オカルト・召喚
魔法円、OK。護身用杖、OK。心身の浄化、OK。
日時、場所、その他諸々、OKOKOK。
そして覚悟、もちろんOK。
僕こと『岡流斗』は今年で高校三年生。今まではこんなオカルトばかりに傾倒して学校の勉強なんてまともにやってこなかったが、これからはそうはいかない。真面目に受験勉強をして、まともな大学に入って、ちゃんとした会社に就職するんだ。オカルトや魔術の研究ばかりしていても、将来にはまったく役にたたない。有名な魔術師が「魔術師は職業にならない」と言ったように、そんなものでは食っていけない。
そもそも僕だって、こうした魔術が本当にあり得るのかすら半信半疑だ。今までだって色んな魔術を試してみたが、完全な神秘体験をしたことなど一度もなかった。魔術の結果の全ては成功したのか、失敗したのか、それすらもハッキリしないものだった。
だから、だから僕は、今日この悪魔召喚魔術を最後に、オカルトから足を洗おうと思う。言わばこの魔術実験は僕の卒業論文であり、卒業製作である。完全燃焼するために今まで独学で学んできた全てをこの術式に詰め込んだ。三日間徹夜して準備し、代わりに昼に学校で寝た。この術式で驚くべき体験が出来ないのなら、僕はもう一生魔術に手を出さないだろう……まあ、もとよりこれで引退する気なのだが。
さて、この術の進行の確認をしよう。まずここは人気の無い廃病院。窓も全て割れており、外の空気が入ってくる。悪魔が出やすい、呼びやすい場所は様々な説があるが、僕は近所ではここがうってつけな気がしたのだ。そして、ここの床にチョークで書いた魔法円で自分の身を守りつつ、延々と呪文を唱え続け、悪魔が隣の魔方陣から現れたら杖を向けて脅かしつつ要求をする。要求はズバリ「財宝のありか」。ここで言う「ありか」とは、どうやらうまい儲け話も含んでいるらしいので今の時代でも有効な質問なのだ。
それじゃあ始めるか、僕の最後の魔術を……
辺りはシンと静まりかえっている。風すらも吹かない。そんななか、僕の声だけが響いている。何も起きないが、まだ始めたばかり。当然だ。一心不乱に呪文を唱え続ける。呪文は相変わらず院内に響いて……おかしい。響き過ぎてる。これじゃあまるでトンネルの中や、あるいはもっと、風呂場くらいに自分の声が反響している。全身に鳥肌が立つ。
……怖い。もう、やめようか。……いや駄目だ。ここでやめたら不完全燃焼。まだだ、まだまだ続けるぞ。僕は決心し、呪文を強く唱え続ける。今や自分の声が耳元で聞こえるが、これはむしろいい傾向なのかもしれない。そして、
「っ!」
気が付くと僕は真っ黒の影達に囲まれていた。影達は僕に近付こうとするものの、魔法円にはじかれてそれはかなわない。まだだ、こいつらはお目当ての悪魔じゃない!気にせず呪文を唱えるんだっ!すると今度は僕の目の前にある別の魔方陣が輝き出した。……来る、ついに来る!!
途端にその輝きがさらに強くなり目を開けられない程になったかと思うと、やがて光は収束してそこには一つの人影があった……うん?というか、完全に人間の男に見えるな。歳は20代ほどだろうか?髪は短く切り揃えてあり、体つきは結構ムキムキだ。服装はどこかオンボロ、というよりかは単に古めかしい。……確かに『悪魔の辞典』のイラストは案外創作だったり、そもそも悪魔は人間に化けたりすることもあるのは知っていたが……ここまで完全に人間に見えるとは驚きすぎる!
しかし、何はともあれ、
「せ、成功だーっ!!!」
と、僕が叫ぶと同時に、僕を取り囲んでいた影達が一斉に悪魔の方を向いた。ってか、まだ君達いたのね。そして、何と、その全員が悪魔めがけて飛びかかっていった!
「あ、悪魔さん!あぶなーい!!」
瞬間、その悪魔は腰に着けていた剣を抜き、群がってきた影どもを、何と全匹一刀両断した!
