変われないもの3
朝食を済ませた俺は一の元へ足を運んでいた。
「よう、一。今日は暇か?」
「まぁ暇やな。予定なんてゴロゴロするのと木刀の手入れくらいやし。どないしたん?」
「一つ…いや、二つ程頼みたい事がある」
一の糸目が僅かに開いて、「ほう?」と先を促すように言った。
「先ずは俺が魔素無しでどれだけ戦えるのか知りたいからまた稽古をつけて欲しい…っても一回で良い。癖の確認だけ出来ればな」
「まぁ、良えわ。ほいで?二つ目は?」
「武器を…『唯式咎流』を改造して欲しい」
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コロウスには名前の通り小型のコロッセオのような闘技場や訓練所が存在する。
そこでは娯楽として剣闘が行われたり、その日使われていない闘技場は有料で貸し出されている。
俺と一は銀貨二枚を支払い、一番手頃な闘技場を借りた。
闘技場に入ると棺桶の中から焦げ付いた木刀ーー唯式咎流を取り出す。
唯式咎流は篝との戦いで水蒸気爆発を起こす起点となった為、至る所が焦げ付いていて酷い場所は炭化していた。
…寧ろ水蒸気爆発を受けても原型を留めているこの木刀が異常な気がしないでも無いが。
「唯式咎流のう…、ほいで?コイツをどうすると?」
「エストックって分かるか?アレにしたいんだ。この木刀の刃にあたる部分は軒並みガタガタだし、刺突に特化すればまた戦えるかなってさ」
「あー、杖折れたからの…。それならしゃーないわ」
ハールーンの杖は蛇の魔獣戦で大破してしまっている。修復は望めないし、他の武器を使う他無いのだ。
現在保有している武器は冷蔵棒と唯式咎流、あと棺桶しかない。
店で買ったダガーは水蒸気爆発ノックのせいで早く駄目になってしまい以来使っていない。
実質メインウェポンが冷えてる棒こと冷蔵棒師匠か焦げた木刀の唯式咎流、サブウェポンは棺桶といった少々頭のおかしな構成になっている。
「うっし、鉄打ち一凩、その仕事。しかと受け取ったわ」
「助かる」
「今日態々言ったからにゃ入り用なんやろ?言うても刺突に特化するだけなら作業も削るだけやさかい、一戦位なら余裕は持てるかの」
「重ね重ね助かる」
早速距離を取り、棺桶を構える。
「…あーもしかして練習用の武器も…」
「当然ないから棺桶と拳でやる」
そう言って棺桶を小突いた。
「刀使い相手にまたえらく舐めた物を使ってるの…。ほいで?それ意味あるんがか?」
「勿論だ」
スゥと一は深く息を吸い込むと木刀ーー『水月』を取り出した。
「ほいたら、やろか」
「ああ!!」
鎖を握りしめて棺桶を立てる。
「抜刀秘伝」
ーーー「『刹那』ッッ!!」
今あるものは己の体一つ、それと鎖に繋がれた棺桶。
迫る一は最速。
「来ると思ったよ」
「『双加速』」
呼応するように俺も加速する。
弛んだ鎖は張り詰めーー。
「『舞風』」
木刀が閃く。
横薙ぎ単発技だ。しかし当たれば続く技が数発ある、一は繋ぎが上手いのだ。
横薙ぎから腰溜めの突き、かち上げ、吹き飛ばし。
いずれも高いレベルで纏まっている。
事実上一度当たれば負けだ。
だからーー。
「『空蝉の術(擬)』!!」
アスレイの戦闘を見て思い付いた新技。
言うなればそれはソロスイッチ。
ごちゃごちゃまどろっこしいが、要するに棺桶を前に無理やり押し出して俺は反作用で後ろに逃げると言う技だ。
「『浜風』」
この技にも勿論弱点がある。
棺桶が空中に浮いているときに棺桶に吹き飛ばしをまともに食らえば諸共に吹き飛んでしまうのだ。
更に棺桶がぶつかるおまけ付きと来た。
「まだまだぁ!!」
だから鎖を手放す。
飛んでいくのは棺桶だけ。俺は無事って寸法だ。
武器は手元に無く、残るは体一つのみ。
ならば走るだけだ。
「おーにさーんこーちらっ!!」
撹乱戦術。
「…『浜風』」
再度吹き飛ばしを回避しながら鎖を手に取る。
ここからは闘技祭の焼き直し。
撹乱戦術に見せかけて転倒を狙う。
棺桶を軸に高速で駆け回る。
「成る程の、攻め手が無いから我慢比べに持ち込む…悪くは無いけんど。ワリャには及ばんよ」
「知って…らぁ!」
「ま、その意気や良し。ここいらで〆よか」
「『晴流浮楽々』」
一が水月を一度だけ振るえば全方位に風が凪ぎーー気付いたら俺は地面に伏していた。




