「…専心は必殺より現場の打破に充てるべきだよな」
俺らしい戦いになって来た。
搦め手と奇襲。凡そ英雄らしからぬ戦法を以って現場を打破しよう。
俺は地を駆けながらも考える。
物理は無効、魔法も無効。性質は混沌で正体は水。雷以外が効かず膨張で形を変えられる。
…水。
現在手元に斧はない。
しかし、棺桶型無限収納の中にはある。
そして武器以外の生活必需品もこの中にある。
「確か…あれがあったよな」
取り出したのはーーなんの変哲も無い。
ただの白い粉。
ニィと我ながら気味悪く笑うと勢い良くそれを無限収納から取り出した。
「さぁさぁ!!ヤバイお粉の威力、見せてやんよ!!」
俺はそれを躊躇いなく『ヌン』へとブチ撒ける。
別に粉塵爆発を狙う訳では無い。
まぁこれを購入した理由の一つとしてなくは無いが、それはさて置き。
「未だコイツの効果は出ない。けど、熱くなるからご注意な!!」
これは唯の要望により購入した嗜好品である。
その名前はーー。
「粉末寒天じゃオラァ!!」
粉末寒天である。
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ーー時は遡る。
「久々に菓子作りでもしたいわね」
「そう言えば唯の菓子を食べたのは何年振りだったか…また食える日が来るとは…感慨深いなぁ」
コロウスの商店は様々な物品が売られている。ハザミやその付近の街とそう離れていない恩恵と言うか。
さてと、それよりも唯の手作り菓子である。中学の家庭科の授業でクッキーを作る、と言う事があり折角だからとお互いに手作りクッキーを焼いてプレゼントしたのだ。
尚、俺のクッキーは不評だった。
唯曰くクッキーにあってはならない超絶ビターかつエグ味と渋みが調和して腹の中がアルマゲドンだったらしい。
唯の家庭環境はあれだったし、以降唯の菓子を食べた事は無い。
「クッキーにでもするのか?」
「…クッキー。あんまり良い思い出が無いわね。そうね、手軽にカップケーキとかが安定かしら。その他には…」
目線の端に美味しそうなゼリーが見えた。
「清人、冷蔵棒あったわよね」
「ああ。あるぞ」
「寒天でゼリー自作するか…」
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粉末寒天。
他の凝固剤よりも溶かしやすく固まれば熱にも強い。
そう。寒天は凝固剤である。
元より物理、魔法に耐性のある『ヌン』に使えば固まって動かなくなるかもしれない。動いたとしても鈍る筈だし、何なら熱に強かろうが耐性が重複するだけであまりデメリットになりにくい。
ならばやるだけの価値はある。
「『月華十文字』!!」
寒天をしっかりと溶かすべく熱を加える。
「清人さん!?何やってるですの!?何ですのSAN値が減ったんですの!?」
「かーらーのー!水よドバーッと雑に流れろッ!!」
「清人SAN!!?」
さんのニュアンスの違いに若干の疑問を抱きながら寒天を溶かし、水で冷やす。
「そら、固まって来ただろ!!」
「…SAN清人!?不味いですの!!これは詰みですわ!!確かに動きは更に鈍くなりましたが…電撃しか効かない仕様なんですのッ!!」
目に見えて『ヌン』の動きは悪くなっている。
…ん?
電撃しか効かない?
「やらかしたァァァ!!!」
馬鹿かよ!!
馬鹿!!バァカ!!
ああ、もうこんな事に何故気が付かなかった!!
動きが鈍るのも構わない。
だが、止まったら意味が無いのだよ!!
電撃を当てれないから!!
自発的に動いてくれないと凄く困るのに完全に止めるとか馬鹿なの俺?
詰みだ。
倒す事がマップの追加条件であって動かなくする事はクリア条件に合致しない!!
「…まだだ、寒天を溶かせば…」
いや、待てよ…?
『寒天は凝固剤である。
元より物理、魔法に耐性のある『ヌン』に使えば固まって動かなくなるかもしれない。動いたとしても鈍る筈だし、何なら熱に強かろうが耐性が重複するだけであまりデメリットになりにくい』
……。
熱に、強い。
ゼリーは口に入れても、溶けない。
×異世界補正=……。
「…やらかしたなぁ」
俺はとんでもなくやらかしたらしい。
熱耐性×異世界補正=詰み。
「オルクィンジェ、これどうしよう…」
「私に振られても!?」




