眉毛を剃った
ベッドの上。壁に背を預けて座って本を読んでいた。幸せな僕。
そこに突然飛びかかってきた君。馬乗りになった君は、僕の顔を見て言った。
「眉毛剃ろっか」
そう言うと、君の手にはどこからともなくハサミを取り出す。あれよあれよという間に本を取り上げられ、眼鏡を外され、僕は眉毛を剃られてしまうことになった。
ショキショキと。ハサミを動かして定期的に毛を落とす。手際よく、丁寧に君は眉毛を整え始めた。
真面目な表情をした君は、とても綺麗で、かっこよかった。
いつも見ない近さに君がいた。真剣な瞳をこちらへ向けていた。
じっくり見られてしまう。この沈黙のままでは心臓が耐えられない。
視線を逸らした僕は、携帯型の音楽プレーヤーを見つける。
「ちょっと手を止めて」
そうお願いして、僕はそれを手に取った。
入ってた曲は、直裁に恋を謳ったJ-POP。左耳につけたところで、少しふくれっ面の君と目が合う。
僕は少し考えて、残ったイヤホンを君の右耳へ。
キョトンとした顔の君。「一緒に聴きたくて」と言えば、唇にキスが一つ。「好き」
赤いほっぺになった君は、また真面目な顔でハサミを動かす。
僕はその顔を見て思う。綺麗だ。
もっとよく見ようと、目を凝らす。右眉はカットされていて、左目だけで。
君のシンメトリーの瞳に、下手なウインクした僕が映った。
「何見てるの」
じっと見ている僕へ、君が告げる。僕は口を開かない。君を見るのに夢中だった。
無言に少し怒ったのか、音が少し乱暴になる。ショキショキ、から、ジョリジョリ、と言った具合に。
嫌な予感がする。思った途端、ぶちりと何本か眉毛が引っかかって抜けた。あまり痛みはない。
「ごめんね」
不機嫌が不安と取って代わった。そんな顔の君に、「別にいいよ」とだけ伝えてまた黙る。
少し戸惑った君は、もう一度切り始める。ショキショキ。
一曲目が終わった時、君は大方、伸びすぎた眉毛を切り終え、ハサミをカミソリに取り替えていた。
今度は先ほどよりもっと丁寧に。ずっとゆっくり整えていく君の手は、とても穏やかだ。
左右をカミソリが往復する度、目を瞑りなおしては開く僕は、百戦錬磨の眠気と戦っていた。
ついに陥落した僕。うとうとと首を壁に預けていると、何かが眉をなぞる。
目を開ければ、君が僕の眉を撫でていた。
すっと撫でて、途中から思い出したかのように優しくなでてきた。なんども、なんども。
僕は言った。
「ありがとう。今日も好きだよ」




