表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/53

1-2「フィオとの出会い」

「何してんの?」


「え……」


 見上げると、そこには見知らぬ1人の女の子がいた。ちょっと古ぼけた、おヘソが見える赤い服。男の子みたいな短めのズボンの下には、黒いニーソックスを履いている。長いオレンジ色の鮮やかな髪が、風になびいてる。持ち物は傷や汚れがあるけど、すごく綺麗な人だ。


 その後ろには……。


「大きい荷物……」


「あ、会ってすぐそこ触れる?」


 女の子は、背中に大きなリュックを2つ背負っていた。右手にも、一回り小さい鞄を持っている。凄い、力持ちなんだ……。


「まいいや。どうしたの、こんな所で。道の端でしくしく泣いてるから、何事かと思ったわよ」


「ごめんなさい……」


 そんなに堂々と泣いちゃってたんだ……。


「ほら、とりあえず落ち着いて。どっから来たの? 女の子が1人で何やってるわけ? ……って、あたしが言えたことでもないけどね」


「えっと……私は……」


 なんて言えばいいんだろう。神授がダメだったから逃げて来て泣いてました、って? いや、この人もそんなこと言われても困っちゃうだろうけど……。


「……ま、言いたくなきゃ良いわよ。あたし、この辺で一休みして行こうと思ってたから。一緒にどう? 食べ物とかちょっと持ってるし」


「ああ……ありがとうございます」


 ……優しい。すっごく優しい! 嬉しい!


「……なんでそんな、目キラキラしてんのよ」


「え、してました?」


「してたしてた。さてと……とりあえず座ろ」


 女の子が川辺の岩に腰掛ける。私は……お隣座っていいのかな?


「あたし、フィオ。あんたは?」


「ハーティです」


「オッケー。はい、ハーティも食べな」


 フィオさんはそう言って、私に紙袋を1つくれた。中を見ると、いい焼き色のついた丸いモノが顔を出した。


「これは……」


「あんパン。知ってるでしょ? ほら、こっちも飲みな」


 フィオさんはそのまま、今度はビンを一本くれた。牛乳だ。


「はむっ。うぅん、あの町のあんぱんも良い!」


「あの町、って……?」


「ああ。昨日まであたしがいた町。他の町にもあんパンは売ってたけど、あそこのはかーなり良いわね」


「色んな所、歩いてるんですね」


 んんー、と言ってから、フィオさんはパンを飲み込んだ。上機嫌に足を揺らしている。


「まあね。あたし、国中旅してるの。今目指してる町が4つ目ぐらいかな。きままに歩いてるの」


 きままな旅。私にはとおっっても無縁な話。自由に出かけたりなんて、したことなかった。


 なんだか、フィオさんが眩しく見える。いや、きっとホントに眩しいわけではないんだろうけど……。でも、なんだかフィオさんの姿が、明るくおっきく見える。


「フィオさんは、凄いです。私、今はもう行くあてもなくて……」


「そう……」


 フィオさんの少し悲しげな声が聞こえる。ダメダメ、暗い話はダメだ。


「まあ、それでもとりあえず歩いてみることね。あたしだって、確かな行き先や目標は無いし」


「そうなんですか?」


「そうそう!」


 言うと、フィオさんは力強く立ち上がった。


「あたし、子供の頃から両親がいないせいで貧乏でね。まともに学校にも行けなかった。だから、人と同じように生きることなんてできない」


 フィオさんは、遠い空を見上げている。綺麗な瞳に、微かな天空の青い光が重なる。


「でもね、それでもいいの。『真っ当に生きられないから、せめて楽しく生きる』。だからあたしは……この旅を楽しむの。この人生をね!」


 楽しむ。生きる。


 フィオさんの言葉が、私の中で響いた。何かをそっと揺らしているような気がした。


 私は何をしてたんだろう。さっきからずっと、暗く沈んで、途方にくれて。


 ダメなんだ、それじゃ。フィオさんは前を向いてる。前を向いてる彼女が、輝いて見えるんだから。


 私も、そうなりたい。


「……フィオさん! その……つ、付いて行っても良いですか!?」


 え……何!? 私、急に……とっさに言っちゃった……!


「良いよ」


「え?」


「当てがないんでしょ? だったら付いて来たって良い。ただし、荷物は半分こで持ってもらうわよ」


「わ……分かりました!」


 しっかり返事できたのか、それは分からない。でもフィオさんは、ただ穏やかに微笑んでくれた。


「じゃ、行きましょうか。『マルトン』って町を目指すわよ」


 マルトン、私の街じゃない。あまり知らないけれど、確か西の方の町だったはずだ。マルトンにそびえる、すっごく大きな木の絵を、前に本で見たことがあった気がする。


「分かりました! 行きましょう!」




 *Side Fio*


 ……んで。


 あたしの隣に、頼もしい……かは、よく分からない仲間が加わった。


 ハーティ、か……。結構綺麗な子だ。白いふわふわした髪は触り心地良さそうだし、ちょっと良い匂いがする。服が変に白くて質素で、ちょっと違和感あるのが気になるけど。


「あのさ、ハーティ? 持つ荷物は半分でいいんだけど?」


「いえ……大丈夫、です……!」


 なぜかハーティは、あたしの荷物の8割以上をかっさらっていき、無理して背負っている。いやいや無理してるでしょ。腰落ちてるし、結構踏ん張って無理やり支えてる感じだし。


「ほら、荷物貸して」


「ダメです! 持ちます!」


 あたしが強引に取ろうとしても、彼女はヒョイっと体を回して器用に避けてしまう。


 あたしはもうちょっと気楽に旅したいのに……同行し始めちゃってから言うのも何だけど、なんか温度差すごいのよね……。


「……ハーティ!」


「は、はぃぃ!?」


 ちょっと大きな声で呼んでみる。そして、ちょっと頭を軽く叩いてやろう。しっぺみたいな感じで。


 あたしはハーティの前髪にポンっと触る。あー、やっぱり。いい感触だ。


「限界迎えられたりしたら、こっちが困るのよ。分かったら荷物渡しなさい」


「はい……」


 半分ぐらいの荷物が、あたしに返ってくる。かれこれ数週間旅をしてきたこともあって、このくらいの荷物はもう慣れっこだ。


「……フィオさん!」


「へ?」


 反応するや否や、ハーティがあたしの方に近寄ってくる。何いきなり……。


「それ!」


「ふぇ!?」


 何故だか、頭をポンと叩かれた。


「えへへ。フィオさんの髪、サラサラしてます」


「……何よ、いきなり」


「え? これ、挨拶か何かじゃないんですか? てっきりそうなのかと……」


 ハーティはきょとんとして、首をかしげている。


 この子……天然か? こんなのが挨拶な訳ないし、挨拶だとしても唐突すぎるでしょうが……。


「ごめんなさい……でも、フィオさんの髪の毛、綺麗だしすっごく良いです」


「え……いやいや、あんたの髪こそフワッフワして……」


 あれ? いつから褒め合いっこになったっけ?


「えーっと……もうこの話終わり! ほら、早く行くわよ」


「はい!」


 素直なんだけどな……。かなりの天然だ。よく覚えておこう。


 結構振り回してきそうな子だなぁ……退屈もしないだろうけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