出来損ないの天使2
クリスマスを執筆に費やした男、睦月。
悲しむ事なかれ、それが毎度の事だ…。
今夜の枕は多分湿っぽいのだろうなぁ…。
あ、ブックマーク感謝だ!
大歓迎、うぇるかむ!!
「法導協会…ッ」
フードの少女の今の声色はとても良いとは言えない。
二人を下がらせてから先んじて唯に頼んで『不均衡外殻』を使って貰った。
がーー男たちに変わった様子は無い。
「あんたら…誰や?それとこのヌンってデカブツが静止しとるやない。あんたらが親玉って見て…ええんか?」
「笑止ッッ!!」
筋肉隆々の男が叫んだ。鼓膜が裂けそうなほどの声量に気圧されそうになる。
「我らこそ法導協会よ!!世界にいずれ善政を敷き、法を尊び法に死ぬ忠義の戦士であるッ!!」
「おいおい法の戦士とやらが女の子怯えさせて良いのかよ?」
「構わんな!!」
そう男は言い切った。
「我らが崇高な理念の前に於いて犠牲は許容されるべきなのだ!そこな魔王は悲願成就への栄誉ある贄であるッ!!寧ろ光栄と思うのが道理と心得よ!!」
「なっーー!?」
頭が沸騰するような怒りを覚えた。
その歪みきった醜悪な精神の在り方はとても許容出来るようなものではない。
少なくとも俺には。
「そこなヌンはこの地に封印されていた災害の一端であるッ、故にこのヌンを我らが支配し、災害と言う武力を背景に理想郷を想像するのが我らが悲願ッッ!!我らが覇道に異を唱えるならそこに並ぶが良い、悉くその首を刎ねてやろう!!」
「ガブルガ、少し喋りすぎだ」
メガネを掛けた細身の男が巨漢を一言で諌めると嘲るように鼻を鳴らしながら懐から一冊の本を取り出した。
嫌な予感がする。インテリタイプ、即ち理知的な輩は厄介だ。
更に厄介なのはーー。
「がーーふむ。我らが経典には殺しや武力による恫喝は禁止されていない。どうだろう。僕は一応穏健派だけど禁則しか守らないから……さっさと決めてくれないかな」
「何、をだ?」
「楯突くか、見逃すか」
ーーインテリかつ頭がガン決まってるヤツだ。
最初は薄ら寒いジョークかと思った。
しかしその男は一切表示を変えない。本気なのだ。本気で自己の行いを正しいと、そう考えてーー否、盲信しているのだ。
どうしたらそんな倫理を持てるのだろう。知りたくもない。
けれどはっきりと分かる。
これが反吐が出る程醜い悪であると。
傷は既に癒えた。
ならばーーハッピーエンド至上主義者の本領発揮だ。
事情は分からないが場数をこなしていくうちに理解した事がある。
…事件が深刻化する前に黒幕を倒してしまえば非常に後が楽だと言う事だ。
狙うのは当然奇襲だ。ここで面倒ごとは片付ける。
「成る程、こっちと人数は同じ。戦力差は確実」
だから初手は一番慣れ親しんだブラフから入る。
「御慧眼で。ではーー」
ニヤリともしない。人生で使ってみたい言葉を放つ用意はとっくに出来ている。
「だが、断ーー」
「死ね」
断ると、そう言おうとした矢先だった。頭のキレる人間は先に殺そうとしたがとんだ盲点。
ブラフは最初から殺す事しか考えて無いガン決まった奴には通用しない。
幸い加速を既に発動済みだった事もありナイフの投擲を回避出来たが敵対するような空気が滲んでしまった。
以降の不意打ちは恐らく不可能に近い。
「まだ言ってないんだけど?」
だからせめても選択肢や時間を稼ぐ為に言葉を弄した。
スーツのポケットに手を忍ばせる。
それを手の中で転がしながらどのタイミングで放つか思案する。
「おや、私のせっかちでしたかこれは失礼」
いけしゃあしゃあと宣う男に心底胸糞悪い気分になった。ガン決まってる癖によく言う。
だが…現状、関係を悪戯に悪化させただけで何も進展が無い。完全に下手打った訳だ。
「あらぁ、相変わらずアラバちゃんはせっかちねん❤︎」
「……マイクリン、ちゃん付けは止してくれと何度言えば」
マイクリンと呼ばれた坊主頭の男は生理的嫌悪感を催すくらい気持ち悪かった。
