崩界への序章1
「そんな方法があるんですの…!?」
驚愕に目を見開きながらオルクィンジェ・レプリカは言った。
「勿論。小数点の彼方にはあると思う」
そんな彼女の期待に応えるべく真摯に応対。我ながら素晴らしい返答だと思う。
「…まさか、無いよりある方がマシ。とか言う理由で奪取するんですの?」
「ザッツライト!」
「…もうめちゃくちゃですの」
頭を抱える彼女を見てやっぱり駄目かぁと思った。
無いよかある方が良いかと思って提案したのだがやはり無茶苦茶過ぎたようだ。
…でも、そんな夢のような可能性が存在する事を俺は願っている。
その気持ちは願いと言うよりは…そう、信仰に近しいかも知れないが。
何がそれを引き寄せるのか分からない以上兎に角何であれこの手に繋ぎ止めていたいのだ。
「…私も地球の神の使徒としての仕事がありましたわ。…ですから乗る、乗らない、なんて愚問でしたわね」
「それじゃあ、『ヌン』攻略と洒落込もうじゃないの!!」
「えぇ、やりますわ!!」
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《一凩》
場所は変わり全裸の一凩。
一凩は無事脱糞に成功するも別の問題が発生していた。
「あかん…服が無い…」
そう、替えの服が無いのだ。
そしてキョロキョロと辺りを見回すがいるのは気絶したサガラしかいない。
「……」
気絶したサガラ。
小柄ではあるが服は立派な布になる。
だが、誇り高い侍が追い剥ぎのような真似を許容して良いものか。
一は苦悩した。
「むぅ…」
一は苦悩し。
「…あ、ワリャそもそも鉄打ちやさかい。厳密には侍ちゃうやん。せーふ、せーふ」
…それが人間としてどうなのかはさておき。サガラの下着以外を剥ぎ取り無事に下半身を隠したところで一息つく。
「…ワリャ、何やっとるんやろ」
この虚しい自問自答を杉原清人は知らない。
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《ジャック》
「うーん。どうしようかなぁ」
カタカタとカボチャの頭を揺らしながら思案するのは…まぁジャック以外いないだろう。
ジャックが悩んでいるのは先程案内人としてのスキルで送られてきた情報が原因だった。
乱数破滅システムの概要。
魂のリソースを地球に移す役割を担うジャックとしてはあまり良い顔の出来ないような事態だった。
ジャックは神の内の下っ端も下っ端だが曲がりなりにも神だ。
しかし、邪神を倒す事に異論は無いが果たして世界を破壊する事には凡そ否定的だった。
確かにオルクィンジェを解放するより簡単に破滅させられるかもしれないが、果たしてそれが正しいのか。
そして何より。
「…今までの旅を否定するのは…嫌だなぁ」
そんな事をすれば杉原清人を始めとした仲間たちの行動を否定する事になる。
それだけは決してしたくはなかった。
「…叛逆か、将又安寧か。二者択一って奴だねぇ。どうしたものかなぁ」
しかし、ジャックは知らない。
清人が今正にそれを奪取すべく動き出した事を。
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《高嶋唯》
「……案外ボロが出るのが早いものね」
チェック柄の制服を着た少女ーー唯は独りごちた。
その額を汗がうっすらと滲んでいる。
フラフラと暫し歩いて…立ち止まった。
石の壁に背を預けるようにして腰を下ろすと小さく舌打ちをする。
その表情は今までに無いほど険しい。
「…大罪系統、ね。本当にこれクソね…怠い」
高嶋唯に与えられた一部の理を破壊する能力、『不均衡外殻』。
精神干渉系統のスキルの極致であり耐性が無ければそれは即死と同意義だ。
しかもこれは精神どころかこの世界をも騙す事が出来るーー第七魔素にも似た力だ。
「ったく…まだ死ねないっての。シャッキリなさいって…」
そう言いながら唯はニャルラトホテプからの説明を思い出していた。
『さて、この力は何と言いますか。時限爆弾に近いですかね。一度でも使えば必ず火が付き…そして爆ぜ飛ぶ。復讐、生存。理由の如何に問わず必ず爆発するのをご留意下さい♪』
『爆発したらどうなるか、ですって?ツケを強制的に払わされるに決まってます。罪には罰を、それが道理ですから。具体的にはーー理由の無い絶望に肉体を喰らい尽くされます』
この身体には限りがある。
そしてーー。
「…肩口から何これ。コールタールみたいな…汚ったな」
彼女の肩から黒いドロドロとしたコールタール状のものが滲み出ていた。
いよいよガタが来たと再認識すると口元を喜悦に歪めた。
「上等じゃない。初志貫徹、最低な復讐計画。やってやろうかしら」
この悲痛な覚悟をーー杉原清人はまだ知らない。