「アンデッド系か、強くは無かったから良いが……」
「さ、さすが、悪魔だ……」
すると、悪魔はこちらを見て言った。
「……君は魔術師か?さっきから人を悪魔呼ばわりはいけないと思うぞ。俺は普通の冒険者、名はライト、ジョブは剣士だ。」
「……お、おう。」
この悪魔は何を言っているんだ?やっぱり僕を騙そうとしているんだろうか?てか、財宝のありかを知ってる悪魔なのだから「冒険者」を騙るのは分からなくも無いけど、「ジョブは剣士」ってなんだよゲームかよ!何はともあれ悪魔は姑息、僕を混乱させて向こうに有利な状況に持っていきたいとみた!せっかく魔術が成功したんだ、そんなアホな手にひっかかるか!ここはスルーだ!僕は手筈どおり杖を悪魔に向かって構え、一言かける。
「我が名はルートン!汝、我に財宝のありかを教えたまえ!神と王と魔王の名によって命ずる!!」
これで今の僕には神の許可と、王の権利、そして目の前の悪魔の上司にあたる魔王の権威が貸し出されており、この杖は悪魔にとって最悪の武器になっている。さらに僕はこの魔法円の中に入っている限り、悪魔は手出し出来ない。予定では、これで成功するのだが……
「お、おい。なんのつもりだ!いきなり杖を向けて!財宝のありか?そんなもの初対面の相手に教えられないだろ!それに俺はこの世界に来たばかりなのだし、って痛い!杖でグリグリするんじゃない!ちくしょう、こっちの世界は平和なんじゃなかったのか!?」
なんか、世界がなんだとか言っているな……もしかして自分は異世界から転移してきた人間だとでも言いたいのか?そんなんで人間が騙せるとでも思っているのか?……むしろ、自分でそう思い込んじゃってるのか?とりあえず杖を押し付けてみてはいるが、そこまでダメージは受けていないようだ。うーん?杖の方は作り込みが甘かったのか?
「ストップ!!一旦話を聞いてくれ!」
そう言って悪魔は杖を振り払ってこちらに近づいてきたってアレ?防御用の魔法円の中に入ってきてるぞコイツ!!ヤバイ喰われる!?逃げろー!と思った瞬間肩をつかまれてしまった。さ、サヨウナラオカルト、サヨウナラ受験勉強。どうやらホントに最期の魔術になったみたい……
「ちょっ、逃げないで!俺は、神様の手違いで死んでしまい、異世界から転移してきた人間だ!悪魔なんかじゃ無い!」
アレ?まだその設定続けるの?ひょっとして別の意味でもヤバイ悪魔を召喚しちゃった系?なに、悪魔界でもそういうの流行ってんの?逆に人間の世界で流行ってたからそれが反映されてるの?
「良いか?これを見ろ!」
悪魔は自分の指先を少し切り、血を出した。
「ホラ、赤い血だ!悪魔の血じゃ無いだろ!」
「い、いや。悪魔の血なんて見たこと無いですし。」
「な、なんならステータスを見せる!ステータスオープン!!」
おいおい、なにいってんだコイツ?「ステータスオープン!!」って、もう完全にヤバイ奴だよ!悪魔かどうか分からないけど、少なくともヤバイやつだということは確定だよ!そんなものがあるのはゲームの世界だけのはな……し……
……おや?空中に何か見慣れたものが浮かんでいるぞ?
…………………………
ライト Lv30
種族:ヒューマン
ジョブ:剣士
HP:300
MP:60
攻撃力:40
防御力:35
魔法攻撃力:10
魔法防御力:35
素早さ:30
スキル
剣撃 二連撃 重量の一撃 ファイア ウィンド
気配察知 罠察知 お手軽料理 男の料理
…………………………
ナニコレ。まるっきりRPGじゃん。スキルに変なのがある以外まるっきりRPGじゃん。
「な、人間だろ?」
「……あのー、ステータスってなんですか?」
「ステータスはその人の能力情報だろ?レベルやスキルなどが分かりやすく表示されるものじゃないか?本来他人からは覗けないが、一部スキルと許可によって見ることもできる……あれ、こっちの世界には無いのか?」
「レベルってなんですか?」
「……レベルも無いと言うのか?魔物を倒して黒い魔力を吸収することで経験値が溜まり、経験値が一定まで行くと上がるのがレベルだ。レベルが上がると突然あらゆる能力値が上昇するのだ。」
「スキルってなんですか?」
「おいおい!スキルすらこっちには無いだと!?スキルとは日々の生活や戦闘スタイル、または練習によって自然と取得されるもの。ジョブや個人によってスキル化の向き不向きがあるが、行動がスキル化されると威力や完成度、安定性が大幅アップされるのだ。」
「あ、あなたは誰なんでしょうか?」
「いや、言っただろ。俺は冒険者のライト、ジョブは剣士。こことは別の世界のファンタゲリア王国からやって来た。……悪魔では無いぞ、念のため。」