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立派な夜空の魔法使い

作者: 花の人

 あるところに、とても人間思いな優しい魔法使いの青年がいました。

 

 彼が三日月のステッキをひょいと振れば、たちまち奇跡が人々を包む。

 

 そんな彼は、人々から尊敬されていましたが、同時に妬まれ、恐れられてもいました。


 魔法使いはそんな人々の思いにも気付かないまま、自分の魔法を人のために使い続けました。


 そんなある日の夜のことです。


 朝から何も食べられず、空腹に耐えかねて路地裏でうずくまっている少年を、魔法使いは見つけました。



 なんて可哀想なんだ。



 魔法使いは思いました。


 食べ物など魔法で幾らでも作れてしまうのに、世界にはこうして飢えに苦しむ子供たちがいる。


 魔法使いは、世の中の子供たちを救おうと決心しました。


「私が食べ物を作ってあげよう」


 魔法使いは三日月のステッキを、星々で輝く夜空に向けて振りました。

 

 するとたちまち星々は流星群となって、魔法使いの手のひらの上まで流れ落ちて来ました。

 

 そこにあったのは、色とりどりのこんぺいとうでした。


 魔法使いが微笑んでそのこんぺいとうを子供に差し出すと、子供は満面の笑みを浮かべて、それを口のなかに放りこみました。


「ありがとう、魔法使いさん」


 純粋な笑顔から放たれたお礼の言葉は、魔法使いの心を強く突き動かしました。


 それから魔法使いは、毎夜毎夜飢える子供たちにこんぺいとうをあげて回りました。


 子供たちが飢えから救われていくのを見て、魔法使いは満足していました。


 しかし、そんな日々は長くは続きませんでした。

 

 ある日、魔法使いが今までと同じように子供にこんぺいとうを作ろうと夜空にステッキを振りかざしても、何も落ちてこなかったのです。


 どうしたのだろうと空を見上げると、そこには星々の美しい輝きはなく、真っ黒な闇と欠けた月が空に浮かんでいるだけでした。


 魔法使いは、星からこんぺいとうを作りすぎて、星を夜空から消してしまったのです。


 悩んだ魔法使いは、ついに欠けた月をバナナに変えて、子供に渡してしまいました。

 

 夜空から光が消え、このままでは太陽すらも食べ物にされてしまうかもしれないと思った一部の人々は、魔法使いのことを悪魔と呼びました。


 それは前々から魔法使いを良く思っていなかった人が言い出したことでしたが、その呼び名はたちまち世界中に伝わり、いつしか魔法使いは世界中の人間から恨まれる存在となってしまいました。


「夜空を元に戻せ!」


 人々の怒りの声を聞いて、魔法使いは困惑しました。

 

 魔法使いは子供たちのためを思って行動したはずでした。

 

 しかし、結果的に多くの人々を困らせ、怒らせる結果となってしまったのです。



 夜空を元に戻さなければ。



 魔法使いは反省しました。


 その日から、魔法使いは毎日夜空を元に戻すための方法を探るために、外に出掛けました。


 人々は魔法使いを見ると、みんな嫌そうな顔をして、離れていきました。

 

 それは彼が救った子供たちですら例外ではありませんでした。


 深く傷付いた魔法使いは、広場の椅子に座り込んでしまいました。


 そんなときでした。

 

 魔法使いの姿に気付かず、広場で遊んでいる少年の姿を魔法使いは見つけました。


 魔法使いは直ぐに立ち去ろうと腰を上げましたが、その瞬間、子供が盛大に転び、頭を強く打ってしまったのです。


 見かねた魔法使いは子供に近付き、「大丈夫?」と声をかけましたが、少年は魔法使いに怯えてどこかへ逃げ去ってしまいました。


 悲しくなった魔法使いは、視線を下げました。


 するとそこには星が浮かんでいたのです。


 それは少年が頭を打った際に生まれた星でした。


 魔法使いはそれを持って帰り、夜になるのを待って空にあげてみました。


 すると夜空には、小さくながらもキラキラと輝く一つの星が生まれていたのです。


 魔法使いはようやく、夜空を元に戻す方法を見つけました。


 それから、魔法使いは人々の頭をステッキで叩いて回り、そこから生まれた星を夜空にあげ続けました。


 人々を傷付けることに抵抗感はありましたが、それも人々のためと思い、辛い気持ちを封じ込めて、毎日誰かの頭を叩き続けました。


 当然、人々からすればたまったものではありませんでした。


 夜空に星が戻ってきてこそいるものの、人々はそれ以上に自分を傷つけられることが不愉快でした。


 その怒りは徐々に徐々に溜まっていき、そして遂に爆発しました。


 人々は徒党を組んで、魔法使いを痛め付けました。


「よくもやってくれたな!」


「同じようにお前も傷つけ!」


 魔法使いは一切抵抗しませんでした。


 ただ一方的に殴られているだけの魔法使いに、人々は次第に興味が失せ、一人、また一人と去っていきました。


 傷だらけの姿で地面に寝転がり、空を見上げていた魔法使いは、ようやく本当に人々を救える方法を見つけました。


 そこには自分の傷と引き換えに生まれた、幾つもの星が浮かんでいたのです。


 それからは、魔法使いはひたすら自分の頭を叩き続けました。


 どこもかしこもたんこぶだらけになりましたが、彼にとっては誰かを傷付けるよりはずっと簡単なことでした。


 何年も毎日毎日自分を傷付け続ける魔法使いの姿を見て、人々は反省しました。


 魔法使いはいつだって人々のために動いていたのだということが、ようやく本当に分かったのでした。


 魔法使いの頭はみるみる醜くなっていきました。

 それと引き換えに、夜空には星が一つ、また一つと戻っていきました。


 そして数十年後、全ての星が夜空に戻ったとき、魔法使いは重大な問題に気付きました。


 星は全て戻すことはできても、月だけはどうしても戻せなかったのです。


 魔法使いは考えました。どうすれば完全に夜空を元に戻せるのかと。


 そして、何十年も使い続けてきた、魔法のステッキに目を向けました。


 それは三日月の形をしているのです。


 魔法使いはすぐに覚悟を決めました。


 それを失えば、もう一生魔法を使うことができなくなります。


 魔法使いではいられなくなります。


 しかし、魔法使いが魔法に望むことは、最初のときから何も変わっていませんでした。


 どれだけ人に傷つけられ、裏切られても、それだけは決して曲げなかったのです。


 魔法使いは、三日月のステッキを夜空にあげました。


 そして、夜空は昔と同じ輝きを取り戻しました。


 魔法使いではなくなった、顔の醜い老人のことを、今では人々はこう呼ぶのです。


「立派な夜空の魔法使い」と……


公立受験まであと三週間もありませんが、最後にこんな短編書いてみました。

受験終わったらまた色々書けると思います……多分……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 星を金平糖にしたり、月をバナナにしたりする世界観が面白かったです。人を助けたいと言う魔法使いの純粋さが素敵ですね。
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