ファンタジー・転移
あれ、ここはどこだ?さっきまで俺は普通に町の中にいたというのに、今は見覚えの無い部屋に突っ立っている。
いや、待てよ。俺はあのとき車に引かれそうになった少女をかばって代わりにひかれたはずだ!となると、ここはもしかして……
「おや、気づいたかい?」
「っ!」
いつのまにやら、目の前に青年が立っていた。
「まあまあ、そんなに警戒しないでくれ。まあ職業柄仕方ないのかもしれないけど。」
青年はなだめるように言ってくるが、ここがどこでこいつが誰か分からない以上警戒しない訳にはいかない。俺たちにとって、ちょっとした油断が命取りになるんだからな。
「……あなたは、誰ですか?ここは?」
「……まあいいや。ここは死と生の間、一種の死後の世界といってもいいね。」
死、だと……
「そしてこの僕は……まあ、一種の神様といったところかな?」
神様?それはさすがに無いと思うが、確かにただ者ではないオーラはある。しかしもはやそんなことは問題ではない。今重要なのは
「俺は……死んだのか?」
「うん、そうだね。心当たりはあるでしょ?」
ああ、やっぱりあのとき俺は……何となく嫌な予感はしていたんだ。こんな仕事をしていれば、嫌でもそんな直観が磨かれていくものだ。まさか、あんなところで死んでしまうとはな。
「でも安心してね。実は君の死は本来あってはならなかった事なんだ。神様の手違いってやつ?あっ、僕のミスじゃ無いからね、恨まないでよ。」
目の前の青年は手をヒラヒラ振って自分のせいじゃ無いと言ってるがその動作の軽いこと軽いこと、人一人の生死がかかっていることだというのになめているのか!
それに神様の手違いだと?確かにこんなあっさり終わりだなんて、嘘だと思いたいものだが……
「でも、だからといって元いた世界に蘇生させるわけにもいかない。そこで君には異世界転移をプレゼントしようと思うんだ。今、異世界で召喚が行われようとしている。その儀式に少し介入して、君を召喚に巻き込むんだ。」
「い、異世界?どういうことだ?さすがについていけないぞ?」
「異世界転移は異世界転移だよ。君の知り合いの政義くんや影気くんも異世界転移経験者だ。二人とも優秀な冒険者だったでしょ?」
マサヨシ、ああ、あの暑苦しい正義漢か。あいつは血の気が多いのかすぐ戦おうとするし、何かにつけて説教するし、まあウザい奴だった。まあ、悪い奴では無いのかもしれんが。
そしてエイキ、あいつはそんなマサヨシさえもしのぐウザさだったな。やたらと人を見下すしクールぶってやたらと敵に止めをさしたがるし、んでもってやっぱり説教してくるし。おまけにマサヨシを毛嫌いしてたな。
まあ確かに戦闘能力は優秀だったけど、だったけどなあ……
「いやいや、そんな顔しないでよ。異世界転移といっても十人十色だよ。おまけに少しの間暮らせる金貨も渡しておくからさ、異世界転移しようよ。あっちはそちらよりは平和だよ。」
まあ、どうやら他に選択肢は無さそうだ。平和、といっても冒険者の俺が平和を甘受できるか分からないが、行くしか無いんだろう。覚悟を決めよう。また、新しい冒険の始まりなんだから。
「うん、覚悟は決まったね。はい、金貨いっぱいの財布だよ。では、異世界へ!!世界番号021、国名日本、悪魔召喚の儀式に介入!!」
自称神様の雰囲気が変わり、大きな声で何かを唱え出した、と、同時に俺の体が青く光っていく。いよいよまったく新しい冒険が始まるんだな!状況を冷静に受け止めてみたら、逆に冒険者の血がうずいてきた!
「世界番号012住人、ライト!世界間転移、開始!!」
神様?が思いきり叫ぶと体がどんどん透明になっていき、意識が、遠くに……
◆◇◆◇◆
一人の冒険者が去った死と生の間には神と名乗った青年だけが突っ立っていた。
「うーん、あちらの世界の住人の一部に気付かれたかもなあ。」
その言葉とともに、一人の女性があらわれた。もっとも背には羽がはえているため、普通の女性といっていいのかは不明だが。
「あら、よろしいのですか?彼が異世界、それも魔法や魔物のいる世界の住人だとばれれば、かなり厄介なことになるはずですよ?あなたが少し世界に干渉して、記憶を消したりすべきでは?」
「いやいやグルギアくん、あちらの世界にはこんなことわざがある。よく覚えておきなよ。曰く、『神は死んだ』と。死人に口無し、僕には何もできないよ。」
「……『神は死んだ』はことわざじゃ無いですけど、まあいいです。」