「まぁ良いじゃない?些事よ些事。あんまり気にすると将来ハゲるわよん」
「そーだぞーアラバー。ハゲるぞーにっしっし」
「マイクリンもサガラもいい加減にせんか!!」
ちぇっ、と拗ねるサガラと呼ばれた少年と相変わらずいけずぅと身を捩るマイクリン。
やるなら、多分今だろう。
俺は地面にそれを打ち付けた。
すると急に煙が立ち込めるーーコロウス産の煙玉だ。
後はそそくさとその場を離れるだけ。
これ以上茶番に付き合うのは、こりごりだった。
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門を出て森へ逃げ込んだ。
幾らか走って開けた場所に出たら一様にどっかりと座り込んで息をついた。
「ここまで逃げれば安心か。皆んな怪我は無いか?」
「んっん!いえね、私は天使ですけれど皆さまは人間ですわよね!?何でそうも余裕があるのですか!?」
若干天使のニュアンスが法導協会のものとは違うことを怪訝に感じるが取り敢えずスルーする。
何となく流れがきているのだ。乗るしかない…このビッグウェーブに。
「いや、だって俺生き餌だし」
「僕は見ての通りジャック・オ・ランタンだし」
「私、蜘蛛。清人を食べてうまうま」
「ワリャは元鉄打ちや」
「私は…鬼だ」
「そんで私は異世界転生者と。どうかしら?中々でしょう?」
流石の仲間達だった。
綺麗によく分からないラインナップが勢揃いだ。
「皆さま殆ど人外じゃありませんの!!?」
何だか台詞の割にシリアスな叫びだったが、それもまたスルー。
尋ねたいことがこっちには沢山あるのだ。
「っとそう言えば名前聞いてなかったな。名前は?」
「私はーー」
そう言いながらフードを取るとドリルロールにした灰色の髪と淡い群青の虹彩が現れた。
だが…何だろうかこの灰色の髪は。
非常に既視感がある色だ。
…あるのだが、誰だったか微妙に思い出せない。
非常に大切な人物な事は確かだが名前が出て来ない。
「私はオルクィンジェ・レプリカですわ。『セラフィム』たるオルクィンジェ様の力を継いだ…」
「それだぁぁあっ!!」
これで二つのことが同時に分かった。
先ず、謎の既視感。
オルクィンジェ本人と肉体を共有した事があったから既視感があるのは当然だった。
そして理由。
何故彼女が狙われているのかだがーー。
きっと原因はオルクィンジェだ。
さて、彼の言動を思い出してみよう。
『『魔王』の威光、その身に刻め』
『決まってるだろう?ゴブリンとオークを率いて街を全部蹂躙するんだ。そうしたら、次はまたこの世界を破滅させる。邪魔するなら…切る』
『こんな世界に救う価値はあるとでも言うつもりか?いや、そうだな。昔はあった。認めよう。しかし、今はありはしない。心象は穢れに充ちて、頼れる仲間は裏切った。これが成れの果てだ。分かるだろう?』
『何が残念なものか。俺は全てを掴んだんだ。この手にな。あぁ…ただーー今はこの手には何も残ってやしないけどな』
『やはり、お前はーーいや、何でもない。それよりも、他人の心配より自分を心配していろ。そんな風ではこの先、生き残るのは至難だと提言しよう。『魔王』が贈る言葉だ、感涙に咽ぶが良い』
…この世界を滅ぼす事に余念がなく苛烈過ぎる慈悲なき辣腕から『魔王』と呼ばれるに至った天使…それがオルクィンジェ。
この世界の住人にとっての最悪レベルの悪とされるもののレプリカはーー俺の大声に腰を抜かしていた。
「えぇ、あのオルクィンジェのレプリカ…?性別とか色々違くないかなぁ」
「そう仰るのも無理なからぬ所ですが実際、私はオルクィンジェのレプリカですの。否定したとしても変わりませんわ」
「納得いかない…何かすっごく納得いかない」
「でーー何であなたは法導協会に追われているのかしら。というか法導協会が何か教えて貰いたいのだけど…天使?」
俺が頭を抱えているのをよそに唯は核心に迫る問いかけをした。




