桃太郎って、どんなのだっけ?
童話祭2018、参加表明し忘れていて応募できなく残念です。
企画の設定が面白かったので書いてみました。
if桃太郎です。
あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
おばあさんが川へ洗濯に行くと、大きな桃が流れてきて、それを持ち帰って割ると、中から小さな男の子が現れました。
子供のいないおじいさんとおばあさんは、大喜びでその子供に桃太郎と名付け、育てることにしたのです。
その子供はあっという間に大きく育ち、鬼ヶ島に鬼退治に行くと言い出したのです。
村を荒らす鬼たちに困っていたおじいさんとおばあさんは、心配しながらも意気込んでいる桃太郎を送り出すことにしたのです。
※
桃から生まれた俺、桃太郎!
ちょっと名前がダサい気がするけど、桃太郎と言えば鬼退治して、最後に鬼から奪った財宝でウハウハできる最強主人公だ!
今日は鬼ヶ島へ旅立つ日。 身支度を整えるなか、桃太郎はおばあさんにひとつ重要なお願いをするのを忘れませんでした。
「なぁ、ばあさん!黍団子を作ってくれよ!」
「きびだんご?わかったよ。旅で食べられるよう、団子をいっぱい用意してあげるねぇ。」
「おう!鬼退治して、財宝持って帰ってくるからな!」
おばあさんの黍団子の発音が少々怪しい気がしましたが、ともあれ作ってくれるようで安心です。
成長するまで短い期間でしたが、恐ろしい鬼と戦おうとするなんて、桃太郎は恩を忘れない優しい子です。
財宝さえあれば、老い先短い爺さんと婆さんについでに贅沢させるくらい余裕だぜ!
出発前におばあさんから、あつあつの大きな袋を受け取った桃太郎は、意気揚々と村を出て行ったのでした。
※
「なんだか、この袋あちぃな。出来立てだからしょうがないのか?まぁいい。黍団子さえあれば後は簡単だ。」
桃太郎が鼻歌を歌いながら歩いていると、進む方向に、犬・猿・雉がいるのが見えました。
2匹と1羽は、こちらを見ています。
「何を持っているの?」
「おいしいの?」
「おなかすいたー!」
近づくと動物たちは声をかけてきました。桃太郎は笑って答えます。
「これは、黍団子だ!うまいぞ(たぶん)!今から鬼ヶ島に行くんだが、鬼退治を手伝ってくれるなら、くれてやるぞ!」
「いいよー。」
「ちょーだい!」
「おなかすいたー!」
桃太郎は、黍団子と引き換えに2匹と1羽を仲間にするようです。
ははは!団子一つで仲間になるなんて安い奴らだな。まぁ、勝負が決まっているんだから俺に着くのも当然だ!
黍団子を…なんか、でかくないか?両手でちょうど持てるくらいのサイズなんだが…。
や、柔らかい。餅か?まだ、熱いし出来立てだからこんなもんか?
黍団子ってこんなんだっけ?そういわれると黍団子の実物、見たことねぇや。
まぁ、餅も団子も黍団子も、大して違いはないか!
「ほらよ!ひとつづつだ!食え!」
桃太郎は、犬・猿・雉の前に黍団子をおいてあげました。
動物たちは喜んでそれを食べました。
たべま…………。
「…!!!」
「ぐっ!!!」
「うがー!!!」
動物が団子食うなんておかしいと思ったんだよ!
猿!なんで一口でいった!窒息してんじゃねぇか!
雉!嘴が餅に取られて開かなくなってんじゃん!
犬!牙に餅が絡まって、口の中ヤバくなってる!
桃太郎は親切に、困っている動物たちを助けてあげました。
動物たちは、桃太郎に感謝して仲間になることに…。
かんしゃ………。
「さいてー!」
「嘘つき!」
「ネバネバ!」
え、行っちまった!あいつら居なくて大丈夫なのか?
まぁしょせん、犬と猿と雉だ。大した戦力でもないだろうし、そう考えると、俺の力が強いってことだろう。
あいつらがいなくても大丈夫だ!そうに決まってる!
…やっぱりこれ、餅だよな?黍団子じゃねぇよ…。
桃太郎は、動物たちを仲間にすることができませんでした。
動物たちは、振り返ることなく去って行ってしまいました。
少し肩を落とした桃太郎は、一人で鬼ヶ島に向かっていきました。
※
「ここが鬼ヶ島か?案外近いな。そうだよな。村に頻繁に来て暴れるくらいだし、近くても当たり前か。」
鬼ヶ島に着いた桃太郎でしたが、さっそく鬼に遭遇しました。
鬼はとても大きくて強そうです。金棒も持っています。
「おい坊主!何しに来た!」
「はははは!俺は、桃太郎だ!鬼退治に来たんだ!村から奪ったものを返せば、許してやろう!降伏しろ!」
「何を言ってやがる!黙れ!」
鬼は持っている金棒を威嚇するように、桃太郎に向けて振りました。
桃太郎は笑ってその金棒を、左腕で受けました。
…吹き飛びました。近くの木に当たって、止まりました。
「ぐぅ…!」
「なんだお前!?弱いな!?」
いてえ!!マジ、痛い!俺、最強じゃなかったのか?
金棒持った鬼とかどうやって退治すんだよ!無理だろ!
腕折れてないよな。痛いけど、動く…。
やばい、鬼こっち来た!
何かないか。何か…!
