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ヒヒイロノカネ  作者: えるむ
第一章
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第一章④前編

『シュウ……来れた』


 いつの間にかつぶっていたまぶたをゆっくりと開く。

 灯りの少ない道路の真ん中に立っていた。やはり人の気配は感じられない。

 さすがにこのままだと目立ちすぎるので、足早に歩道へと向かった。


「ここって……さっき見てたところ、だよね」

『そうやね。さっきの人間の過去の記憶の空間って感じやな』

「……起こったことは未来に繋がるんだよね?」

『たぶんなー。大丈夫やとは思うけど……初めてこんなんやったわ』

「えええ……大丈夫かな」

『……シュウ、あれ』


 目を凝らすと向かい側の歩道を歩いている女性の姿を捉えた。


「……いた」


 大通りから曲がってさらに暗い道へ入っていく彼女。

 足早ではないことから、まだ彼らとは遭遇していないらしい。


「後を追うね……ビョウ」

『へいへい』


 夜目が効くようにイメージをしながら神様の名前を呼んだ。

 闇の色が薄まり、きれいに見える範囲が格段に広くなる。


 一定の距離をとったまま、彼女の後を追うように歩み始める。


 近づくと彼女が不信に感じると思い、人間では視認できないであろう位置まで離れた。


 少し歩くと、後ろから見覚えのあるワンボックスの車が横を通り過ぎる。

 すれ違うときに速度が下がり、車に乗っていたガラの悪い連中のねっとりとした視線と

ぶつかったが、すぐに視線を逸らされ車の速度が上がった。


『女やなかったから、無視されてしもたんかいな』

「そんな感じだろうね」


 通り過ぎる車を見送り少し歩く速度を上げる。

 そろそろ彼女を彼らが見つける場面だろう。


「ビョウ……あいつらから生えてる……えーと、あの刀身見える?」

『ウチは見えとるけど……シュウに見えるようにすればいいん?』

「いや、ボクは見えなくてもいいよ。ただ……」


 息をのみ、自身が考えていることをそのまま伝えた。


「ヤツらの“ソレ”全部折って欲しいんだ」

『全部かい。ま、ええけど』

「さすがに運転中は事故起こすと危ないから、運転手以外をお願い」

『なかなか神様使いが荒いのぉ、使徒さま?』


 ニヤニヤと笑顔を浮かべている神様がそう告げる。


「頼むよ」


 笑顔でそう告げると真横に立っていた神様はそのまま消えてしまった。


「……」


 立ち止まり、目を凝らす。


 車のボンネットの上に人影が居る。……神様だった。


 水面に飛び込むように、車の中に身を滑り込ませていく。

 普通に進んでいたワンボックスだったが、すぐに変化が起こる。


 急にその場に止まったのだ。


 運転手の男が車を降り、車両後方のドアを開く。

 

 すると、ずるりと力なく道路に転げ落ちるものがひとつ。

 うつ伏せになり、その場で男が動かなくなる。


 何が起きたか分からない様子の運転手がその男を抱え起こそうとするが、糸の切れた人

形のように力の抜けた男は重く、動く様子はなかった。


 必死の形相で声をかけているようだが、反応が返ってくることは無い。


『シュウ、終わったでー』

 

 神様の声が聞こえ振り向くと、大量の折れた刀身を脇に抱えながら食べ始めようとして

いる着物の少女の姿があった。


『残りのアレ、どうするん?』

「車も止まってるし……同じようにしてあげて」

『ほいよ』


 神様が何を思ったのか、刀身を真上に投げあげた。

 それと同時に運転手に真っ直ぐに駆け出し、一瞬で距離を詰めたかと思えば……そのま

ま通り過ぎてしまった。


 それと同時にふらりと男が揺れ、膝から崩れて倒れてしまった。


『よっと……こんな感じでいいかの』


 頭上から雨のように降ってくる刀身を、ひとつひとつ指で摘みながら器用に脇に抱えて

いく姿に呆気に取られ言葉を失ってしまった。

 ただ本人はさして気にした様子もなく再び収集が終わったのか、お菓子を食べるような

要領で刀身をボリボリと食べ始めていた。


「……ありがとう。これでもう大丈夫だと思うけど……」


 目線を遠くへ向けると、女性の後ろ姿が見えた。

 彼女はこのことに気付くことは今後一生、無い。


「そういえばさ……」

『ん? なんね?』


 前から疑問に思っていたことを神様に聞いてみた。


「体から生えている刀身を全部折られると、どうなるの?」

『どう、か……んー、精神の揺らぎが無くなる?』

「……なんで疑問形なの?」

『ウチは人間じゃないけんなー。具体的にどうなるか、までは分からんのよ』

「はぁ」

『ただ、欲望や願望、その人間の想いを根こそぎ刈り取るって感じやね』

「……それって」

『そいつは何も感じなくなる、ちゅうこっちゃな』

「廃人になるってこと……?」

『ん? あぁ、“アレ”はまた生えてくるからな。少しの期間だけ、ってことで』

「……なるほどね」


 すごく危うい会話をしている気がする。


『さて、シュウ……もうええやろ? 帰ろか』

「そうだね。ビョウ……」


 目の前に赤い扉が現れる。


「これで、あの女の人も……救われたよね」

『……たぶんな』


 曖昧な返事を受けながら、今日何度目かの扉をまた開いた。



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