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幻想旅団Brave and Pumpkin【UE】  作者: 睦月スバル
三者三様、金策戦線
110/225

ノブレスオブリージュ1

アステルとナズナがメインの外伝です。

pvがそろそろ一万だって、凄いな…凄くない?


アステル・フォン・ゼッケンドルフは貴族だった。

そう、貴族だったのだ。

しかしそれは昨日までの事。

彼はその日、居場所を追われた。

始まりは貴族同士のありがちないざこざ。それがどういう風の吹き回しかツケがいつのまにか自分に回っており、間抜けにも無一文で放り出された。

晴れてアステル・フォン・ゼッケンドルフはこの世から消滅し、浮浪者のアステルが誕生したのだった。


■■■■■■■■


《アステル》


「…あーあ゛、金無いわ飯無いわ挙句にベットも無いと来た!!怠っ、メチャクチャ怠い!!」


因みにこの俺、アステルは元貴族にしてはあり得ないくらい口が悪い。

金も無く、カツアゲ紛いの行動を繰り返した最近では周りの目を気にしなくて良い開放感からか口の悪さに磨きがかかりいつしか裏通りに住まうゴロツキのような口調になってしまった。


「…生きるって暇過ぎるだろ…こりゃ非行に走るのも分かるな。だって退屈すぎるからな、ウン」


そう呟きながら、我が物顔で裏通りを闊歩する。

裏通りはやはりと言うべきか薄暗い。

その薄暗さに紛れて誘拐や不貞、暴力、窃盗、あらゆる悪は起きる。


だから多分、彼女に会う事も必然だったのだろう。


「ふぐっ…だ、だれか…」


見れば少女が男に押し倒され掛かっている。恐らく誘拐されてからのお楽しみ、と言った有りがち過ぎるムーブを今正に経験しようとしているのだろう。


別に正義感に突き動かされた訳じゃなかった。


退屈凌ぎの紛い物の正義だ。

それは極悪人がごく偶にする人助けと何ら変わりがない。


男の尻に火を着けてやると男は滑稽にもあちち!と言いながら悶え苦しんだ。


その間に少女の手を取ると久しぶりの表通りーーコロウスが誇る天下の往来に出た。

しばらく往来とはご無沙汰な生活を送っていたからか久しぶりの太陽光が目に沁みる。


「あ、あの、あのっ!!助けてくれてありがとうございますっ!!」


「ん、良かったな」


人助けをしても、当然腹は満たされない。

仕方ないと、また裏通りでカツアゲなりスリなりで飢えを凌ごうかと思案している時だった。


「待って下さい!あのあの、私、まだ恩返し出来てないですっ!!」


「は?」


この少女、恩返しと言ったか。

恩返しするなら三食の飯とベッドにして欲しい。或いは酒と花位か、俺がおっ死んだ時に共同墓地に手向ける、って感じで。


「取り敢えず、うちに来て下さい!」


「おいおい、マッチポンプとか考えないのかよ、何か?馬鹿なのか?」


そう言うと彼女はクスリと微笑んで。


「あなたはそんな人じゃないです」


笑顔でそう言い切った。

確定した、彼女はどうやら頭が弱いらしい。加えて先ほど襲われ掛かっていたからかパニックで思考が非論理的にもなっているようだ。


「そうかい、んじゃな」


そう言って去ろうとすると。


「いえ、行かせませんよ」


先回りされる、こんなガキっぽい事を何度も繰り返して面倒になった俺が降参すると彼女はむふぅと胸を張って、口元をニマニマと弛緩させた。

可愛いけどウザい顔である。


溜め息をつきながらも彼女の後ろに付いて彼女の家に向かう。

時折俺が姿を眩ませまいかとチラチラとこちらを見てはその度に笑みを浮かべるのがとても心臓に悪い。


「着きましたよ!うちは温泉宿やってるんです!!」


「温泉宿…!!」


ご飯→ある。

寝床→ある。

温泉→諦めていたがあるのは僥倖。寧ろメチャクチャ嬉しい。


ギャングエイジから足を洗ってこの温泉宿に永久就職したら、どうだろう。

多分土下座すれば…いや、土下座しなくてもこの温泉宿で働けるかもしれない。

そんで賄いとか出して貰って夢の安定生活…。考えるだけでヨダレが垂れる思いだった。


「?どうしたの」


彼女は俺の不審な態度を見て首を傾げた。


「人助けってするもんだなって思って」


…まぁ、その実打算に裏付けされているのだが。


「取り敢えず上がって上がって…ママ!!帰ったよ!!」


そう言うとのっしのっしと恰幅の良い大らかそうなおばちゃんが上から降りてきた。


「ナズナ!!お帰りなさい!!もうっ!帰りが遅いから誘拐されたかと思って気が気でなかったわ!…で、その子は?何処かで見た気がしたけれど、友達?」


「えーっとね、…あなた、名前は?」


「アステル・フォン・ゼッケ…じゃなくてただのアステルだ」


ついつい癖で貴族の名前を名乗ってしまったが、今の俺は只のアステル。

捨てられた癖に今更未練がましく名乗るのは女々しい感じがして嫌になった。


「フォン・ゼッケ…ンドルフ…?ナズナ!この方は貴族様じゃない!!ウチの娘が何か致しましたでしょうか」


「いや、俺はただのアステルだ。んで…ナズナ?の命の恩人…らしい?」


「そうなの!アステル君が誘拐されたのを助けてくれたの!!」


今にも目から星が溢れるのでは無いかと思える位目を輝かせながらそんな事を言うものだから夫人も何やら勘繰るような目をする。要約、下世話なアレだ。


「まぁまぁ…この子ったら…」


生暖かい視線が突き刺さる。


「そうだママ!まだお礼してないの、何か出来そうな事無い?」


来た。


「あーっと、それなら」


息を吸い込む。


「俺をここで働かせやがれ下さいッッ!!」


思わず変な口調になってしまった。

これが、彼女。

ナズナとの生活の始まりだった。


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