出会いは自殺から
空から少女が降ってきたらいいのに。
男だったら誰でも一度は妄想したことがあるだろう。
そしてそれが美少女で、仲良くなって恋に落ちて……なんてことも考えるだろう。
でも現実にそれを目撃するのは、あまり気持ちのいいことではない。
夜の十一時ごろ、僕の目の前に少女は降ってきた。それも凄い速さで。
大きな砂袋を屋上から放り投げたような、重たく鈍い音がした。
少女はコンクリートに叩きつけられて一回跳ねた。
そしてそのまま転がって静止した。
突然の出来事に僕は目が点になる。
交通事故だったら僕も何度か脳内でシミュレーションをしたことがあるので、ここまで硬直しなかったと思う。
しかし、空から少女が降ってきた場合は別だ。
妄想はしていたが想定はしていない。
それもこんな現実的に落ちてこられても困る。
腕を伸ばして、ふわっと受け止めるどころではない。
僕は硬直が解けたので少女に近寄る。
頼りない街灯に照らされた少女の顔は血まみれだった。
たぶん、口と鼻から血が噴き出たのだろう。
この間も少女はピクリとも動かない。
そばには五階建てのマンションがあり、最上階の部屋の窓が開いているのが見えた。
おそらく位置的にあのベランダから飛び降りたのだろう。
僕は救急車と警察に連絡した。
面倒ごとに巻き込まれるのは御免なので名前は伏せた。
気付けば野次馬が出始め、人が人を呼び、ねずみ算式に増えていく。
僕はその中に混じり、事の成り行きを見守った。
どうやら少女は即死だったらしい。
打ち所が悪かったそうだ。
マンションの五階から飛び降りたので、約五十キロの速さでコンクリートに叩きつけられたことになる。
それに、あれだけの血を吐いていた。どこかの臓器がやられたのだろう。
いずれにせよ、少女は救急車に乗せられて行ってしまった。
野次馬たちもゆっくりと四散していき、僕も同じように帰路につく。
布団に潜り込んで電気を消すと、あの音がいつまでも耳にこべりついて取れなかった。
肉の塊が地面に落とされた音。
頭で再生すればするほと、少女が地面に叩きつけられる映像も一緒に浮かんでくる。
さすがに眠れないので音楽をかけた。
聞き慣れた音楽のおかげで不安が和らいだのか、気付けば僕は寝てしまった。
***
次の日、目覚めると信じられないことが起きていた。
昨夜のことがニュースになっているかと思いテレビをつけた。
僕は手に持っていたリモコンを落としてしまった。
これは夢なのだろうか。
いつからが夢だったのだろうか。
一週間、時間が巻き戻っていた。