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それでも私たちはこの世界に誕まれた 2

作者: たろ

希望と別れ、夕陽に照らされるバスに揺られながら私は思った。

この世界はまだ創られて間もない。創造主には様々な考えがあり、これから生み出すべきものもたくさんある。

でも、まだこの世界には私と希望……2人しかいない。バスは走っているけれど、運転手なんかいないし道路も街もない。語られるまでは……誰かが観るまでは、そこには何も存在しないのだ。

そう、この世界には観測者さえ存在していない。あるのは2人の少女とバス、そして外側にいる創造主だけ。


希望が空を渡れるように、私は外側の世界を知ることができる。それが私たちの生きる内側の世界の理。そこに住まう全ての人々は、超常の力をひとつだけ身につけている。

ありふれた設定。つまらない前提。でも、それに従うのが私たちに与えられた唯一の生き方であり……運命……。

窓の外には、流れてゆく静かな街の暮らしがある。そこに住んでいる人々は、自分たちが「今誕まれた」ことを何も知らない。

ベビーカーを押している女性。商店を営む男性。楽しそうに帰宅の途につく学生たち。みんなみんな、たった今この世界に誕生したのに。みんな何も知らない。


希望が私のことを、虚無的な人間であると感じていることは知っている。それは当然なことだろう。世の中の成り立ちを全て理解していて、そのことに絶望しない人間はいないはずなのだから。

あるいは、私のこの感情や性格さえ……そうあれかしと設定されているだけで、この心の虚しささえ意味を持たない作り物なのかもしれない。

「でも、私は確かに今ここにいる」

口に出してみた。これは私自身の気持ちから生み出された素直な言葉で、創造主が作ったものではないはずだ。

なぜなら、「私」は「私」として歩き始めたひとりの人間なのだから……。世界を知ることができるという設定を背負って誕まれた「真実」という少女は、「真実らしい言動」をしなければならない……と、そう定められている。

「真実」は、「真実」の言葉で今の気持ちを表現しなければいけない。真実は世界の在り方について、自分だけの意見を持っていなければならない。

「世界」は既に動き始めた。ここから先は、創造主すらも想像できない形へと進んでゆくのだろう。

そして、今はまだいない観測者たち。創造主よりも遥かに偉大で、そしてこの世界と外側の世界を繋ぐそれぞれの主人たち。

観測者の数だけこの世界が存在し、その全ての世界で私たちは違った私たちとして生きてゆく。

そうして世界は広がってゆくのだ。天に投げられた数多の星々の如く、無数にある「他の世界」と同じように。

物語は誕まれ、紡がれ、受け継がれ、そして伝説になる。広がりゆく大きな流れの中で、私たちは真に意思を持つ独立した生命として、記憶の宇宙を生きてゆく。


バスは「私の家」に近づいてきた。そろそろこの章も幕を閉じる頃合いみたい。次に私たちの物語が語られるのがいつになるのか、どこから始まるのかはまだわからない。

「ふふっ……頑張ってね、創造主さん?」

そう、観測者さんたちが増えるまで。そしてこの世界が無限の可能性と広がりを生み出すまで。

私は座席を立ち、バスを降りた。今誕まれたばかりの運転手さんに会釈も忘れない。初めまして、この世界の新しい住人さん。

夕闇迫る道を歩きながら、私は考えた。

私の家って、どんなところなのかな?って。



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