「うわ!何しやがる!うわ!ネバネバしてキモイ!!!」
桃太郎は、警戒を緩めた鬼に、餅を投げつけました。
目に餅が張り付き、取ろうとした手にも餅がつき、どうにもできなくなった鬼は、近くの木々にぶつかりながら奥へと逃げていきました。
すべて、桃太郎の作戦だったのです。
桃太郎は、その鬼を追うことで、鬼を一網打尽にするつもりなのです。
良かった…。もう、帰りたい。
でも、この餅、もしかしていい攻撃手段かもしれないな。
まだあったかいし、追撃されるくらいなら、このまま追いかけて、この餅で混乱させてから逃げよう。
いや、逃げじゃない!
鬼がどのくらいの規模かわからないしな!偵察だ!
逃げて行った鬼が入った洞窟の中には、鬼たちが談笑していました。
油断しています。
それを、桃太郎は用心深く観察しています。
「助けてください!」
「ハハハ!何やってんだお前!餅か?」
「ネバネバだな。頑張れ。」
「そんなぁ。取ってくださいよー!」
「ハハハ!嫌だよ。…まて。何かいる。」
「え。」
「お前、つけられたようだな。」
「…!」
そんな鬼たちの前に桃太郎が姿を現しました。堂々とした様子です。
「これを投げてきたヤツだ!名前は…そう餅太郎!村で奪ったものを返せば許すって言ってたんだ!敵取ってくださいお頭ぁ!!」
「ほう。面白い奴じゃねぇか。叩きのめしてやる。」
「やれるものなら…やってみろ!」
やばい!こっそりつけてたのにバレた!
鬼の数は少ないけど、やっぱり強そう!さっきの奴、下っ端だったんだ!?
っていうか、餅太郎じゃねぇし!!
やばいやばい!お頭こっち来る!
…こいう時は、餅だ!
よけられた。…まだまだ!もっと投げてやる!!!
「当たらねな!ハハハ!……うお!ネバネバする!キモイ!もう投げるな!やめろ!」
「お頭!今助けに…足に餅がくっついた!キモイ!!!」
「餅まみれ。もうヤダ。」
「餅コワイ。餅コワイ。」
桃太郎は、鬼に餅をたくさん投げました。
はじめはわざと当てずに、後ろの鬼が近づいてきた時のための罠にしたのです。
さらに、初めに当たらなかったことで油断させた鬼に、確実に当てるためでもあったのです。
一度餅に当たった鬼はその餅に気を取られている内に、次の餅が当てられ、もう、餅まみれです。
他の鬼にも餅が当たって、餅まみれになった鬼たちは戦意をなくしてしまいました。
「もうやめてくれ!奪ったものはすべて返す!」
「え。いいのか?」
「本当だ。言うことはすべて聞く!だからもうやめてくれ!」
「ネバネバ、気持ち悪いよー!」
「餅コワイ。餅コワイ。」
「…わかった。そういうことなら、これで許そう。」
うわぁ。俺がやったんだけど、餅攻撃えぐい!!
でも、これで降伏してくれたなら良かった!財宝奪って帰ろう!
…財宝は…これか?布に米に酒か?金銀財宝じゃないのか…?
「おい、ここにあるのが全部か?」
「そうです。それが全部です。本当です!餅投げないで!」
「餅コワイ。餅コワイ。」
「そうか。なら仕方ないな。これから村を襲うなよ!」
「はい!わかってます!」
「餅コワイ。餅コワイ。」
こうして桃太郎は鬼を降伏させ、村から奪われたものを取り返すことができたのです。
村に戻った桃太郎は、村人たちに感謝され、おじいさんとおばあさんと幸せに暮らしました。
※
「桃太郎!良く戻ったね。」
「本当に鬼から取り返してきたのかい。すごいじゃないか!」
「…いや。ばあさんの餅のおかげだよ。」
「そうかい?きびだんごがわからなかったけど、おなかが減らないように、いっぱい作って大きめに丸めたのが良かったのかねぇ。」
「ああ。うん、そう。」
「そうかい?おや、あんなにいっぱい入れたのに、もう全部食べちゃったのかい!?」
「いや、それは…。」
「まさか、食べ物を粗末にしたんじゃないだろうねぇ。」
「いや!そんなことはない!」
「そうかい?もう餅はしばらく作れないよ。」
「うん。大丈夫。(餅はもう爆弾にしか見えない。食べる気しない。)」
「そうかい?(こんなにお餅好きだったんだねぇ。次もいっぱい作ってやるねぇ。)」
村の物を取り返してみんなに分けたら喜んでもらえたけど、金銀財宝もなかったし、全然俺の知ってる桃太郎と違ったじゃねぇか。
しかも、あんな餅の攻撃力見たら、俺まで餅恐怖症だよ!
もう、餅はいらねぇ!!
これからは、普通に生活してやる!
※
その後、桃太郎の配下となった鬼たちは、村で人手と力仕事を必要とするときに手伝いに来るようになりました。
鬼たちのおかげもあり、畑も広がり収穫物も多くなって村全体が幸せになったとさ。
「餅太郎さーん。これ、ここでいいっすか?」
「おい、鬼!餅じゃねぇよ!」
「え、餅?餅投げるの勘弁してくださいね。言うこと聞くんで!」
「餅コワイ。餅コワイ。」
「そんなに、餅が好きかい?うれしいねぇ。」
「ばあさん!もう、餅はやめてくれー!!」
桃太郎が餅好きと知った村人たちから、桃太郎は毎年たくさんの餅をもらったそうです。
めでたしめでたし。
…この物語って、餅太郎の話でしたっけ?あれ、桃太郎ですか?…そうですか。
おしまい。