第三話「異世界からの勇者」
今のこの状況を説明する言葉が思いつかない。
いや、説明は出来るんだが、その言葉を使うことに恐怖を感じる。
”異世界”……。
その言葉が脳裏を過った。
異世界という言葉を使う日が来るとは夢にも思わなかった。
さて、どうしたものか。
いや、どうしたもこうしたもない。
俺はただ、恐怖に震えてるだけだった。
どうやって帰る?
しかるべきところには行ってみた。
だが
「異世界から来たなんて信じられませんよ」
と突っぱねられるだけだった。
もちろん俺は引かずに
「俺の住所はエレム国エレム街7-9-5だ。この世界にはない住所だ。調べてもらえれば」
と言った。しかし
「まさか住所を言う人がいるとは驚きです。個人の住所は普通秘密にするものなので、警察はなんの事件もないのに個人の住所を調べる権限はありません」
と言われた。
その後も引かずに調べてもらえれば事件だと分かると説得したが無意味だった。
この世界の警察は要領悪いな。
そして今に至る。
警察に行っても何もしてもらえない。
じゃあ、どうすればいい?
この世界で生きろというのか?
家族も友人もいない世界に?
俺は嫌だね。
もうどれだけ歩いただろう。
恐怖に震えただけじゃない。この世界の今の季節は冬なのか知らないが無性に寒い。
それがさらに震えを増長させる。
俺はその恐怖から逃げるように走り、疲れたら歩くの繰り返しだった。
もう歩く気力もない。
「死ぬのか」
あの神社に行ったことがいけなかったのか?
入ってはいけない聖域だったのか。
だとしたら神様。無礼をお許しください。
もう二度とこんなことはしません。
だから元の世界に……。
その願いを最後に俺は力尽きた。
――。
「ん……んう」
目の前には天井。
「お目覚めですか?」
ふと声をしたほうを見る。
「……」
俺が今見ている女性のあまりの美しさに言葉が出ない。
服装も見た感じ豪華だ。
どこかの国のお姫様を彷彿とさせる。
「どうしました? そんなに見つめて、私の顔に何かついてます?」
「いや、何でもない」
しかし、俺は力尽きたはずだ。
もしや今目の前にいる女性は天使でここは天国か?
「貴方は天使ですか?」
「急に何言うんですか。面白い人ですね。フフフ」
「でも俺は死にそうで」
「倒れてた貴方を私が見つけて兵士の方にここまで運んでもらいました」
そうか、俺は死んだわけじゃないんだな。
それよりも兵士?
まさかだけど
「貴方はお姫様ですか?」
「あまりそう呼ばれるのは嬉しくないのですが、その通りです」
お姫様に拾われるとはどこかの物語の主人公にでもなった気分だ。
しかし、俺はそんなのに興味はない。
異世界にも興味はない。
ということで
「突然ですが、俺は異世界から来ました。元の世界に戻りたいのですが」
頭がおかしいと思われるのは分かってる。
それでも俺は元の世界に戻りたい。
「異世界!? ちょっとお待ちください」
そう言うと、姫様はいそいそとドアを開け出て行った。
――。
待つこと数分。
「お待たせしました!」
晴れ晴れとした口調で姫様は俺がいる部屋に戻ってきた。
「これを見てください!」
何かの本みたいだが
「!!」
その本の内容を見た俺は驚愕した。
その本にはこう書いてあった。
「この世界に異世界から勇者が訪れるであろう」