3-3「竜人」
□Side Hearty□
「なるほどのう……」
お爺さん……長は、髭をいじりながら私たちを見つめる。服の下から、すごい大きさの胸筋がはみ出ている。神話の本で見たなあ、こんなムッキムキの人……。
「あの……」
「……立ち話もなんだ、うちに案内しましょう。付いてきてくだされ」
長はそう言って、巨体でゆっくりと反対を向き、歩き出した。隣のお姉さんも歩き出す。
「大丈夫でしょうか……」
「うーん……とりあえず、あの2人は敵意感じないし……さっき襲って来た女の子だけ異端だった、って信じるしかないわね。今ここで逃げたところで、森で迷うだけだろうし」
「はい……」
不安を胸の奥に引っ込めて、私たちは歩き出した。
-長の家-
戸を開けると、部屋には緑の床が広がっていた。その上には座布団が置かれている。部屋の隅の棚には壺が飾られている。
「何これ。初めて見たわ」
「畳って言う床ですよ、フィオさん。あのクッションは座布団って言って、こういう部屋の作りを和室って言うんです」
「へえ……」
私たちは靴下で畳に上がる。
「どうぞ、お座りくだされ」
長が座布団に正座し、私たちにそう促す。私たちもそれになかって座り込んだ。
「フィオさん、足伸ばしちゃダメです。こうやって」
「あー、そうなの? 面倒ね」
私の正座を見て、フィオさんも伸ばしていた足を曲げてくれた。
「さて……見たところ旅人のようですな? 長旅で疲れたでしょう、まずはお飲みくだされ」
そう言って長は、彼の横に置いてある大きな緑の急須を手に取る。更に横に置いてあった湯飲みも取り、並べた。
「大丈夫、冷たいものですし、30分前に淹れたばかりです。お嬢さん方が来るまで飲んでいたものですから。ささ、どうぞ」
長は湯飲みにゆっくりと飲み物を注ぐ。出て来たのは……。
「……マジ? そっからココアでるもんなの?」
……茶色っぽい液体だった。和風初めてのフィオさんも、流石におかしいと思ったみたいだ。実際おかしい。
「あの、それってお茶入れるものなんじゃ……」
「まあ、たしかにそうですが……いかんせん、緑茶は苦過ぎて口に合いませんでしたわい」
「子供か!」
フィオさんのツッコミが炸裂する。なぜだか、このツッコミを聞くと安心するようになってきた。
「長ー。差し入れ持って来ましたよ」
さっきのお姉さんの声が戸の向こうから聞こえて来た。
「うむ。入って良いぞ」
「はい。失礼します」
戸を開け、お姉さんが部屋に入って来た。何かを入れた籠を長の前に置く。
「……なんでこっちは苺が入ってんのよ」
「さてと、それでは……」
「あたしの話ぶった切ってくるわね」
「……まずは、お詫びさせていただきます。この度は我が里の若造が……ユイナがご迷惑をおかけしました」
長は私たちに頭を下げた。
「そんな、気にしないでください」
「ま、怪我しなかったしそれは良いけど……色々聞きたいことはあるわね」
フィオさんはココアを一口飲み、続ける。
「まず、あんたたちは何者なわけ? ユイナって子の凄い強さからして、人間ではないんでしょ、やっぱり?」
「はい。最早隠すこともありますまい、説明しましょう。我々は、"竜人"と呼ばれる種族なのです」
竜人。人じゃないって、本当だったんだ……。
「竜って確か、大昔の生き物ですよね?」
「いえ。たしかに数は少ないですが、今でも微かに世界に生き残っています。そして我ら竜人は、その竜と人間とのハーフの一族です」
「てか、今『我々』って言ったわよね? 長も……もしかしてお姉さんも?」
フィオさんが尋ねると、お姉さんはコクリと頷いた。
「もちろん、儂もです。と言うより、この里の住人は皆、竜人です」
長も答える。するとフィオさんが、急に膝立ちした。
「……すみませんでしたあっ!! どうか命だけはあっ!!」
そして、頭と両手を思いっきり床に叩きつけた。バタァン、と痛そうな音が響く。
「落ち着かなされ。誰も攻撃する気などありませぬわ」
「ホント!? ホントでしょうね……いやホントにございますか!?」
フィオさん、慣れない敬語を……すっごく震えてるし。
「大丈夫ですよ。自分で敵意は感じないって言ってたじゃないですか」
「うん……そうね、ありがと。里の全員と戦うとしたら12回ぐらい死んでたわねあたし……」
フィオさんはようやく落ち着き、座布団に座り直した。
「でも……じゃあ何で、ユイナちゃんは私たちを攻撃して来たんですか? 何か悪いことしちゃったんでしょうか、私たち……?」
「いえ……そうではありますまい。ユイナは少し、その……特殊な子でしてな」
長が言う。その顔はうつむき、なんだかその先を語るのをためらってるように見える。
「……そもそも我々竜人は、一部の人間に忌み嫌われているのです。動物と人との間に存在する、汚い人種として」
「そんな……」
汚いだなんて……少なくとも私には、全然そんな風には見えないのに。
「勿論、我々は人間が嫌いではありません。むしろ、調和できることを祈っております。しかし、ユイナだけは違う」
長は一度息を深く吸い、また続けた。
「……ユイナは、人間に両親を殺されたのです」




