3-1「迷子、そして襲来!?」
☆Side ???☆
突然だけど……僕の背中には、翼がある。
あ、オシャレな表現とかじゃないよ? 本当に生えてるんだ。飛べない翼だけどね。
いつか飛べるように、毎日練習してるんだけど……なかなか上手くいかない。
この物語は、そんな僕が、翼を広げて飛べるようになるまでのお話。
……らしいです。
-過去の枷と未来へ飛ぶ翼 竜の里編-
*Side Fio*
朝にマルトンの町を出て、それから数十分。次の町『ウォーラ』を目指して、あたしは地図を片手に歩いていた。
雲の間から差す日と、五月の風が心地いい。気温、20度かそこらぐらいかしら……根無しだから野外にいることが多くて、段々そういうの掴めるようになっちゃうのよね……。
「ハーティ、付いてきてる?」
あたしは後ろを振り返りながら言う。今日は急ぐ理由も無いし、向こうのペースに合わせようかな。
「大丈夫ですよー」
後ろから、ふんわりした声が返ってきた。
マルトンで持ち物を色々整理し、ハーティは自分の青いカバンを手に入れた。
それと、服も新しいのを買った。というか、出会った時に着てた1セットだけじゃ足りなくなると思って、あたしが買わせた。
今は上の服が、白いシャツの上に、水色と青の上着。正面の胸元だけ、大きなボタンで留められてる。それから、胸元にイルカの小さなバッジ。
それと白い丈が長めのスカートに、元から履いてた青い靴。青とか白が好きみたい。これだけでこの子のバイト代の大半がなくなっちゃった訳だけど……まあ、しょうがないわね。
「可愛い……このトカゲ」
「せめて哺乳類の範疇で間違えなさい」
……おかしい。
「地図だとこの先は平地のはずなのに……いつの間にか辺り一面森林ね……」
地図ばかり見過ぎで、周りの変化に目もくれずに進んでしまっていた。ハーティは旅初心者だし、あたしがしっかり周り見とくべきだったのに……。
「でも、しっかり地図見てたってことは、尚更間違えることも無いはずなのに……」
「あの、フィオさん……」
ハーティがあたしの地図を覗きながら言う。
「……上下逆じゃないでしょうか?」
へ?
いやいや、そんなはず……方位記号がちゃんと右上に……あれ、無い?
「あ……フィオさん、ちょっと左手どかしてくれますか?」
「え?」
地図から左手を話す。
三角付きの十字線が、左下に居た。
『逆ですよ?』と、他人事みたいに。
「こんの……こんの紙切れがあああああっ!!」
「フィオさん落ち着いて! 姉様が言ってました、5歳児と喧嘩するより物と喧嘩する方が幼稚だって!」
気づくとあたしは地図を思い切り地に投げつけ、そして叫んでいた。
「大体コイツが! 方位記号がもっとデカければ! 赤とかオレンジとかで地図からはみ出るぐらいにデカく書いてあれば! ホントこんなんだからちょくちょく税金上がんのよこの国!」
「フィオさん! 地図作った人関係ないです!」
はあ……はあ……。
「なんか疲れた……戻ろうにもだいぶ深くまで入っちゃったみたいだしそうだこのまま死んだ方が獣の栄養分になれるし」
「フィオさん! フィオさん!」
「いや待って、いまホントに凹んで……」
「そうじゃなくて!」
そう言うハーティの顔に焦りが見える。そうじゃなくて……?
「何か……聞こえませんか?」
「…………そういえば」
草を掻き分けるような音。辺りに止まっていた鳥が、驚いたように飛び立つ音。
……誰かいる。それも、こっちを伺うように隠れてる。
盗賊?いや……いや、物音は1人分か2人分ぐらいしか聞こえない。そんな少人数で盗みを働くとも考えにくいし、そもそも盗むつもりなら、さっさとあたしたちを取り囲むはず。
とりあえず、あっちはあたしたちに姿を見られたくない。それはほぼ確定ね。
だとしたら……暗殺……とか?
いや。狙いが名家出身らしいハーティだとしても、この子が森を彷徨ってるなんて情報が手に入るわけない。それにあたしも、命を狙われるようなことをやらかした覚えはない。
「フィオさん……」
「……話しかけないで。ちょっと集中したいから」
あいつは襲ってくる? 多分そうだろう。少なくとも、こっちになんらかのアクションを仕掛けてくる。
こっちは……武器はサバイバル用のナイフ一本。地面は土。あたしの『エレメントワーク』は、あくまで土をロープに変えるだけ。威力の高い鞭にすることはできない。攻撃できても、そのあとの反撃は免れない。そうなるとハーティも巻き込みかねない。
どうしよう……思った以上に追い詰められてるわね……。
「フィオさん!」
「!?」
その刹那。背後の草が大きく揺れ、その中から何者かが飛び出して来た。竜のような巨大な右腕を構え、あたしたちの方に突っ込んでくる。
「間に合ってよ……!」
あたしは地面を強く踏みつける。辺りの土が形を変え、ロープとなって空中へと飛び出した。
ロープは敵に向かってまっすぐ伸びていく。体を捉え、巻きつこうとしたが、間一髪で躱された。そのままこっちに襲いかかってくる。
「ハーティ! 転ぶんじゃないわよ!」
「え、はいい!?」
驚くハーティを、あたしは両手で思い切り押した。ハーティはその勢いで、そしてあたしは反作用の力と脚力で後ろに退き、敵の攻撃を避けた。
「よし……今度は逃さないわよ!」
再び、あたしは地面を踏む。今度はさっきの倍、四本。向こうも攻撃の後の隙が出来ている。
優秀でエコなロープたちは、振り向いたアイツの腕と足にガッチリと絡みついた。
「うあっ!?」
敵が驚きの声をあげた。でもなんか、思ってたより高い声……。
「……女の子?」
ハーティが呟いた。まさか……あたしはしゃがみこみ、転倒したその顔を覗き込んだ。
「……女の子?」
無意識に、同じ感想を漏らしていた。紫の髪の、可愛らしい女の子。しかも、あたしたちより歳下にも見える。
いや、それよりも。
「何、この腕……」
竜のような右腕は、飾りや武器ではない。正真正銘、彼女の肩から生えていた。