表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もうひとつの、

作者: 芳田文之介




 山あいのひなびた町にひっそり閑とたたずむ、ささやかな駅舎。

 ホームにぱらぱら見えていた人影が、最終列車に飲み込まれてゆく。もの悲しい汽笛が霜について響くせいか、凛々として、(こがらし)のようにも耳にとまる。

 煙突から、もくもくと吐き出される煤煙。それが、霜とひとつになって闇にとけてゆく。

 やがて、列車は、汽笛の余韻をホームにわびしく残し、黒洞々たる闇の中へと消え去った。




「思えば、気ぜわしい一日だったよなぁ……今日は」

 最終列車を見送った若い駅員は、ひとりごとのようにつぶやくと、ふと線路から目をはなし、遠くを見るような目をして、長く、深い、吐息を吐いた。

 なるほど、いつになく、ドタバタとした一日を、この若者は過ごしていた。

 現に、こういうことがあった。

 たとえば、教会の斜向(はすむ)かいにある理髪店のおやじ。彼は、この界隈きっての繁華街を有する、その最寄り駅まで行って、そこで、娘さんの誕生日プレゼントを贖おうと張り切っていたそうな。だが――。

「おい、駅員さん。財布を盗まれっちまったよ」

「え、本当ですか!!」

「ああ、さっき、トイレにいったときだろう。若いあんちゃんがぶつかってきた、たぶんあのときだ」

「そ、そりゃぁ、大変だ……と、とにかく、おまわりさんを呼びましょう」

 そういって、若い駅員がおまわりさんを呼ぶと、小さな町だけに瞬く間に噂は燎原の火のごとく町中に広まり、おまわりさんばかりでなく、教会の神父さんやら、町の助役さんやら、はたまた理髪店の隣の肉屋の主人まで現れ、てんやわんやの大騒ぎ。

 それから、そう、駅前の花屋の刀自。彼女なぞは、こうだ。

「ねえ、駅員さん、ペットの仔犬ちゃんが線路に落っこっちゃったの……早く助けて」

そんなことを言って、構内中を大仰な喧騒に巻き込む始末……。

 そのほかにも、ひきもきらさず厄介な出来事が立てつづけに起こった。





***


つづきは、別の投稿欄『よしだぶんぺい』にて。あしからず。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