奪還戦1
頭が理解を拒んだ。
あり得ない。
アニに状況は逐一見られていて、その上残りの仲間が集結している状況でピンポイントでオルクィンジェ・レプリカを拉致する?
何て冗談だよ。
俺は六人のうち二人を抑えているから残りは四人。
四人であれば一、篝、アニで戦闘。ジャックと唯の支援でなら数的優位や立ち回りの上手さで圧倒出来る。相手にしてみれば撤退で精々、明らかにや拉致する余裕は無い。
その、筈なのに。実際にオルクィンジェ・レプリカはガブルガに捕まっている。
いやーーおかしい。
「…万歳特攻」
作戦概要にある違和感。
場所が割れていなければそんな作戦を立案しない、と言うこと。
ピーピングされていた…のか?
いや、にしても解せない点が多々ある。アニに情報は絶えず流れている筈だ。
そのはずなのに焦ったような感覚を一切感じない。
これは幻想か、はたまたバグか。シナリオの演出の線もあり得るがそうなるとーー。
「…退くしかないか」
精査すべき情報が多過ぎる。
もしも奴が敵に混ざっていたとしたらそれは最早世界そのものの意思であり攻略は不可能。
爆破で変なフラグを踏んだとも考え難い。
オルクィンジェ・レプリカがヌンの贄にされる前に打開策を打ち出さなけば不味い。
時間が要る。
背中を向けて一心不乱に駆け出した。
木々を伝い、なるべく視界から外れるように最速で。
考えろーー。
何故オルクィンジェ・レプリカが拉致された…否拉致出来たのか。予想される条件は。
考えろーー。
予想された敵の像は鮮明であるか。何か見落としは無いか。
考えろーー。
何故態々俺にオルクィンジェ・レプリカを見せる必要があったのか。その意図は。
ーー愉悦。
俺の脳細胞が突発的にその言葉を弾き出した。
これは何者かが愉しみたいが故の状況。
拉致の難易度がそもそもイージーである場合を考えてみた。
一番イージーなのは……オルクィンジェ・レプリカ自ら敵の手に向かった事。
精神干渉?
違うな。
オルクィンジェ・レプリカはこの世界で『魔王』と呼ばれた天使の贋作。
たかが人間如きにどうこうなるようなものでは決してない。
けれど可能な人物は一人いる。
サガラとガブルガは違う。
多分マイクリンも違う。
アラバか…寡黙を守っていた二人か。
『逃げる事が出来ませんの。というのも鹵獲されたレプリカはニャルラトホテプ・サーバーによって場所を割り振りをされ、情報を提供する為にその場に留まる事が強制されますので』
一つはっきりとしている事。
ニャルラトホテプ・サーバーがイベントに介入して来たらしい。
「…撒いたか」
思い違いならどれだけ気が楽になるのだろうか。
何にせよ合流しなければ話は出来ない。
三人揃えば文殊の知恵だ。
「杉原清人、帰投したぞ」
「ん、ぐっとたいみんぐ。現在作戦会議中」
一、篝、ジャック、アニ、唯が既に打開策を見つけるべく動き出していた。
「取り敢えず現状ある情報は共有出来てるか?」
「ん、のーぷろぐれむ。ただ清人にとって嫌な情報を追加する」
するとジャックが簡易ステータスに似たメニューを提示した。中央には如何にも意味ありげなカウントダウン。
「…『クエスト画面』。唐突なupdateだったから不審に思ったんだけどねぇ。まさかこんな事になるなんて思ってなかったよ」
敵は世界の神、あるのは無慈悲に流れるカウントダウンだけ。
「…なぁ、皆んな」
諦め?
してたまるか。
自棄?
なってたまるか。
俺の胸には一人の英雄が今も息衝いている。
その英雄は何やかんやカッコいいのだ。
そしてその真価は土壇場でこそ発揮される。輝きを増す。
「全員で一対一、出来るか?」
唯が鼻で笑い「余裕ね、布石はもう打ってあるわ」と言った。
アニは「のーぷろぐれむ」といつもの調子で。
一は「一丁、男魅せたるか!」と気合い充分に。
篝は「外道に負ける程私は緩くはない」と決意を滲ませ。
ジャックは…「うーん、遅延して待ち…ってのは冗談!冗談だって!疑わないでよねぇ!?」と……うん、不安が拭えない。
「それじゃ、やってやんよ…」
「総員、殴り込みじゃオラァ!!」




