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ヒヒイロノカネ  作者: えるむ
第一章
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第一章④後編


「……んっ――」


 屋上に戻ると、彼女は意識を失ったまま倒れていた。

 頬には涙の筋があり、腫れたままの目が少し痛々しい。

「ビョウ」

 神様の名前を呼び、視線をリンクさせる。 

 彼女の体の内側から生えていた大量の刀身は、ずぶずぶと皮膚の内側にゆっくりと飲み

込まれていった。


「ふぅ……」

 その様子を見ながら、安堵の息が漏れる。


『シュウ~上出来やん。あんた中々やるなぁ』


 嬉しそうにボクの背中をバンバン叩き続ける神様。

「全部ビョウのおかげじゃん。ボクはお願いしただけ……」

『言うたやろ? ウチは“シュウのイメージした通りのこと”を実行しただけや』

 神様は人差し指をピンと立て、仰々しく頷きながら続ける。


『だからこの結果はシュウのおかげ。そこは変わらんっち思っといてよかよ』


「そう、なのかなぁ……」

 ニコニコと笑い続ける神様は、無言で頷いていた。


『さて、今日はあと三つくらいで片付きそうやな』


「あと三つ? そんなにやるのっ!?」

『当たり前やぁ、死にたがりはこっちの時間なんて考えてくれんけんのー。めんどくさい

人間の多いこと……やれやれやなぁー』


 笑い続ける神様が遠くに視線を投げると、赤い扉が出現する。


『さぁ、シュウ。次のお手伝いやで』

「あ、その前に……――」

『なんや、忘れもんか?』


 意識を失っている女の人の持ち物を探り始めた。


『おお、寝てる女の体をまさぐるとか……シュウ、あんた結構大胆やねぇ』


「ちがっ! ここに居ることを誰かに知らせとかないと、この人が風邪とか引いちゃうか

もしれないだろ!? やましい気持ちとか、無いからっ!」


『ほほーん、まぁ……そういうことにしといたるわぁ』

 ニヤニヤしている神様を横目に、目的の携帯電話を焦りながら探し続ける。


『……結構、巨乳じゃの。むむむ……。尻も……むむむむむ……』


「……」


 神様はペタペタと自身の胸を触りながら、ぼそりと呟く。

 それを無視しながら探っていると、ようやく携帯を見つけることができた。


「あった……」


 現在地を地図で調べ建物の名称、住所などの情報を履歴から、一番最近通話したであろ

う人にショートメールにひと言添えて送信する。


〔死にたくない、助けて〕


 無事送信ができたことを確認すると、大きくため息をつく。


「はぁ……疲れた……」


『それじゃ、次やな……行くで、シュウ!』


 神様はボクの手を強引に引きながら、次の“お手伝い現場”へと導いていく。



■■■



「お疲れさん。やー、シュウさん、やれる子やん」

「どうも……どれも、ホント疲れた……」


 神様のお社に、疲労困憊で戻ってきた。


 精神を病んだ子供を育て悩み抜いて疲れ、最終的に手に掛けようとしていた父親。


 強烈ないじめに合い、いじめっ子の家を燃やそうとしていた学生。


 仕事に追われ身も心もボロボロになり、ふとした瞬間人を刺そうとしていた会社員。


「全部重すぎるんだけど……社会の闇に触れ過ぎた……」

 今日“お手伝い”として出会った人たち全員をそれぞれの方法で救っていった――。


「まぁ、全員、シュウの顔も覚えてないやろけどなー」


 全員の体から生える刀身を全て神様がへし折る、というなんとも力業な方法で。


「……やったのは全部ビョウだけどね」

 はぁ……と深いため息をひとつ。

「いやー、ホント助かったわー。あれ等が全部“穴”になっとったら、正直対応するのが

かなーり面倒になっとったからなぁ」


「“穴”?」


「……あーいう強烈に病んだやつ等が地上から消えるとき、その場所に穴が開くんよね」

 神様が声のトーンを落とし、続けていく。

「穴が開いた状態がいくつもあると、人間が病みやすくなるらしくてな、今日相手にした

四人が全部穴になってたら……さすがに溢れてしもとったかもしれんの」

「……溢れる?」

「お社の瓶、これな」

 ちゃぷん、と音をたてながら神様が瓶を差し出してくる。

「溢れたら、どうなるの?」

「力が抑えきれんくなって、最悪ウチが消滅するかもしれんねぇ……。派手に爆発とする

かもしれんで? まぁウチもどうなるかは……あんま想像しとうない」


「神様が死ぬかもしれない、ってことか……」


 その後の世界を想像したくなかった。

 あの刀身自体も謎が多く、他人に危害を加えない保証など全くない。


「……そもそも謎が多すぎて、よく分かってないんだけどね……刀身が液体に、とか……」

「ははは、シュウにとってはそうやろなー“神秘的な金属”ってところか?」


「“神秘的な金属”か……火廣金ヒヒイロカネみたいだな」


「ほぅ……そんな名前があるんやな」

「物語に出たりしてる伝承された伝説の金属ってところだね……神具に使われてるとか、

いろいろな話はあるけど……詳しくは謎っぽい」


「いいやん、ウチも今度からそう呼ぶわ。ヒヒイロノカネ!」


「……まぁ呼び方はいろいろあるっぽいからそれでもいいんじゃない?」

「ふふー、なんか楽しいなぁ。ヒヒイロノカネとかはウチしか見えんし、ウチしか知らん

ことやったはずなのに……名称があると、シュウにも伝わる感じが素敵やわぁ」


「そんなもん? ……とりあえず、今日は終わりでいいんだよね?」

「あ、おっけーやで、助かったわぁ。これで百年くらいこっちの世界は大丈夫そう」

「そっか、それじゃあ帰るけど……今何時だ?」

 ポケットから携帯端末を出そうとすると。


「ん? 時間は止めといたから大丈夫。問題ないで!」


 親指を立てながら自信満々の笑顔を浮かべている神様。


「ははは……何でもあり、だな……」


 さらに疲れが増したような気がした。


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