私の両手
「ごめんね・・・」
焦点すら定まらない程の状況にも関わらず
必死に私の眼を見続けている。
「この怪我じゃ、あなたは助からないの・・・」
私は、神様でもないし
命という物を扱える立派な人間じゃないけれど
「でも、こうするしか無いの・・・」
失血の影響なのか震えながら曇り掛けている眼で
私を見ている。
「大丈夫だよ」
左手は震える頬に
右手はゆっくりと撫でるように
私は手をかざす。
「もう、痛くないからね」
私の右手が、上から下へ撫で下ろしおえると
その数秒の間で、眠る様に息をひきとっていた。
「また、いつかね?」
魂にも質量があると何かの研究文を見たことはあるけれど
それ以上に、眠ってしまった身体は重く私の左手にのし掛かる。
「おやすみ」
どうして私に、こんな力があるのか
分からない・・・
理由を説明する事は困難だけど
透明な死の存在が私には見えるのです。
たぶん、オーラとかそう言った類いの
個々の持つ特定の電磁波が可視化されているのだと想う。
「ごめんね、こうする事しか出来なくて・・・」
この力は、まだ死の存在が見えていない相手には
同じ事をしても何も起こる事はありません。
あと、まだ行ったことはありませんけど
死の存在が見えている人間に対しては
両手をかざしたことはありません・・・
「いつか・・・」
私にも、死の存在が見えたなら
その時は、同じ様に自分へ手をかざしますね。